ヘタレαにつかまりまして 2

三日月

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34 準備 side 陸

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・・・は?

目の前に人参をぶら下げといて、速攻で難易度の高すぎる壁を突きつけてくる親父に言葉を失う。
浮かれた気持ちが一気に下がり、牙も静まり、身体の芯まで冷え切った。
あれだけやる気に満ちてる千里さんを説得すんのも高難度だが。
頼子さんと道成さん、それに、渡に対してなんて言い出せば良いんだ・・・

また、あそこに一緒に行ってくれ、なんて。

どの面下げて、俺から渡を誘うってんだ。

去年は、菊川の願いでカナちゃんが夏休みを楽しむためのメンバーとして渡がたまたま入っていただけだ。
あの頃、まさか渡がカッキーなんて思ってもいなかった。

思ってもいなかった、が。

同年代のβとあそこで過ごすなんてカッキー以来だったからな。
今から思い返せば、テンションが知らず知らずの内に上がっていたんだ。
そうじゃなけりゃ、この俺がわざわざ別行動で初めて来た渡に村の中を案内したりするわけねぇんだから。

小学生のときにあそこで出会わなければ、渡はβのまま。
αに抱かれることも無く、きっとβの女子と付き合って結婚して頼子さんと道成さんみてぇな夫婦になっていただろう。
今は頼子さんのおかげで俺との関係をすんなり受け入れてくれているが。
あそこに、番になるために誘うなんて・・・


『・・・い、おーい、こら、陸?
聞いてんのかぁ』

「き、いてる。
ってか、ぜってぇ無理・・・」


ワナワナと身体が震え、振り絞った声と一緒に胃の中のもんがせり上がってくる。
自分がやらかしたことを忘れて、また渡に俺の欲望を押し付けようとしていた。

いい加減、覚えろよ。
いくら渡に赦されても、やらかしたことから目を背けて甘えるなっっ
俺から一緒に行こうなんて、言える立場かよっっっ

俺の絶望ぶりを声で察したらしい親父は、何故か笑いだした。


『ハハハハハハッッ
いやー、ちょっとはスッとしたなっ』

「・・・は?」

『俺からちーちゃんを取り上げてるお前に、少しくらいやり返したって良いだろう?
わざとプレッシャーをかける言い方はしたけど、全然心配するこたねーよ。
あっさり通るって』

「通るって・・・そんなわきゃねぇだろう。
頼子さんと道成さんが、俺と渡が二人きりであそこに行くことを許可するわけねぇ」


それに、渡にこんな提案を言えるわけねぇ。
楽観的な親父の物言いを全く信用できねぇ。
自信のなさと比例して、声は尻すぼみで消えていく。


『・・・お前は、子どもの中で一番ちーちゃんらしいとこ引き継いでるよなぁ。
そんな死にそうな声出すなよ』


面白がっていた親父の声に、苦笑が交じる。
一回上げといて突き落とした張本人がよく言うぜ。
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