102 / 209
第102話 幸せすぎる
しおりを挟む颯といつも一緒に寝てるベッドに一人。
ん。静か。とっても。
颯、今頃どこらへんかな。
そんなことを思いながら、天井をぼーと眺めた。
――――颯と番になって、周りも驚いてたけど、やっぱり一番びっくりしたのは、オレだった。
αだったのに、Ωになっちゃったし。
初体験をあっさり突然捧げちゃったのも、しかも、その場でうなじを噛まれて、番になったのも。
あんなにライバル視してから大学では全く絡んでなかった颯と「運命の番」。
……ほんと、びっくりだったよね。
颯のパジャマを、きゅ、と握る。
最初に抱かれてる時から、颯は、もう、高校の時とは、違う感じだった。
激しかったけど、優しかったし、愛情みたいなのも感じられるような感じ。
そのまま今まで。
オレを自分のΩだって思ってくれるたびに、どんどん優しくなってきてる気がする。
オレは、まだ「好き」って言えないし。
……急に甘えるのも変かなって、全然できないし。
颯のことが、大好きになってるのに。
αからΩに変わってしまった。それを、オレが気にしてるときっと颯はまだ思ってそう。オレのαとして持ってたプライドとかそういうのも、気にしてくれてる気がする。だからこそ、ゆっくりでいいって言ってくれてるんだと思う。
……ていうか、オレにあるのは、αのプライドとかそういうのよりも。
何年も張り合うだけ張り合ってきたのに、急に颯のものになって、どう甘えたらいいのかなっていうそっちの戸惑いだけ。
変性のあの時。
「これから何があっても、オレはお前の側に居るから」「番になろう」って言われた時。
もうほんとに、オレは好きになっちゃったんだと思う。
だから、もう、αとかどうでもよくて、Ωになれて良かったとすら思ってるんだよ、オレ。
可愛いって言われて、嬉しいしかないし。
好きって言ってくれたら、好きって言いたいし。
朝、キスされるだけで、恥ずかしいし。甘い雰囲気出されると、すぐ赤くなっちゃうし。
気持ちは、バレてるとは思うんだけど。
……もっと、素直になれたらいいのになぁ。
こないだ仲間三人には言ったけど、颯にも、「颯と居られるからΩになれて良かった」って言いたい。いつか、言お。
「――――」
そんな風に心に決めながら、仰向けのまま、颯のパジャマを両手で広げてなんとなく、見つめる。
オレのΩとしての人生はまだほんとに短くて、Ωになったことが正式に分かる前に、噛んでもらっちゃったから、一人でヒートに苦しむとかも無くて。
ずっと颯が居てくれるし、巣作りなんて、全然必要はないんだけど。
……でも、颯の匂いのするものに包まれて、幸せ、みたいなの。
聞いた時から、やりたいって思ってて。
でも颯が居るとこでは、そんなの恥ずかしくて、絶対無理だし。
毎日、学校に一緒に行って、待ち合わせて帰ってきて、買い物とかも全部一緒。
颯と居るの楽しいから全然いいんだけど、一人の時間がない。
だから、このゼミ合宿の話を聞いた時から、絶対この日にするんだって、楽しみにしてたんだよな、オレ。
「颯……」
すう、と深呼吸。
颯の匂い、好きすぎ。落ち着くし、安心する。
むぎゅーと颯のパジャマを抱き締める。
「……颯、すき……」
ああ、なんかいい匂い。きもちい。
これが巣作りっていうのかなあ……良く分かんないけど、幸せ。
どれくらいそうして包まれていたか。
不意に、近くに置いていたスマホが震動。
「あ、もしもし……?」
『慧、寝てたか?』
すごくすごく、優しい声が聞こえる。なんか、笑ってる。オレ、寝ぼけた声になってるかな。
「ううん、起きてる。……颯、今どこ?」
『高速入ってすぐのサービスエリアについたとこ』
「そっか。……雨は?」
『ここはそうでもないよ』
「気を付けてね……」
声を聞いていたら、なんだか。……すごく、会いたくなってきてしまった。
『慧、眠いの?』
「ううん。眠くはない」
『そう? なんかぼんやりしてるっぽいけど』
「……うん。ぼんやりはしてたかも」
颯の毛布と服に包まれて、ぽけー、とはしてた。
『そっか。久しぶりに一人だし、ゆっくりしてな?』
クスクス笑う颯の声。
『じゃあ行ってくる。ついたら、連絡いれるから』
「ん、待ってる。気を付けて」
……早く帰ってきてね、と心の中でつぶやいた。
帰ってこれないのは分かってる。二泊三日だもん。だから言わないけど。
切れたスマホを、目の前に置いて、毛布に再度くるまった。
颯の声聞きながら、包まれてると。すごい幸せだったなあ……。
いい匂い。好き。幸せすぎる。
瞳を閉じて、耳元で聞こえてた颯の声の感覚を追う。
529
お気に入りに追加
3,784
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
貧乏Ωの憧れの人
ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。
エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜
Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、……
「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」
この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。
流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。
もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。
誤字脱字の指摘ありがとうございます
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる