「王子と恋する物語」-婚約解消されて一夜限りと甘えた彼と、再会しました-✨奨励賞受賞✨

星井 悠里

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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」

2.千里に報告

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「千里、居る?」

 職員室に荷物を置いて、朝の準備を終えたら、私はまっすぐ保健室に向かった。

「あれ、琴葉。おはよ。どうしたの? 朝から」

 保健室の窓を開けていた千里が、私を振り返る。

「千里、あのね……」
「……何。どした? 顔、ヤバいよ」

 ……さすが。
 一瞬で、分かってくれる。

「千里にスピーチ頼むの……すごい先になるかも」
「え、何それ……え??!」

 千里が私に近付いて来て、私をじっと見つめる。

「……もしかして、春樹と……?」
「昨日振られちゃった」
「マジで言ってるの?」
「マジで言ってる」

 千里が、眉をひそめて、私を見つめる。

「……何で? だって、今週、実家に挨拶に行くんだよね??」
「多分、それに行ったら終わりだと思ったんじゃないのかな……」

「え、ちょっと待って、頭がついていかない。なになに、そもそも、何で?」
「――」

「……浮気?」
「――」

「……え、まさかとは思うけど…… 池田先生とか……」

 ああもう。
 全部分かってくれて、言わなくて済んでありがたいけど、なんか、最後のだけは、分かってほしくなかったような。

「気になる人が居るって言うから……誰?て聞いたら、春樹、隠そうとしたけど、私が池田先生?て聞いたら、すっごい慌てて――頷いてはいないけど、絶対そうだと思う」
 
 千里は、大きくため息を付いた。

「――なに、あの二人、付き合ってんの??」

 あぁ。千里が、めちゃくちゃ低い声になっちゃった……。
 なんだか朝から、嫌な気持ちにさせて申し訳なくなりながら。

「聞いてないの。気になる人とは言ってたけど……」
「ええっ何で聞いてないの?」

「だって、付き合ってても、付き合ってなくても、好きなんだったら一緒だし……もう、話も聞きたくなかったし……」
「えええっ! そんなのってある?? しかもよりによって、池田先生とか……琴葉と春樹の事、知ってたよね?」
「そう。知ってた」
「知ってて、それ?? いやいや、さすがだ……」

 千里は、私を見つめながら、呆れたような大きなため息を付いた。

「ていうかさー……春樹って、全然あの子の本性気付いてないの?」
「多分そうなんじゃないかなあ。分かんないんだけど」

 ほんとに何も詳しく、聞いてないんだよね。聞けなかった、というか。
 もう何を聞いたって、春樹が決めてるならしょうがないって、割り切ろうと、してしまった気がする。

「ていうかあの子。やりたくない仕事とかめちゃくちゃ嫌そうな顔するしさ。男の先生の前だとめっちゃ声高いしさ。でも女の先生の前だと声低いし結構毒吐くし。あんなに分かりやすいのに、気付いてないのかな。 あの服装とか化粧とかも、おかしいと思わずに、春樹は可愛いと思ってたってことなの? 噓でしょ」

 なんだか千里がちょっと興奮気味で、逆に私が冷静になってくる。

「えーと、私も似たようなことは思ったんだけど……千里が並べると、笑っちゃうけど」
「笑い事じゃないよ。 うわー春樹ってば、バカだったか……」

 きっと、敢えて、そんな風に。
 春樹がバカだった、私が悪いんじゃない、って。
 きっと、そう言って、くれてるんだろうなと思いながら。

「まあでも、人を好きになるって、もう理屈じゃないもんね……」
 ため息を付きながらも、でも、本気でそう思いながら、千里に言うと。
「いやいやいやいや……無いわ」

 千里は、深いため息をつきながら、デスクの椅子に座り込んだ。

「つか、琴葉。何でそんなに、落ち着いてるの?」
「ん」
「なんか晴れやかっていうか――」

 じっと、私を見つめてくる。

「昨日、泣かなかったの? 泣き晴らした顔じゃない気はするけど……大丈夫だったの?」

 心配そうに、私をじっと見つめてくる。

「うん。……それが、さ。春樹と別れて、店を出るまで我慢したんだけど。店を出た途端泣いちゃったの。電車に乗れないから落ち着いてから帰ろうと思って、いつも行ってたバーにいくことにしたの……お酒飲んで帰ろうと思って」
「うん」
「そしたらね」
「うん」

 これを言うのは、少し憚られるというか躊躇うのだけれど。もうでも、そうとしか言いようのない人だったからなあと思いながら、私は千里を見つめた。

「――王子様に、会ったの」

 そう言った途端、まじめな顔をしていた千里は、ん? と首を傾げて、「夢の話?」と聞いてきた。

 うふふ。千里おもしろい。

「違うの。あのね、正確には、王子様みたいに、カッコいい人に会ったの」
「ふうん……?」

 何の話? という顔で、千里が首を傾げている。



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