売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹

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選定の儀

選定の儀(4)

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 開始時刻になると、再び案内役の従僕が現れ、揃って別の場所へと連れて行かれた。
 先程の控えの間が小部屋に思えるほどの、大きな広間だった。奥には玉座と思われる金や宝石の装飾が施された豪勢な椅子があり、その両側には二十脚ほどの一人掛けの椅子が並んでいた。
 その前に横並びで平服するように言われ、オメガたちは全員膝を折って床にひれ伏し、王族の入場を待った。
 まもなくして背後から足音や衣擦れの音が近付いてきて、椅子に腰かける気配がした。

「顔をあげよ」

 奥の方から聞こえてきたから、声をかけたのは国王か、それに次ぐ地位の第一王弟だろう。
 揃って恐る恐る顔を上げると、椅子は全て埋まっており、見下ろす王族たちは二十人ほどいた。そのうち女性は五人。女性は全員アルファで、男性はアルファとベータが半々くらいかと思われた。アルファは体格に恵まれていて容貌も整っているため、見た目でなんとなくわかる。

 国王はまだ三十才と若く、王子は全員幼いため、今回の選定の儀に参加する王族は、陛下の弟君や叔父や叔母君、従兄弟君と聞いている。
 儀式とは名ばかりの、よく言えば顔合わせ、悪く言えば「品定め」といった感じだった。
 肌にねっとりと絡みつく視線は生まれて初めて人から向けられたもので、自分が市中で目にした店先に並べられた商品の一つになった気がして、ひどく惨めな気分になる。

 進行役の侍従に指示され、オメガが端から順に名前や出身地、特技などを述べていく。
 ユリウス以外の全員が、歌や踊り、楽器の演奏などの何かしらの特技を持っていた。着ているものも平民にしては良いものだし、ユリウスのように実家が貴族か、もしくは何らかの後ろ盾があるのだろう。王族の妾になるかもしれない相手とお近づきになりたい貴族がいてもおかしくない。
 剣舞も音楽も早々に挫折したユリウスは、唯一の特技――とも言えない、ただの道楽の範疇である薬草作りを紹介するしかなく、周りのオメガからも王族からも失笑が漏れた。

 オメガの自己紹介が一通り終わると、再びひれ伏すように言われた。
 椅子に座っていた王族の一人が立ち上がる音がする。順番から言えば、玉座に座っていた国王陛下だ。歩き出した陛下は歩みを止めることなく、オメガの列を通り過ぎていく。
 足を止めないということは、誰もお選びにならなかったということだ。陛下には既に妃妾がたくさんいるから、よほど心奪われる見目でない限り、選ばれないのだろう。

 続いて同じように、並んだ椅子の一番奥のあたりで衣擦れの音がする。絨毯を踏みしめるくぐもった足音が近づいてきて、今度はオメガの列の前で足を止めた。オメガの誰かが、頭を上げる気配がする。王族は皆、胸に白い薔薇の花を挿していた。それをオメガの髪に挿すのが選定の証らしい。
 選ばれたオメガは王族に付き従い広間を出ていくため、王族が列の前で足を止めるたびに、一人また一人とオメガの気配が消えていく。
 始まる前は、最悪、臣下への褒賞でも仕方がないと思っていたが、実際に周りのオメガがどんどんいなくなっていく中で残り続けるのは、かなり辛いものがある。
 ついに、「これにて選定の儀は終了にございます」と耳にしたときには、泣きそうになった。

 頭を上げると、部屋に残っていたのはユリウスと進行役の侍従の二人きり。
 一緒に参加していたオメガたちの美しさを思えば、自分が選ばれなかったことは当然の結果と納得できる。
 でも、「ユーリがどの殿下に選ばれるか楽しみね」と言って笑顔で送り出してくれた家族のことを考えると、選ばれなかったこと以上に家族をガッカリさせてしまうことが辛かった。
 しかも、選定の儀で選ばれなかったということは、これからは褒賞として臣下に下賜されるのを待つ日々になる。妾の子でありながら分け隔てなく接してくれた両親や姉弟に顔向けできない思いだった。
 一人ならば、きっと涙を堪えきれなかっただろう。

「イェーガー様にはこれからお会い頂きたい方がいます」

 そう声をかけられたため、重い体に鞭打ってなんとか立ち上がった。

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