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第2章「振られた翌日の、悪夢みたいな」
3.琉生のおかげで。
しおりを挟む「夢じゃなくて、ほんとに、キラキラしてる王子様みたいな人がね、慰めてくれて」
「……?」
「帰って泣くか、一晩甘えるか、どっちがいい?みたいなこと言われて」
千里がやっとピンときてくれたみたいで。
「え。まさか」
と、言い出した。
「そう。あの……一晩、一緒に過ごしちゃった」
「えええええっ??」
しばらく無言の後、千里が、めちゃくちゃ叫んだ。
「そんなに驚かなくても」
「いやいや、だって、琴葉だよ?」
「そう、なんだけど……」
「だって、違う男とそんなの考えられないって言ってたし。そんな誘われたって、怖いだけだったんじゃないの?」
そう言われて、うんうんと頷く。まあ確かに。違う人だったら、そうだったかもしれないけど。
「それがね。少し酔ってたのと……なんかもう、私がどうなっても別に誰も気にしないしって少しだけ自棄になってたのと。あと、二年通ったお店のマスターが、その人のことを長く知ってて怪しい奴じゃないって言ってくれたのと……? あ、でも一番は、すごい素敵だったから、かも。もう王子様にしか見えなくて。最初、王子様の夢を見てるのかなと思ってたし」
そこまで言い終えた瞬間。
ぶに、と頬を摘ままれて、引っ張られた。
「いたたたたた???」
「琴葉がどうかなったら、私が泣くからね! 二度と言わないで」
「ちさとー……」
じわ。と涙が滲んでしまう。やっぱりまだ心の中は相当弱ってるので、こういう優しさは、すごく染みる。
「ありがとー……」
ぎゅー、と抱き付いたら。
しばらくよしよしされて、離された。
「ん、じゃ、とりあえず、続き話して」
あ、先を知りたいんだねと、ちょっと可笑しくなりながら。
昨日の事を、もう一度、思い返してみる。
どこからどう話せばいいのかなと迷っていると。
「それで? 王子と一晩過ごしたの? え。……もしかして、Hした?」
おおズバリだ、千里。
「うん。それがね……恥ずかしいんだけど……」
「うん?」
「今までない位、めちゃくちゃ、良くて……びっくりだった」
「――――……」
千里が、きょとんとした顔で、私を見つめる。
「あれって、あんなに気持ちいいんだって。初めて知ったというか……」
言いながら恥ずかしくなって、千里から視線を外していたら。
急に、千里が、笑い出した。
「それ、春樹に言ってやりたいね。相当へこむと思うよ」
クスクス笑う千里。
いやいや、それはさすがに言えない。
プルプル首を小刻みに振っていると。
「いいと思うけどね。両親に会いに行く週に別れ話してくる男なんて、多少痛い目見せたいじゃん」
「んーでも……会いに行ってからでなくて、良かったのかも」
「そっちで考えられる?」
「……うーん。そっちでも考えたくなんか無いけど、でも、そう思うと、ちょっとマシかなって……」
「まあ――そう言ったら、行く前で良かった、とも言えるけど。いやあ、でもな」
千里が言いたい事は、私だってそう思うんだけど。
んー、でも言ってもしょうがないこと、なんだよね。
こういうのを、こんな感じで割り切っていくの、昔から私、うまいんだよね。
……良いか悪いかは、分かんないけど。
「しかも、相手があれって……春樹の奴。まさか、琴葉の人生にあれが絡んでくるとはね」
千里の言い方に、ついつい苦笑が浮かんでしまう。
「でも、とにかく王子様のおかげでそんなに泣かないで済んだの。一緒に泊まって、今朝お別れてしてきたんだけど……家に帰ってシャワー浴びて、お化粧、ものすごくちゃんとしてきたの」
「うん。入ってきた時、今日綺麗だなって思ったよ。でも、その後すぐ表情が曇ったから、あれってなったけど」
「そうなの。なんか――王子様と一晩過ごしたら、なんかわりと、吹っ切れてて」
ほんとに不思議な位にすっきりしてる。昨日も泣かなくて、済んだ。
きっと一人で帰ってたら、泣いて泣いて。泣けば泣いただけ、自分がみじめになって。春樹や池田先生を、きっと、恨んで。またそれも嫌で、自分が嫌いになって。そんな理由でもまた泣く、みたいな。
そんな悪循環の一途を、辿らなくて済んだ。
琉生のおかげで。
もうなんか――あの人には、感謝しかないなあ。
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