ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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34 準備 side 陸

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実家の最寄り駅で降り、改札を出てから親父に連絡を取る。
ツーコールで出た親父の声は、千里さんと別居生活が続いてる割に機嫌が良かった。


『おっ、陸、待ってたぜ』

「なんの用だよ?
言っとくが、今朝の段階じゃ明日、明後日あたりに発情期ってわけにゃいかねーぜ?」


渡の匂いを朝食前や登校前にも嗅いでるが、まだまだ俺の意識を瞬時に飛ばすには弱い。
他のαに先を越されねぇために、渡の側にいる間は薬を使わずマスクで発情フェロモンを遮断してちょくちょく確認している。

頭がいてぇのは、嗅ぐ度に発情する俺の姿を見て渡がキャーキャー興奮して喜んでいることだな。
今朝、現場に居合わせた千里さんは、その無邪気な喜びように目を見開いて固まっていた。

渡に、イマイチ自分が襲われる側って感覚がねぇのが・・・βだから仕方ねぇんだろうが。
先行きに不安を感じるには十分な反応だ。
少しはそういう意味で意識しろと、嗅いだあとに舐めたりキスしたりするようにしてんだが。
それぐらいしか、意識させるチャンスがねぇ。

俺と渡は同じ屋根の下に居んのに、寝るのも飯も別室だ。
つーか、渡と俺は二人きりの時間が全然取れてねぇ。
夜に社宅へ泊まりに帰る両親を見送った後、渡は千里さんと部屋で寝ているしな。
今日に限らず、俺より千里さんと居る時間が長げぇんだよな。

なんとか、千里さんから離したいが。
千里さんは、渡にΩの心構えやら教育をやる気マンマン。
クセの強い千里さんにも、渡はニコニコ笑顔で懐いているから無理矢理ってことはねぇんだが。
こっちも渡に発情期前に教えておきたいことがある。


『それは、ちーちゃんに聞いてる。
今のまんま、ダーラダラ家に居て欲しくねぇってのもあるが。
自分のΩを手に入れようとしてる息子に、俺から取っておきのプレゼントをしてやろう』


ザワッ

電話越しだが、自分が投げる賽の目に何が出るのか、その先を楽しんでいる親父の声に気持ちが乱される。
疑わずとも本人は善意しかないんだろうが、親父のやることに無防備でいると大怪我するからな。

親父の言うプレゼントが、俺にとって最高のモノなのかロクでもねぇモノなのかは開けてみるまでは分からねぇ。
警戒してんのが伝わったのか、クククッと親父の嗤う声が耳元で響く。


『明日っから、お前がΩを手に入れたあの場所に二人で泊まれるよう手配した。
あそこにはβしかいねぇし、ちょうど良いだろ?』

「・・・マジか」


盲点。
確かにあそこなら、人里から離れているし、身元確認が取れているβしかいない。
実家で籠もるよりも、安全な場所。
しかも、二人きりになれる。
予想を遥かに超えた最高のプレゼントに、口角が上がり牙がギシギシと興奮して軋む。


『たーだーしー
ちーちゃんとあっちの家の説得は自分でやれよ?
あっちにとっちゃ、息子をΩに変えられた呪われた地。
去年は、行き先も言わずにさらって連れ込んだみてぇだが、な』
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