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◆第一章
7.
しおりを挟む何と言って良いか分からないでいるオレの顔を見て、ふ、と笑う。
「ならこれは?」
「――――……これ、って……?」
「オレが他の奴の所にいかないとして。オレが、精気を得られず、そこらへんで力尽きてもいいとかは、言えるのか?」
引き寄せられて、見下ろされる。
「――――……」
力尽きる……。
「言える?」
じっと、見つめられる。
「――――……ッ」
今言われた事を、ものすごく考える。
いくらお人よしって言われ続けてきて、多少はそれを自覚してるオレだって、さすがに、今言われてることまでは、受け入れる訳には……。
……オレが断って、これを他の女の子とかに、押し付ける、とか無理だけど……。
……または、この獣人が、力尽きて、のたれ死ぬ……とか……?
どっちか選べるなら、のたれ死んでくれと、一瞬思ったのだけれど。
「……っ」
なんかそれもどうしても引っかかる。
そんなオレの表情を見ていた獣人は、オレの腕を離して、すとん、と床に座った。
「……お前が受け入れてくれないのなら、死ぬかもなぁ、オレ」
「――――……っ……」
曲げた膝に肘をついて、顎をのせて、ふー、と大げさに、ため息。
「ここで、このまま死んじゃってもいいのか?」
じっと見つめられて。
……ああ、なんかこいつって、なんか、ものすごく、偉そうなのに、オオカミって感じなのに、やっぱり時たま、犬っぽくも見える。
下から、ちょっと、しょんぼり見つめられると。
きゅん、としてしまう。くっそー、絶対だめだ、これ、絶対演技だ。
だめだ、オレ、こんなのに、騙されちゃ……。
何をされるかよく分からないが、快楽をとか、もう、ロクなことじゃない。
いや、でも……。
ここで、死なれたら……?
はっ。……つか、こんな形の生き物、どーやって、お葬式したらいいんだ?
ぱっと見は人間だから、ペットの斎場じゃ無理だし、でも人間のとこだと、耳生えてるし……っ。耳生えた人間の死体、火葬場に急に持ち込んだら、大騒ぎに……? いやいや、そもそも戸籍もなくて、死亡診断書とかもでないのに、火葬なんて……。
…………正直、自分が一体、何をどこまで考えるべきなのか。
何だか、分からなくなっている。
「さ……参考までに、聞くんだけど……」
「ん?」
「……死ぬとしたら、どの形で……」
そう聞くと、ぷ、と笑うそいつ。
……絶対、面白がってる……。
「さあな? 死んだことないから分かんねえけど……人間の形を保つには、魔力が大分いるから、多分、オオカミの形で死ぬんじゃねえかな。それか人間界だと犬の形か……どっちかだと思うけど?」
「――――……」
……犬の、形――――……。
………………過去に飼ってた犬との別れの場面が、脳裏に浮かんでしまった。
…………うう。無理……。
人間の形で死なれたら、事態としてものすごく、困るけど……。
犬の形で死なれるとか……それは困るとかじゃなくて、悲しすぎて、無理……。
ぐるぐる色んな事が頭を巡ったけれど。
……しばらくして、降参した。
「……っ……あのさ」
「……ん?」
「……具体的に、何、すんの、精気、って」
「――――……お前が気持ち良いこと、するだけ」
「………………っっ…………」
やっぱり逃げたい。
……でも。
「っっ…………っ痛い、こととか……」
「ああ、そういうのすると、精気の質が下がるから、無理」
――――……それを聞いて、ああ、だから。無理やりはしてこないのかと、なんだか、すごく納得してしまった。
――――……それなら……いいかな……。
最悪だけど。……最悪だけど……。
気持ちいいこと、だけ、なら……。
「――――……何、すれば、いいの?」
「何すればって?」
「……オレが気持ちよくなればいいなら……自分ですれば、いい? 見ないでくれるなら、それくらいなら……それで平気なら……」
嫌だけど。
ほんとはこんなこと言ってるだけで、もうここから、ダッシュで逃げたい位、本気で嫌だけど。
「――――……自分でって……」
言いながら、クスクス笑って、オレを見上げてくる。
「……ほんと。お人よし」
うるさいっつの!
それに、つけこんできてるのは、どこのどいつだー!
心の中で、叫んでいると。
「自分でされても、多分、そこまで取れないんだよなぁ……」
「…………っ」
オレが少しだけ、話を聞き始めたのが分かっていて、余裕で言って、ニヤニヤしてるのが、なんだかすごくムカつく。
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