侍従でいさせて

灰鷹

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選定の儀

選定の儀(3)

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 皆、ユリウスと同じように緊張しているかと思いきや、長椅子に腰かけ話をしている子たちもいて、なかなかに賑やかだった。
 部屋の隅に置かれた一人掛けの椅子に腰かけ、なんとなしに近くで交わされている会話に耳を傾ける。

「やっぱり国王陛下に選ばれるのが一番いいのかしら」

「でも、陛下は既にたくさんの妃や妾がおられるでしょ? 私は、できるだけオメガの妃妾が少ない殿下のところがいいわ。妾同士で発情期ヒートが重なってしまったら、主の取り合いになりますもの」

「成人された王族で正妃も妾も迎えておられないのは第3王弟殿下だけらしいけど、あまり期待しないほうがいいわね。第3王弟殿下は毎年、選定の儀に参加されていなくて、オメガ嫌いで有名よ」

 話をしている子たちだけでなく、室内を見渡すと、この場にいる全員が、宮殿の廊下に飾られた絵から抜け出してきたような、美男美女揃いだった。
 王族の誰かに見染められたらなんてよく思えたもんだと、早くも意気消沈してしまう。

 ユリウスは生まれてからこの方、家の敷地からほとんど出たことがない。勉強は姉弟たちと一緒に家庭教師に習っていたし、14才で初めての発情期ヒートがきてオメガと判明してからは、発情期ヒートの周期が不安定なこともあり、以前にも増して外出を禁じられるようになった。

 そのため、家族や使用人以外の人達とはほとんど出会う機会がなかったけど、自分の容姿には根拠のない自信を持っていた。
 家族の全員が、ユリウスのことを可愛い可愛いと褒めてくれていたからだ。
 大人になった今では、容姿以外に褒めるところがなかったのだろうと、客観的に考えられるようにもなったけれども。

 ふんわりとウェーブした金色の髪とつぶらなアイスブルーの瞳は、家族の誰とも似ていない。顔も覚えていない、亡くなった実母に似たのかもしれない。
 顔は覚えていなくても、いつも母の部屋にいくと、独特の香りがしていたことは覚えている。それが薬草の香りだったと知ったときから、自分でも薬草を育てるようになった。薬草の香りを嗅ぐと、天国の母が近くにいるように感じられた。
 薬草を育てるのが趣味になってからは、以前より日に当たるようになったけど、一時的に赤くなるだけで日焼けはせず、肌は白いままだ。顔の輪郭も小鼻も唇も全て小作りで、せめて髪型だけでも男らしくなればと短く切り揃えてみても、男らしさよりも幼さが増すばかりだった。

 その幼さも含めて家族が可愛いというものだから、自分では、それが唯一の取り柄のように思っていた。
 しかし、ここに来て本物の美男美女たちを前にすると、一般的に「容姿がいい」と言われるオメガの中で、自分が最下層にいる現実を突きつけられる。
 ユリウスと他のオメガたちとでは、道端に咲く名もなき野花と、宮廷の花壇で丹精込めて育てられた薔薇やシクラメンくらいの違いがあった。

 けれど、よく考えたら、それは当然と言えば当然のことだった。
 母の顔は知らないが、父は人がいいだけで、背も低いし顔も凹凸が少なくのっぺりとしている。両親の片方がそれだから、いくらオメガだからって、あひるの子が白鳥になろうはずもない。あひるの子はあくまであひるだった。

 選定の儀で皇族に選ばれなかったオメガは、功のあった臣下に褒賞として下賜されることになるらしい。
 この際、皇族に嫁ぎたいなんて贅沢は言わない。下賜される相手が暴力とか振るわない優しい人ならいいなと願うばかりであった。



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