7 / 38
本編 (2024 11/13、改稿しました)
7.初恋の人※
しおりを挟む季節は梅雨の六月を過ぎ、初夏を迎えようとしていた。
千代子は未だ、司には秘密にしていたが松戸と連絡を取り合っており、在宅で何か軽い仕事が出来ないかと相談し、一件単位での固定報酬制のデータ入力の仕事を在宅で始めていた。
色々と考えが纏まった後に司に少し仕事をしたいと持ちかけてみれば司も「松戸の所なら」と安心した様子だったのを覚えている。
午前中、司が仕事に出てからの三、四時間ほどを週三日。まだ仕事と表現するにはごく小さい単位ではあったが松戸からもしっかり慣れてきてから仕事量は増やした方が良いよ、と言われている。
それを機に、司の書斎にある物と同じメーカーの一回り小さいデスクと千代子の体に合ったビジネスチェアが購入された。どう考えたって空いた時間で仕事をする千代子が得られる報酬とそれらの金額は全く釣り合わない。
しかし家で使う大きな物の購入については千代子も司が好きでやっている事なのでしょうがないかな、とお礼を言って受け入れていた。
なにより座り心地が最高なのとデスクも昇降式で使いやすく、もう数時間伸ばして仕事をしても大丈夫そうではあったが焦りはよくないので暫くはこのままでいようと思い留まる程だった。
昼を回って仕事が片付いた千代子は冷蔵庫の中に残っている物をチェックしてから買い物に出ようかを決める。
昨日はお肉が多かったから今日はさっぱりと温野菜をメインに、とすっかり“同棲している彼女”と言うよりは奥さんになってしまっている事に千代子自身は気づいていない。あくまでも司の部屋にお邪魔している、と自分では思っていた。
誰がどう見たって、奥さんだった。
そして司も司で本当に外食をしなくなって久しい。
最後に彼が芝山に仕出しを頼んだのはいつだったろうか。
ただ、司には表も裏も立場と言う物がある為に一緒に暮らすようになって三か月になろうとしている今でもデートと言うものを一度もしたことがなかった。
それをせがむような千代子では無かったがたまに買い物がてら散歩に出る彼女は移り行く都会のあちらこちらにある緑の景色を司とも共有したいと思っていた。写真を撮って送るだけでは少し、味気ない。
部屋の中だけだとしても何か二人で楽しく過ごせる良い方法はないかな、と千代子の心にも色々と考えられる余裕が少しずつ訪れて来ていた頃。
司の方はと言うと今日も変わらずに表の仕事を全うしていた。
「親父が嗅ぎつけた?」
「こればかりは本当に俺の不注意です。俺や松以外に若のそばにいる方の存在をつい……親っさんの話術にまんまとハメられました」
「あの親父相手には無理だろう。きっと私でも同じ結果になる」
「時期的に本部の総会の席で親っさんとはご一緒になるかと思いますがその時は上手く誤魔化して頂きたいです……」
土下座しそうな芝山に「いつか親父にも彼女を紹介しなければならない日が近くなっただけだよ」と司はフォローする。しかしその前に、芝山と松戸にも正式に紹介しなくてはならない。
どこか安全な場所で席を、とセキュリティを考えれば自分の庭であるこのビルが一番安全ではあるがそれは……どうなのだろうか。
「そうか、親父の料亭か」
あの料亭ならば司のみならず舎弟である二人が出入りしていてもおかしくない。昼間は一般人向けに気軽なランチ営業もやっているので千代子一人を料亭に呼んでも特に目立つことは無い。
「若?」
「私もいい加減、二人には彼女の事を紹介しようと思っていたんだ」
話を切り出す司に芝山はいたく感激をしているようだったが松戸は……もう千代子とは連絡を取り合っている仲なので「やったー」と間延びした返事をすれば「お前が一番喜ぶかと思ったんだが私の見当違いだったか」と司に言われてしまった。
「いや、だって兄貴の彼女だし……ねえ、俺が喜んじゃったらまずいでしょう」
「それはそうだな」
ウラでやり取りしているなど直接言ったらやはり殴られそうだな、と松戸は思う。別にワルイコトをしている訳じゃ無い。仕事の相談や司の様子などを千代子と共有しているだけ。
千代子にもいい刺激になるだろうと司は考え、予定を作ろうと三人は話を始める。
その日の夜、帰宅した司からの食事会の提案に快諾する千代子がいた。
