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第3章「一人で実家帰りと思ったら」
22.優しい人。
しおりを挟む「じゃあ、私そろそろ外に出てるね。今度帰ってくる時は連絡するから」
そう言って、立ち上がった私に続いて皆も立ち上がった。通り掛かったお店の人を捕まえて「見送りしてから戻ります」と伝えてる克己を見て、ここで良いのにと言ったけれど、結局皆でお店の外にでることに。
あ。琉生、帰りも迎えにくるって、言ってたなぁ。会うはずないと思ったから話しちゃったけど。気付かないかな。
お店の前から少し外れたところで待っていると、聡さんの車が目の前に止まって、聡さんと琉生が車から降りてきた。
「琴葉ちゃん、お待たせ。あ、どうも」
「こんばんは」
皆にも挨拶してる聡さんと琉生。
「ありがとうございます」と笑うと。琉生が私を見て「なんかさっきより赤くなってるね」と 言いながら微笑んだ。ああ、なんか、カッコよすぎて、ほんと王子様みたい……と思いながらも、なんとか平静に、そんなには酔ってはないけど、と言おうとした時、くいくいっと後ろから葵と佐那に引かれた。
「え?」
少し皆から離れて、男の人達に背を向けて、顔を突き合わせると。
「何、あのイケメン、すごくない?」
「芸能人?」
二人のセリフに苦笑い。
「何って……えーと、今年から、先生になった人だよ。今日四人で帰ってきてて……」
と返すと、二人は、あ、と顔を見合わせる。
「さっきの話の人?」
そう聞かれて、違うともそうとも言えず、一瞬黙ると、二人は「ほんとにそうなの?」と言う。
「う、ん……」
女子三人でこそこそ話す。
「さっきの話があの人なら……もったいないけど、無しかも」
「私もかも」
二人のセリフに、そっか、と苦笑い。
「それは、何で……?」
こっそり聞くと。
「イケメン過ぎ」
「モテすぎる」
葵と佐那の二人の言葉が重なって。三人で苦笑してしまう。
「でもそうは言っても、やっぱりどんな人かによるけど」
「まあ、優しそうな人だよね」
うん、と頷く。
なんか、ほんとに優しい人な気がする……。知り合って一週間、だけど、すごくそう思う。
「でもまだ今年から先生って……一週間しか経ってないんじゃないの?」
考えてたことを佐那につっこまれて、また苦笑い。
「うん。そう。……というか、昔一度会ってて……」
「え、それからずっと好きだったとか?」
「あ、ううん。そうではないみたいだけど」
「ふうん……?」
二人から飛んでくる質問に答えていると、「何してんだよ」と克己に呼ばれる。
「まあ、何か進展あったら連絡して」
「そーして」
佐那と葵の言葉に、一応頷いて、皆のところに戻った。
「何こそこそしてんだよ。お迎えの人待たせて」
苦笑の克己に言われて、ごめんね、と聡さんと琉生に謝る。
「全然大丈夫です。ね、聡さん」
「うんうん」
優しく笑ってる二人に、すみません、と笑ってから。
「じゃあ皆、ありがとね」
頷いてる皆を見て、聡さんと琉生に続いて私も車の後部座席に乗り込んで、窓を開けた。
「また来るから」
「あ、琴葉。オレ来月、出張で東京行くかも」
克己の言葉に、うん、と頷く。
「そうなの? 分かった。決まったら教えてね」
「ん」
克己にそう答えてから、皆の顔を見つめる。
「じゃあね、ありがと、元気でね」
笑顔の皆に笑いながら手を振っていると、車が動き出して、皆が見えなくなっていく。
ふ、と息をつきながら、窓を閉めようとしたら。
「あ、琴葉ちゃん、ちょっと開けといて。涼しい」
「はーい」
聡さんはボタンを操作して、琉生側の窓も少し開けた。
「すごく楽しかった。やっぱり、会えてよかったです。ありがとうございました」
そう言うと、「良かったね」と聡さんが笑う。そのまま少し、黙ったまま。
星が綺麗ーと、窓から見上げながら。風が爽やかで、久しぶりの田舎の夜を感じていたら。
「聡さん」
琉生が言った。
「ここから、家まで歩いたらどれくらいかかりますか?」
「ん? ああ……ここずーっとまっすぐ歩いて、二十分位かな。歩きたい?」
「中川先生が歩けそうなら」
振り返られて、どき、とする心臓。
「先生が酔ってそうなら、やめておきます」
琉生がクスクス笑う。
「あ。でも……聡さん一人じゃつまらないって」
私が言うと、聡さんはクスクス笑って、車を止めた。
「そんなのは平気。すぐ着くし。歩いてきたら? 久しぶりの田舎だし。星も綺麗だしね」
「中川先生、歩けますか?」
言いながらも、もうシートベルトを外した琉生に、私も、思わず同じようにシートベルトを外してしまった。
ドアを開けて車の外に出ると、「じゃあねー」と聡さんは消えていった。
えーと……急に二人きりになってしまった。
すごく静かな、一本道。目の前に、河川敷と歩道。
「歩こ? ゆっくり」
振り返られて、何だか少し、緊張する。
だめだな。平常心平常心……。
そう思いながら、琉生と歩道に並んで、静かな河原をゆっくり歩き始めた。
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