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第103話 嬉しいびっくり
しおりを挟む「―――― ん……?……」
しばらくして、ふと目が覚めた。
颯を一瞬探してすぐに、居ないんだ、と思い出した。
……寝ちゃったんだ、オレ。
あのまま、瞳を閉じて、颯のことを考えていたら、ウトウト眠っちゃった。
あれ。颯の電話は……?
スマホを見るけど、連絡は来てない。まだついてないのかな。一時間くらい。もうすぐかな。
むく、と起き上がって、自分の周りにある、颯の服を見下ろす。
囲まれてるの、なんか、好きだけど。
……やっぱり側に居てくれた方が全然いいなあ。
颯の匂いに包まれてるのは幸せなのだけれど、なんだか、そんな風に思う。
「早く帰ってこないかなあ……」
……って、まだ颯が行ってから僅かだ。
この不在を、巣作りのために楽しみにしてたのに。あほみたい。オレ。
思わず、ムー、と膨らんだその時だった。
ガチャガチャ、とドアの鍵が開く音。
「え」
気のせい? と思って、耳を澄ます。
ドアが開いた音と「慧ー」とオレを呼ぶ、颯の声。
颯? えっ何で??
え、これ、どうしたら??
オレの周りに散乱してる服たちを見つめる。
意味わかんないけど、とにかく颯だ。忘れ物? えっでも、そんな取りに来るようなものないよね? とにかく、これ、すぐは片付けられないし。
と、とりあえず! この部屋に入れなきゃいいのか!
オレは寝起きとは思えない位、すばやい動きでベッドから降りて、寝室を出て玄関へ。
「颯? 忘れもの???」
そう言ったら、颯がオレを見て、ふと微笑んで、「ゼミ合宿、延期になった」と言う。
「延期??」
「向こうが豪雨でやばいんだって。宿泊の施設までの道も通行止めになったらしくて、延期だってさ」
「そう、なんだ……」
「もう少し早く連絡くれたらいいのにな?」
苦笑しながら、持ってた鞄を玄関に置いて、オレを引き寄せた。
「寝てた?」
くす、と笑われて、すり、と頬から頭に触れられた。
「ぁ、うん。ちょっと、うとうと……」
「そっか。……ただいま」
ちゅ、と頬にキスされた。
「うん。……おかえり」
「びっくりした?」
「う、ん。びっくりした」
色んな意味でびっくりしたけど。まだドキドキ激しくて、あそこを片付けるまでは、このドキドキが続きそうだけど。
「びっくりさせたくて、電話しないで帰ってきた」
颯は、悪戯っぽく笑って、「想像してたより、めちゃくちゃ驚いてくれたけど」と言う。
悪戯が成功した子供みたいに。……そんな顔もするんだ、と、ちょっと愛しくなっていると。
「さて。どうする? どっか行く?」
「ん?」
「急に暇になったし。三連休だし」
えっと、どっか……。うん。どっか、はいいんだけど。
帰ってきてくれたのは、めちゃくちゃ嬉しい。でも、ベッドの上のあの、散乱を見られるのはなんかやだ!
とりあえず、今日どうするとかの前に、寝室を、どうにかしないと……!
「えっと……は、颯、シャワー、浴びたら?」
「え? シャワー?」
「あ、汗……かいたでしょ??」
「汗? まあジメジメはしてたから……」
「浴びてきたら……? そ、そんで、そのまま今日は、ゆっくりしない?」
「……慧がそれでいいならいいよ。まあ、雨、これから強くなるしな。 ん、じゃあ、一緒に浴びるか?」
くす、と優しく笑う颯。
「お、オレは、外出てないし。だ、大丈夫!」
ああ、なんかどもってしまって、怪しすぎないか、オレ。
そう思うのだけど、颯はそれには特に何も言わず、んー、と考えた後。
「じゃあもう、ざっと浴びてこようかな」
「うんうん」
よしいいぞー!
思った矢先、颯が寝室方面に足を向けるので、焦りまくって「なに?!」と聞くと。
「何って……下着を取りに行こうかと」
「お……オレ、持ってってあげるからだいじょぶ!!」
「……ん、サンキュ」
言いながらも、颯はオレを見下ろして、ぷ、と笑う。
「なんでそんな、必死?」
「べ、別に、必死じゃないし……」
颯は、ふ、と微笑みながらオレを見つめると。
「アイスコーヒー飲みたいから、淹れといてくれる?」
そのセリフに、いよいよ、バスルームに行ってくれそうな雰囲気を感じて。
「任しといて!!」
とノリノリで返事。
……なんかさっきも、任しといてって、言ったような。
――――……あ、洗濯か。うわ。洗濯もしてない~!
颯がお風呂入ったら、すぐパジャマ入れて回さないと。
「じゃあ、下着と楽そうな服、置いとくからね」
「ん、ありがとな」
颯をバスルームに送ってドアをしめて、急いで寝室に戻る。
ほんと早く、片付けなきゃー!
まず颯の下着と服を持ってって、パジャマ入れて、洗濯機を先に回そう、
急がなくちゃ! と、内心大騒ぎ。
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