松戸とはもう縁が出来てしまっているがいつも司のそばにいると言う芝山と言う人がどのような人となりなのか、話だけは松戸からも聞いていたので気になっていた。
夕食と軽い晩酌を終え、カウンターキッチンのシンクでグラスを流していた千代子はふと、司が何か言いたそうな雰囲気を醸し出している事に気が付き、グラスを片付けると司の座っているソファーの横まで近寄る。以前、司が千代子を傷つけそうになった時以来、二人はベッドを共にしていなかった。
まだ早い、と司は大きな自責の念で千代子を誘う事が出来ず……やはり愛している人と暮らしているのだから正しい欲望を持って千代子には接したかった。
「私の事で、悩んでいますか?」
少し屈んで、優しく問いかけてくれる千代子。
「痛かったり、怖い事は苦手です。それでも司さんがそこまで落ち込んでしまっていると私も寂しいんですよ」
「ちよちゃん……」
「あんまり構ってくれないと今度は私が司さんを襲っちゃうかも」
女性に言わせるセリフじゃない。
いつも千代子の前では穏やかな表情をしている司も眉を少し寄せ、あの日の事をまた、悔やむ。
よいしょ、と千代子が乗り上げるようにソファーに片膝をつけば一瞬ぐっと沈み込み、唇に柔らかくて温かい……暫く避けていた質感がもたらされる。
触れ合うだけのキスをしながら自分よりも一回り大きい体に手を添え、どうしても動けないでいる司を千代子は真っ直ぐに見つめる。
「好き……優しいあなたが好きです」
ふふ、と恥ずかしそうにしている千代子。
悲しい顔をしないでください、と言う声と共に千代子の両手がそっと司の輪郭を包み込んでもう一度、ちゅ、と短く口づけを落とす。彼女の親愛の行為はあまりにも優しく、司もその愛情を返すように千代子のすべすべとしたなめらかな頬にやっと触れた。
・・・
抱き締めたいから、と言う理由で千代子を自分の太ももの上に座らせたまでは良かったのだがそれから先、司はまたしても動けないでいた。
声を潜めている千代子の吐息が耳もとにずっと掛かり、身動きをすれば胸がゆるく擦れる。それに合わせて甘く短い声が発せられ、司は千代子が本当に自分をまた受け入れてくれた事に安堵しつつもこの向かい合っている座位と言う物は今の司自身には刺激が強過ぎていた。
いや、だからこの形を望んだのは自分であって。
しっかりと腕を回してぎゅうと抱き締めてくれている千代子の体を落とさないように支えはしているが、先ほどから千代子がどうやら自分に対して意地悪をしているように感じてならない。
「ふー」
耳もとでわざとやっているのだと司が気づく頃には既に深く繋がっている場所が酷く熱く、そのまま溶けてしまいそうな程になっていた。
「ちよちゃんそれ、やめて」
「ふふっ……」
やはり笑っている。
彼女なりの仕返しなのだろう。
「だって、司さん……これ、すると……少し、びくって」
生理的な反応を面白がられている。
しかしそれは千代子も同じで、司が少し身じろぎをするだけで「だめ」と甘い声で怒られてしまう。じゃあこのままになってしまうよ、とも今の司は言えなかった。
それにしても、あまり動かずにいると言うのに千代子も、司自身も、じわじわと波のように寄せる心地よさに呼吸が勝手に荒くなっていく。司の方はその息を噛み殺してはいたが千代子の方が先に熱に浮かされたように小さな声で喘ぎ、その熱く潤む中が俄かにざわめきだす。
「っあ、あ……ッ」
引いた呼吸に呑まれる声。
司の筋肉質な背にしがみ付いていた手の先がその入れ墨を抉るかのように深く食い込むと体を強張らせ、呆気なく果ててしまった。
それと同時に強く搾り取られそうになった司がどうにか爆ぜる衝動を堪えるが今のは一体なんだったのか、と考える間も許されずに千代子の肩で息をしている体が自分をまた締め上げようとしているのを感じる。
「ちよちゃん、」
大丈夫?と背中を支えて下に降ろそうかと思ったがまた強くしがみ付かれて「やだ」と言われてしまう。
「いま、うごいちゃ、だめ……っ」
とまらない、と言う。
確かに司も顔を顰める程に千代子の内側が自分に精を吐かせようとしているが、いつもより大きく上下する千代子の呼吸に心配になってしまう。
「ちよちゃん」
