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第4章 魔王城編

白うさぎ

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ラシル side




自らが歩む地をただ眺める。
心の奥底で、何かを失ったような虚無感。

何も知らない。何も分からない。
自分の事なのに、何も‥



「ラシルさん‥?」



黒髪の少年が、俺の顔を覗き込み、
また心配そうな表情で俺の名を呼びかけてくる。


唯一の救い。


俺自身が忘れた俺を、知っている少年。



「‥なんだ‥アサヒ、」



俺を見る目はどこか熱を込めていて、
だが、何も知らぬ俺は、どうすることも出来ない。

良くしてくれる。
目覚めた時からずっと側にいて、励まして‥
まさか、こうなる前は、
恋人だったのだろうか?


は、なんてな‥

そんな事、あり得ると思うか?
そう心の暗闇に問いかけても、やはり返事はない。


俺がまた地面を眺めていると、
急にそこに影ができて立ち止まる。



「ラシルさん!見てください!!このうさぎモフモフしてて可愛いですよ!!」


顔を上げた先、
ホワイトラビットを抱えた少年が、
俺に向けてそんなことを言った。



ふわりとしたそれは、高級毛皮になるから、
貴族達が好んで着用する。

冬になる前は、一斉に狩が始まって、
その皮を剥ぐのだ。





気味が悪いーーー




「っ、‥ああ、そうだ、な‥ッ‥」


言葉を詰まらせながらも、返事をする。

ああ、俺は苦手なのか

こいつらが


少し思い出せた自身の事に、心が暖かくなって、口角をあげる。




ーー思い出せーー


「ッ!?」


刹那、静寂だった暗闇の底で、


誰かが呟いて





それは子どものような‥、


ーー誰なんだお前は‥?


俺の言葉に反応して、

暗闇のそこで、何か口を開けた子ども。
俺は目を閉じ、それに耳を傾ける。





ーー‥白の毛皮‥耳が長くて、そこを掴もうとしたらアイツはすげぇ怒鳴ってきた。

お前も、巨人に耳なんか掴まれたら嫌だろうって

仕方ないから、抱きかかえてそっとケースに入れたけど、
肌がぞわぞわして気持ち悪かった。‥アイツのせいだ。ーー



暗闇の中、顔の見えない子どもが、どこかを指差して
それを辿って視線を巡らせると、
ぽっと光でてきた空間に、また顔の見えない違う子どもの映像が流れだした。



ーーなんだ、やればできるじゃねえか。
ぷっ、頑張ったな、ラシル。
‥んな、怒んなよ。今日はこのバイト代で肉食えんだから。
‥お前、動物苦手なんだろ?
なら、こんな仕事、俺に合わせて受けなくていいのによ~‥



はは‥優しいな、お前はーー





ーーアイツの、‥笑顔のせいだーーー





指を指す子どもがいつのまにか隣にいて


眉を寄せ顔を歪めた少年。
俺と同じ金髪の少年に
目を見開いた。




これは、



俺ーー







「‥?!、」


なんだ、今の


「ラシルさん?」


立ち止まる俺を、また心配そうに見つめるアサヒ。



気づけば、木が茂っていた大地から、人が住む町へと景色が変わっていて



夢のような、現実のような
よくわからない世界に、頭痛がした。




「なんでもない‥」



「なら‥いいんですけど‥体調、悪くなったら、すぐ言ってくださいね!!」



「ああ‥ありがとう、アサヒ‥」



「えへへ、どういたしまして!」



俺を見て嬉しそうに微笑むアサヒ。
彼の護衛として、騎士の仕事をこなす。
殿下から与えられた仕事。
何も思い出せない俺にとって、今じゃ生きる意味に等しい。




そうだ



目の前の事に集中すればいい。



アサヒの言うように、忘れた記憶なんて忘れて



足を踏み出せば、





ーーラシルーー



子どもの声が、また頭の中で響いて、
ズキリと痛みが頭を駆け巡る。
あまりの痛みに、
街を見て回る各々から目をそらし、
俺は近くの家の壁にもたれかかった。



アイツのせいだと、闇の中で
幼い俺がそう言った。
その通りだ


痛みも


喪失感も


何もかも

全部お前のせいだ。




お前は一体‥誰なんだ




教えてくれよ‥頼むーー





暗闇の中の声はもう無くて


俺はただ



その場にうずくまる事しか出来なかった。






ラシルside end‥


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