鬼畜な悪党の下っ端に転生したのだが、頑張って生き抜きたい

第4章 魔王城編

高鳴る鼓動

‥



「キャッチボール‥久々だったな‥、うい、しょ、」


動けるようになったので、
喜一の書斎から大人しく部屋に戻ってきた俺っち。

泊まっていけと引き止められたが、
なんだか気まずくて一度も喜一の顔を見ずに飛び出してきた。


どうやら青がかけた魔法は、俺の侵入と同時に解けてしまったようで、
帰る途中、バッタリ出会ってしまった青に、こっぴどく叱られた理不尽。




シンとした喜一の部屋は静まり返っていて、
俺は一旦ベッドに腰掛ける。







「‥、」



うん。
じっとしていられない。
何故だろう。動悸が激しい。


また慌ただしく立ち上がり、
喜一から渡されたグローブを左手に嵌める。



こう、構えて‥投げる‥
指先の感覚が大事。
でも、そこばかりに集中すると、力を込めすぎてしまうからダメ。


見るのはキャッチャーの合図と
９つの窓。


狙うのは、１つに絞られた窓に、このボールを収めること。



準備ができたら、呼吸を整えて爪先を二度地面へと小突く。


片足を上げ、踏み込みながら


そこへ振りかぶってーー




ーー光‥行くな‥




「ッーー」





ピタリと固まった身体。
ゆっくりと力を抜き、唇に手を触れる。



喜一の熱のこもった瞳
冷たい唇の感触




体内へと流れ込んだ
アイツの気持ちーー






ッ、





「あああああッ、好き好きうるせえっつうのッ！！ほんと、何考えてんだかッ～、くっそ‥心臓が‥うるせえ‥」



ドキドキとずっと高鳴る、俺っちの乙女心臓。静まりたまえ。


馬鹿だ。
本心丸見えだって、分かっててやってんのか。
それとも気づいてねえのか。




喜一が俺を好き‥




喜一が‥俺を‥







考えただけでも顔が赤くなる案件に、
俺はベッドに飛び込んだ。




ゔ、次、喜一とどんな顔して会えばいいんだよッ
俺が、好き、なんて、そんな‥
何もねえぞ俺‥男だしッ女の子みてえに可愛くねえしッ

それなのにッ、す、すす好き‥なのか‥？
俺の、事‥、



「ッ～、も、もう、寝よう‥。そうだ、明日になれば忘れるさッ！！はっはっはっ！！はーっはっはっ！！ーー」









この晩、俺の不気味な笑い声が、城中に響き渡り、
後に魔王城七不思議の１つになった事等、俺は知る由もなく、




一睡もできずに次の朝を迎えたのであった。
全部喜一のせいだ。喜一の馬鹿野郎この野郎めが