「気持ちいいの、とまらな……い」
なんとも言えない切なげな声にずく、と欲が増える気がした。
「あッ……う、」
もはや苦しそうにすらしている千代子を少し引き剥がして顔色が悪くないか表情を確認してみれば眉尻を下げて瞳は蕩けきり、呼吸に合わせてうわ言のように小さな嬌声を上げ続け――その途中で「司さん……」と名を呼ばれてしまい、耐えられなくなる。
それでも、千代子を傷つけそうになった罪悪感がその先の行動を司に思い留まらせてしまう。スキン越しとは言え千代子の中で爆ぜてしまいたい自分の体と意識のせめぎ合いを千代子の「おなか、くるしい」の言葉に少しだけ、様子を探るように揺すると耳もとでは甘い声が立つ。
終わりが見えない夜に、もう千代子もつらいのだ、と汲む。
「痛かったり、怖かったら、教えて」
うん、うん、と頷く体をしっかりと持ち直してやって下から軽く揺すり上げる。
ひゅ、と息を飲む喉の音、肩を竦める癖。
全てが腕の中で完結されようとしている。
千代子も動き出す司の苦しそうな吐息を受けて背筋がぞくぞくと、それだけで感じてしまっている自分の体を司に委ねる。
「我慢も、しないで」
ぐ、と抉られるように突かれて千代子のまっさらな背がしなる。
司の大きな手がすぐに支えてくれるがそうすれば千代子の艶めかしい大人の女性の快楽に赤く色づき染まっている顔を間近で見てしまう事になった。
可愛い物が好き、と言う事が最近分かって来た千代子の――夜だけに見せてくれる表情。汗で首筋に張り付く髪も、揺さぶられるたびにどうしても滲んでしまう涙も美しくて、儚い。
千代子は自分の思いを言葉にする。
一緒に暮らしているのに、自分はちゃんと謝ってくれた司の事を許したつもりでいたのに。一向に、以前に司からもたらされていたスキンシップすらなくなってしまい……広い家の中、二人で暮らしているのにまるで一人ぼっちのような気がしていた。
司に愛されていたいと、そして愛したいと思い、一緒に暮らしていたのに。
「寂しいのは、いや……」
もっと、と切なくせがんだ声に壊さないよう優しく抱く司と簡単にその腕の中に収まって揺れる千代子の体。
「や、んッ……ん、あつ、い」
「ね……本当、」
爪を立てられている痛みなんてまるでないように感じさせる。
何もかもが愛おしくて、大切で。
「ひ、ぅ……んん!!」
「ッく、」
「もっと、もっと、――して……ッ」
愛して、と聞こえた気がした。
何かを欲しがったりしない千代子が欲しい物、それを与えられるのは司だけ。
最後はもう声になっていなかった。繰り返される司の肉質に奥深くまで何度も翻弄され、息を詰まらせて戦慄く姿をしっかりと支えて司も大きく息を吐く。
大丈夫かな、と心配になるような情熱的な夜を過ごした二人からやっと熱が引き始める頃。
疲れただろう、とかたわらにとりあえず寝かせていた千代子がゆっくりと起き上がり今日はシャワーを浴びたい、と言う。そこまでの体力が残っているのだろうか、ともちろん千代子が望むなら先に風呂に入らせようとすれば「司さんの背中、流したいんです」と言い出した。
「このまま?」
「どうせもうお互いに裸ですし」
笑っている千代子が「明るい所でよく見せてください」と司の背に彫られている入れ墨の事を言う。
「……ちよちゃん、本当は私にずっと意地悪をしているね?」
なんだか成り行きで千代子と一緒に入ることになったバスルーム。一応、先に千代子を入れてから司も入ったのだが背後で笑っている千代子が「本当に入れ墨ってこんなに細かいものなんですね」と泡立っているスポンジを片手につつつ、とぬるつく指先で巴御前の意匠をなぞる。
こう言うシチュエーションって成人男性向けの動画にあるやつじゃないか、と思っても千代子が「まだ動いちゃ駄目です」と言うので付き合っている。
当の千代子には冷えてしまうから、ともう司がバスタオルを体に巻くように言い、ボディーソープは流されていた。
私も流石に風邪を、と司が思えば首筋にもぬるりと指が伝う。
まずい、と思っても遅かった。
「私はお先に失礼しますね」
明らかに生殺しにされている。
シャワーで手の泡を流すと「どうぞ」とシャワーヘッドを渡され、千代子だけが先に出て行ってしまった。燻る熱を持て余しながらも落ち着くよう、大きく深呼吸をした司は手渡されたシャワーで泡を洗い流し、寝室へと戻れば掛布団をしっかりと掛けて眠そうにしている千代子がいた。
