7 / 30
初夜の翌朝失踪する受けの話
1-6
しおりを挟む
固まる俺を置いて彼らの話はどんどん進んでいく。
「恵って好きな子居たんだな」
驚いたようにそう言ったのは恵さんの友人だった。すかさずそれにもう1人の女の子が反応する。
「何それ、実はいないんじゃないですか?」
「はは、ちゃんといるよ」
「どんな人なんですか? 可愛い?」
畳みかけるように聞く女の子から視線を外しながら、恵さんはそうだね、と蕩けるような笑みを浮かべて言った。
「世界でいちばん可愛くて、綺麗で、頑張り屋さんな子かな」
「何だそれ」
いや、本当に何それ。
俺はハッと鋭く息を吐き出した。無意識に止めていた呼吸が再開される。
世界でいちばん、はこの際置いておこう。好きにな人に対してはフィルターがかかってしまうものだ。俺も恵さんのことを世界でいちばんカッコいいと思っている。いや、実際恵さんは世界でいちばんカッコいいけど。
そうじゃなくて、可愛くて、綺麗で、頑張り屋さん?
俺全然違くない?
目の前が真っ暗になったようだった。
俺は骨張った自分の手を眺めながら、グーパーと開いたり閉じたりした。あの言い方だと、恵さんの好きな子はきっと女の子だ。俺が逆立ちしたってなれない女存在。
「……いいなあ」
うっかり口からこぼれた声は周りの喧騒が掻き消してくれた。
「どうした?」
いつの間にか戻ってきたらしい友達が怪訝そうな顔で俺を小突いた。それに答えられずにいると、大丈夫か?と顔を覗き込まれた。そこでやっと意識が戻ってくる。
「あ、あれ? 知り合い?」
あれ、と言って恵さん達を指さす友達にいや、と小さく首を振る。いつの間にか女の子2人組の姿は消えていたけど、さっき見た光景がずっと頭の中を回っていた。
「兄さんの友達かなって思ったんだけど違ったっぽい」
「ふうん? まあカッコいいもんなあの人」
イケメンってよくイケメン引き寄せるよな、と言う友達に曖昧に頷く。そのよくわからない理論はともかく恵さんはかっこいい。性格も完璧だ。よく知ってる。
「というか顔青くね? 本当に大丈夫か?」
「ダメかも…」
「ハ?! そういうのは先に言え!」
怖い兄ちゃん達に殺されるだろ! 俺が!とよく分からないことを叫ぶ友達に首を傾げる。
「何それ」
「無自覚かよ俺は本当に怖えわあの人たちが」
「いや本当に何」
「とにかく帰るぞ」
「可愛い女の子は?」
「速攻で振られた。言わせんな」
ぐい、と俺の腕を掴んで立たせた友達はそのままタクシーを呼んだ。口を挟む間もなく行われた鮮やかな流れ作業に俺はポカンと口を開けたまま、気づいたらタクシーの中だった。
「そんじゃお大事に!」
「ええ…」
大学で会おうな!と手を振る友達に見送られタクシーが出発する。よく分からないけど動き出してしまえば今までの疲れがドッと襲ってきて、俺は後部座席に深く沈み込んだ。
「恵って好きな子居たんだな」
驚いたようにそう言ったのは恵さんの友人だった。すかさずそれにもう1人の女の子が反応する。
「何それ、実はいないんじゃないですか?」
「はは、ちゃんといるよ」
「どんな人なんですか? 可愛い?」
畳みかけるように聞く女の子から視線を外しながら、恵さんはそうだね、と蕩けるような笑みを浮かべて言った。
「世界でいちばん可愛くて、綺麗で、頑張り屋さんな子かな」
「何だそれ」
いや、本当に何それ。
俺はハッと鋭く息を吐き出した。無意識に止めていた呼吸が再開される。
世界でいちばん、はこの際置いておこう。好きにな人に対してはフィルターがかかってしまうものだ。俺も恵さんのことを世界でいちばんカッコいいと思っている。いや、実際恵さんは世界でいちばんカッコいいけど。
そうじゃなくて、可愛くて、綺麗で、頑張り屋さん?
俺全然違くない?
目の前が真っ暗になったようだった。
俺は骨張った自分の手を眺めながら、グーパーと開いたり閉じたりした。あの言い方だと、恵さんの好きな子はきっと女の子だ。俺が逆立ちしたってなれない女存在。
「……いいなあ」
うっかり口からこぼれた声は周りの喧騒が掻き消してくれた。
「どうした?」
いつの間にか戻ってきたらしい友達が怪訝そうな顔で俺を小突いた。それに答えられずにいると、大丈夫か?と顔を覗き込まれた。そこでやっと意識が戻ってくる。
「あ、あれ? 知り合い?」
あれ、と言って恵さん達を指さす友達にいや、と小さく首を振る。いつの間にか女の子2人組の姿は消えていたけど、さっき見た光景がずっと頭の中を回っていた。
「兄さんの友達かなって思ったんだけど違ったっぽい」
「ふうん? まあカッコいいもんなあの人」
イケメンってよくイケメン引き寄せるよな、と言う友達に曖昧に頷く。そのよくわからない理論はともかく恵さんはかっこいい。性格も完璧だ。よく知ってる。
「というか顔青くね? 本当に大丈夫か?」
「ダメかも…」
「ハ?! そういうのは先に言え!」
怖い兄ちゃん達に殺されるだろ! 俺が!とよく分からないことを叫ぶ友達に首を傾げる。
「何それ」
「無自覚かよ俺は本当に怖えわあの人たちが」
「いや本当に何」
「とにかく帰るぞ」
「可愛い女の子は?」
「速攻で振られた。言わせんな」
ぐい、と俺の腕を掴んで立たせた友達はそのままタクシーを呼んだ。口を挟む間もなく行われた鮮やかな流れ作業に俺はポカンと口を開けたまま、気づいたらタクシーの中だった。
「そんじゃお大事に!」
「ええ…」
大学で会おうな!と手を振る友達に見送られタクシーが出発する。よく分からないけど動き出してしまえば今までの疲れがドッと襲ってきて、俺は後部座席に深く沈み込んだ。
239
お気に入りに追加
3,142
あなたにおすすめの小説

当たり前の幸せ
ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。
初投稿なので色々矛盾などご容赦を。
ゆっくり更新します。
すみません名前変えました。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました!
※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる