【完結】ペンギンに振り回されてばかりの出来損ない皇太子は、訳あり幼なじみの巨大な愛に包まれているらしい

虎ノ威きよひ

文字の大きさ
65 / 83
三章

64話 破壊

しおりを挟む
 ペンギンは観客席を氷の坂のように腹で滑り降りて行った。
 顔に風を受けると、頭が急激に冷静になっていく。

(完全に八つ当たりだ! 困らせてしまった! 絶対に呆れられた! 好かれるどころか嫌われた!)

 凄まじい後悔が押し寄せてきて、ピングは目を閉じた。勢いのままペンギンに空へ向かうよう指示を出す。
 しかし。

「ペンギン? 上に……おい! 止まれ!」

 ペンギンは全く言うことを聞かない。次第に勢いを増して観客席を降りきって、砂埃を上げながら闘技場内を旋回した。
 振り回されて落ちそうになりながら、ピングは必死に魔術を込めてペンギンに呼びかける。

「止まるんだ! 言うこと聞いてくれ!!」

 しかしペンギンは壁にぶつかり、再び観客席を上がっていく。

「わぁあっ!」
「ピング!」

 とうとう振り落とされたピングは、階段を転がり落ちる前にティーグレに抱き止められた。ホワイトタイガーへとすぐに引き上げられる。
 だがピングはホワイトタイガーの上でティーグレの肩を押した。

 暴言を吐いて逃げ出した上に使い魔の制御も出来ず助けられて。
 もう恥ずかしくて消えてしまいそうだった。

「……っ離せ!」
「離すか。ペンギンを鎮静したら話がある」
「聞きたくない」

 抱きしめられる腕の力が強くなって、ピングは逃れることを諦めた。何を言われるのだろうと恐ろしく、力なく首を振ることしかできない。
 ティーグレは耳元に唇を近づけて声を落とす。

「絶対聞かせるからな」
「……っ」

 吐息が吹き込まれてピクンッとピングの肩が跳ねる。ピングが完全に大人しくなったことを確認して、ティーグレは暴れ回る巨大なペンギンに向かって手のひらを向けた。

「やべぇ本当に止まらねぇ!」

 ティーグレは3種類の魔術を行使したが、ペンギンは闘技場を攻撃するのをやめない。
 本気で壊そうとしているかのような勢いで壁にぶつかり、轟音が鳴り響いている。

 更には、ピングが何もしていないのにペンギンの体がどんどん大きくなっていった。闘技場の一階席よりも背が高くなる。

 闘技場は学舎から見ると森を越えた先にある。祭りの主な会場からは離れていて、すぐに助けが来る見込みがなかった。

 ティーグレにピングの魔術が止められないなんて、普通のことではない。
 ピングは震える手をグッと握りしめた。

「魔力の塊のせい、か……?」
「おそらく」
「私が、精神が乱れたまま召喚したから……」
「しっかりしろ。ピングのせいじゃない」

 強い口調で断言してくれて、ピングは少し気持ちを持ち直す。気をしっかり持たなければ命に関わることを思い出して深呼吸した。
 集中して、自分の使い魔をなんとか納めなければ。

 ティーグレの腕の中で、ピングはしっかりと呪文を唱えた。空中に描かれた魔法陣が金色に輝く。

 次の瞬間のことだ。

 ペンギンの黄色い嘴か闘技場の石壁に突き刺さったのは。

「そんな……!」
「まずい、あそこはっ」

 強固なはずの闘技場を傷つけてしまった。
 ピングは口を覆い、ティーグレはこの後に起こることを予測して冷や汗を流す。

 壊れた部分がガラガラと音を立てて崩れていったかと思うと、瓦礫の中からドンッガンッと何かが壊れる音が聞こえてきた。

「こ、この音はまさか」
「魔術演武、もっかいしましょうかピング殿下」

 魔術演武のために連れてきた魔獣たちは、逃げないように魔術を施した檻に入れられ、まだ闘技場にいた。
 狭い檻に押し込められていた大小さまざまな魔獣たちが、瓦礫の中から続々と自由になっていく。

「魔術演武って私がか!?」
「俺たちで収めてこの状況を揉み消しましょ」
「で、できるのかそんなこと」

 もちろん、ピングも自分の失態を大勢に知られたくはない。なかったことに出来るならしたい。

 でも、と、ピングは微動だにしなくなった自分の使い魔を見る。使い魔すら使えなくなったピングにできることがあるだろうか。
 魔術演武はあくまでも見せ物だ。魔物たちには魔力を制御するための薬が飲まされていた。
 その効果は切れているに違いない。

 ティーグレの足手纏いになる未来しか見えず、ピングの指先は冷たくなっていく。
 自分のしでかしたことへの恐怖と、これからなさねばならないことへの不安で体の震えが止まらない。

「大丈夫ですから、サポートお願いします」

 ずっと抱きしめてくれていたティーグレは、背中を優しく撫でてくれる。いつも通り、大事に大事にピングを扱ってくれているのが伝わってきた。

「……分かった」

 ピングは広い背中にギュッと腕を回し、それから溢れ出てくる魔物たちを見下ろした。
 責任を取らなければならない。
 ティーグレは無理なことはしない男だ。魔術演武の時の余裕さを思い出して勇気をもらう。

「私も、これが終わったら言いたいことがある」
「改めて聞くと死亡フラグみてぇ。絶対折らねぇと」

 歯を見せて笑ったティーグレは、ホワイトタイガーを魔物たちに急降下させた。

しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます

水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。 家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。 絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。 「大丈夫だ。俺がいる」 彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。 これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。 無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!

婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ
BL
「君を愛することはできない」  可愛らしい平民の愛人を膝の上に抱え上げたこの国の第二王子サミュエルに宣言され、王子の婚約者だった公爵令息ノア・オルコットは、傷心のあまり学園を飛び出してしまった……というのが学園の生徒たちの認識である。  だがノアの本当の目的は、行方不明の自分のペット(魔王の側近だったらしい)の捜索だった。通りすがりの魔族に道を尋ねて目的地へ向かう途中、ノアは完璧な変装をしていたにも関わらず、何故かノアを追ってきたらしい王子サミュエルに捕まってしまう。 ◇拙作「僕が勇者に殺された件。」に出てきたノアの話ですが、一応単体でも読めます。 ◇テキトー設定。細かいツッコミはご容赦ください。見切り発車なので不定期更新となります。

処理中です...