千代子自らの寝室で先に寝てるかな、と思えば、だ。
司は枕元に灯してあった明りを小さく絞るとそのかたわらに横になり、同じように布団を掛け、甘い疲労と心地よさに瞼を閉じようとする。するともぞもぞと隣の千代子が寄ってきて「ふふふ」と小さく笑って……そんな彼女に司が「おやすみ」と優しく声を掛ける今夜は二人にはとても大切で、特別な夜だった。
・・・
千代子と本当の意味で和解をしてから数日後の昼。
本家今川組組長の持ち物である料亭で芝山と松戸を前に軽く自己紹介をする千代子の姿があった。品の良い、それでいてフォーマル過ぎない濃紺のワンピースに小さなピアスが可憐に光る。
終始穏やかな会話を交わし、最近の司に不摂生を許していない千代子の手腕を芝山はとても褒めていた。自分では司の不安定な食生活を止められなかったからだ。
松戸も初めましての素振りで挨拶をしていたが千代子が途中で笑いそうになっている事に気づいて不自然にならない程度で話を切り、司の顔色の良さはやはり千代子のお陰なのだと褒める。
「でもこの感じ、もうとっくに新婚さんじゃないっすか」
ねえ芝山さん、と松戸が隣の芝山に話を振れば「若が……若が、こんなに素敵な女性と」と感極まってしまい……これは本当に二人が籍を入れるとなったら号泣するんじゃないのか、と松戸は思う。
とにかく、大して女性関係を築かなかった司がこんなにも大切にしている彼女とは今後も末永く、一緒にいて欲しいと思う。やはり自分たちは舎弟であって、千代子のような振る舞いを司には出来ない。たとえ司が自分たち舎弟を家族と同等に扱ってくれていても――彼の持つ才能は特殊だった。
飼う者、飼われる者の圧倒的な差を松戸も芝山もよく分かっている。
「あーもー芝山さん昼間なんだから一杯だけっすよ。まだ仕事あるし」
「ちよちゃんはどうする?」
「では私も一杯だけ頂きます」
司の何気ない『ちよちゃん』呼びに松戸は既に限界が訪れてしまう。あの司が、パートナーの女性を愛称で恥ずかしげも無く呼んでいる。
俺もうお腹痛いんですけど、と千代子がいる前なので言わなかったがいちゃついている訳ではなくとも、とても仲が良さそうにしている二人の姿は眺めているだけで松戸の腹はいっぱいになりそうだった。今からコース料理なのに。
それから暫く、食事を楽しみながら千代子が司の事について非常に興味深い事を言うものだから松戸は吹き出しそうになってロクに食事が喉を通らず、芝山はその都度、感激しきりだった。
「若……本当に良い御嬢さんを迎えになって俺は、俺はもうこのまま引退したいくらいです」
「それは困るんだが」
「芝山さん隠居しちゃったら誰がこんな気難しい人の付き人するンすか」
「松、お前が死ぬまでお二人を支えて」
「話の展開が随分飛んでるなー」
馴れた言葉のやり取りに可笑しそうに笑う千代子につられて司も笑う。
今日の千代子は都内に出て来ていたついでにこの後、買い物をしてから帰ると言っていた。そしてデザートを終えたあたりで「お化粧を」と化粧室に立つ。
それならそろそろ千代子の移動の為のタクシーの手配を、と司が思っていれば食後の緑茶と入れ替えようと給仕係がワイングラスを下げに来る。
その時、カチリと鋭い音が一つ上がった。
グラスを盆に乗せようとした際に手が滑ったのか、先に回収されていた司のグラスのボウル部分と今、回収された方のグラスの薄いリムの部分がかち合ってしまい――千代子が使っていたグラスが大きく欠けてしまった。
すぐにこの料亭の持ち主、本家今川組の若頭である司に破片が跳ねたり、怪我は無かったかと真っ青な顔色をして問う給仕係に「大丈夫だよ」と声を掛けるがその司の表情が曇ったのは確かだった。
極道者は縁起を担ぐ。
しかしそれは古い習慣、新しい時代をゆく司は形式だけは場に合わせる程度に踏襲し、そこまで深くは気にしていなかったが芝山と松戸も割れたのが千代子のグラスだったのをしっかりと見ていた為に掛ける言葉を選ぶのに手間取ってしまっていた。
軽く化粧を直し、クラッチバッグを手に化粧室から出て来た千代子はふ、と視線を下げる。
