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初夜の翌朝失踪する受けの話

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 それからはあっという間だった。何というか、坂道を転がり落ちるように俺は神崎さんに落ちていった。忙しい合間を縫って最低でも月に1回は俺との時間を作ってくれるとことか、すぐに真っ赤になってうまく話せなくなる俺を急かさずに待ってくれるとことか、好きなところを挙げればキリがない。下の名前で呼んでほしいと強請られた日には友達に揶揄われるくらいしばらく浮かれ倒したし、恵さんも俺を憎からず思ってくれていると信じこんでいたのだ。


 それが俺の勘違いだと知ったのは、つっかえずに彼を下の名前で呼べるようになった頃ーー去年の冬のことだ。




 大学の友達に連れられて行ったバーでのことだ。可愛い子を見つけたと言って早々に俺を置いてどこかに消えていった友達を恨めしく思いながら、せっかく来たんだしと座る場所を視線だけで探していると、彼を見つけた。
 すぐに彼だと、恵さんだと分かった。恵さんは容姿が良いからよく目立つ。薄暗いバーで友人と思しき人と酒を煽る姿はとても絵になっていた。そういえばここって恵さんがよく行くって話していたバーだ。その流れで近いうちに連れて行ってあげるから楽しみにしていてね、と言われたことも思い出して、友達に言われるがまま来てしまった俺は勝手に気まずくなる。
 何となく約束を破ったような感じがして声をかけるのを躊躇っていると、それより先に女子大生と思しき2人組が恵さんたちに声をかけた。キラキラしていて自信に満ち溢れる彼女たちを見て俺のなけなしの勇気がしおしおと萎れていく。ここで俺が出て行ったら恵さんも迷惑だろう。

けど、どうしても気になって俺は彼らから見えない位置に座るとこっそり耳を欹てた。
「お兄さん達かっこいいですね」
「ご一緒してもいーですか?」
 女の子達の可愛らしい声が漏れ聞こえてくる。これが世に言う逆ナンか、と一周回って感心していると1人が恵さんの腕に自分の腕を絡ませようと腕を伸ばした。ほっそりした白い腕が恵さんの腕に絡みつく様子を複雑な気持ちで眺めていると、彼はそれをやんわりと押し返しながら困ったように眉を下げて言った。 
「ごめんね、俺好きな子がいるから」
 時間が止まったようだった。
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