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◆第一章
8.
しおりを挟む「オレに任せてもらった方がいい」
嫌だ嫌だ嫌だ。
任せたらオレ、どうされちゃうのだろう?
もうちょっとで承諾しかけながらも、悪あがき。
「――――……っ痛い、こととかは……っ……」
「それは絶対にしない」
「……っ精気っていうのが、もう大丈夫になった時点で、やめてくれる?」
「――――……大丈夫になったら、な?」
「……っ……」
もうすっかり、その気、というのか。
さっきまで、かっこいいけど可愛い犬だった獣人は、なんだかもう、肉食獣そのものみたいな、ギラギラした雄の顔。――――……琥珀色の瞳が熱をはらんでる、みたい。
うう……怖い。
「あ、お前、名前は?」
「……雪兎 千翠」
今更……と思いながらも、名乗る。
「千翠、だな。オレは――――……琥珀だ。呼び捨てでいいぞ」
「琥珀……瞳の色?」
「そう。そこからつけたらしい」
名前は、良いなぁ。コハク。琥珀色。綺麗。
そういえば、首輪に見えてた首の飾りは、おしゃれなチョーカーみたいな感じで、琥珀の首についてる。真ん中には、琥珀色の石。瞳と相まって、すごく綺麗に、見えるけど……。
「ベッドは?」
その言葉に、綺麗、なんて見つめてる場合じゃなかったことを思い出す。
「ベッドは……」
言いたくない……。
「ベッドは、無い、かも……」
自分でも、そんなわけあるか。と思うようなことを言った瞬間。琥珀は、ふ、と笑って。
「え……ぅわ……っ」
ひょい、と荷物みたいに軽々と肩の上に抱えあげられてしまい、焦る間もなく、リビングを出て、「ちょっと……こ……っ琥珀!」とオレが騒いでるのなんてお構いなしに、まっすぐ、寝室に連れてこられた。
「何でここだって……」
「勘……と言いたいところだけど、お前が、この部屋に入ることを嫌がってたから」
「何、それ……」
「だから、オーラとか心の色が見えるんだよ」
……獣人怖い。ほんと怖い。
「お前のオーラは、宝石でいうなら、エメラルドって感じ」
「――――……緑ってこと?」
「キラキラした緑って、感じ。だから、エメラルド」
「――――……」
「さっき、たくさんの人間を見てたが、その色は、あんまり見なかった」
何と言っていいのか、分からないまま、オレは、ベッドに降ろされた。
「……怖がってるだろ」
ふ、と笑う琥珀は、ギシ、と手をついて、ベッドに乗ってきた。
「そっちはオーラじゃなくて、心の色で見える。もっとはっきり言葉で聞こえる人間も多いんだが……」
顎を掴まれて、琥珀の方を、向かされる。
「お前は、全然聞こえないな……」
「――――……」
そうなんだ。よく、分かんないけど……。
「怖いことや痛いことはしないから、安心してろよ」
「――――……」
そんなこと言われても、怖いものは怖い。何されるの、オレ。
後ずさりたくて、後ろについた手は……腕を掴まれて、引き寄せられた。
「……っ」
唇が重なって、ぬる、と舌が入ってくる。
「……っん……」
う、わ……やっぱりこれ……やめた方がいい、かも……。
「――――……っ……」
顔を引いて、キスを外す。
「――――……千翠?」
名を呼ばれて、少し笑われる。
なんか……限界とか言ってたわりに、余裕なんだよな、こいつって……。
「……あの……オレ、自分で、するから……気持ちよくなればいいんだよね? ちゃんと、するから」
そう言うと、また笑う琥珀。
「気にすんな。オレが、最高に気持ち良くしてから頂くから」
「……だから、それが、嫌、で……」
「――――……嫌とか、言ってんのも、最初だけだから、任せとけよ」
「……ンっ…………っ」
また、唇を塞がれて。
――――……あーなんかもう。
……ムカつくけど。……なんか……あ。そういえばオレ。こんな激しいキスすんの、生まれて初めてかも……。
「……っん、う……っ」
舌が長い……気がする。
めちゃくちゃ奥まで絡んで、上顎から奥まで、ざらりと舐められると、ぞく、と腰に何かが走る。
「――――……ん……っ……」
びく、と震えると、琥珀が、喉の奥で笑った。
少しだけ唇が離れる。
「――――…………オーラが気に入ったのと……」
「……っ?……」
「……人間にしては、好みだったんだよな、お前の顔」
「――――……」
ぽかん、と口が開いてしまう。
「……精気も、気に入った顔からの方がいいと思わねえ?」
「――――……っ……」
なんかちょっと、嬉しいとか。
…………なんか絶対間違ってるぞ、オレ……。
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