料亭の広い廊下の先で少し“あちらの方”かな、と思うような風体の男性客二人とそれに付き従う平身低頭の客室係が視界に入ったからだ。千代子も司たちを待たせてしまっているのでそのまま、なるべく気配を消すようにそそくさと少し入り組んだ奥の客室へと戻ってゆく。
すると二人の内の特に大柄な男の一人が眉を顰めて千代子が向かっていった方を見てから頭を下げている客室係を見下ろす。
「今のオンナ……一等室に行っただろ」
「いえ、あの」
「誰が来ている。御隠居か?肺をやってから大人しいと思っていたが」
それとも。
男の顔が自分の考えた可能性に俄かに歪む。
「御長男の方が来ているのか」
何も答えられないでいる客室係の姿が答えになってしまう。
「今の女、探りますか」
「いや……良い。どうせシノギの関係か松戸のオンナだろ」
あんな地味なオンナに興味無えよ、と男は言うが自分の知っている松戸と言う男がああいった大人しそうな女が趣味であると言うのは些か疑問である。
地味な女……千代子の消えて行った廊下を睨むその目はとても暗く、獰猛さをまるで隠していなかった。
化粧室から戻って来た千代子は自らが使っていたワイングラスが欠け、割れてしまった事を知らない。それどころか松戸に「今からお出掛け?」と明るく話を振られて行先を答えている。
食後の軽いお茶を済ませ、呼んだタクシーに千代子だけを乗せる為にその場で見送り、司たちは料亭の客室に残っていた。
「大丈夫ですって。兄貴、仕来たりとか縁起とかそこまで信じてないタイプじゃないッスか」
「若、今日も千代子さんにはセキュリティタグを持たせて」
「ああ……このまま出掛けるなら、と私が確認している」
「兄貴も心配性なくらいで今は良いんですよ」
俺たちは仕事に戻りましょう、と芝山に促されて三人だけで料亭の廊下を歩く。
それを他の個室の戸の影から睨んでいた男は片付けが始まろうとしていたその奥の部屋へとずかずかと入り込み「席順を教えろ」とまるで脅しを掛けるかのように従業員に問う。
「しかし今川様……」
司が座っていたであろう上座の隣を睨む『今川』の姓を持つ男。
使用された席は四席、先ほどまで残っていた三人と既に不在となっている一人の女性の存在。
本家今川組の組長が所有するこの料亭で一等室を気軽に使えるのは組長本人の進を筆頭に今川の姓を持つ者のみ。隠し部屋のように一番奥まった場所にある客室。表門ではなく裏口からの出入りも可能な密談の現場には打って付けの場所。
松戸の女にしては地味であり、芝山の女にしては若過ぎる。
そして一番はそう――その存在を隠そうとしていると言う事は、司の女であることに間違いない。会社関係ならばもっと大所帯になる筈で、側近中の側近のみの食事の席にいたと言うことは。
男はフン、と鼻で笑う。
完璧なまでに隙の無い“御長男”に女が出来ていたとは。
「なあ、司は今どこに住んでいる?」
「長居を避けているのか都内を転々としているようなので……本日中に割りましょう。部下を張らせておきます」
「三浦のような小物じゃイマイチだったんだよなァ。それに“大きな駒”の方も安易に動かすもんじゃねえ……丁度いいモンを見つけたものだ」
不敵な笑み、とはまさに今この男の表情を指すようだった。
たまたま近くに寄り、昼食をとろうとした所で一番奥の座敷まで行くのが面倒な為に手前の個室に通すよう指示していた折に目撃した一人の女性。
その女性は司にとって今、一番大切な人であると察するに値する待遇。
男は部下が更にその下の者に根回しを始めているのを聞きながら一等室を後にする。
・・・
荷物が多かったらタクシーで帰っておいで、とは言われていたが結構な額になってしまう事に相変わらず気が引けていた千代子。司からカードを預かっている口座内のお金は自由に引き出して使って良いと言われているがそんな大それた事は出来なかった。それに、少しは自分で稼いだ分もある。
司の部屋の空調は一定を保っている為にいつでも快適ではあった。
だけどもう暑い季節はすぐそばだし、と大きなインテリアショップの中でキッチン用品を眺めていた千代子はこれからの季節に向けて煮出した麦茶や紅茶を入れておく為のガラスのボトルを一つ、手に取る。
アイスコーヒーばかりでは胃が荒れてしまう、との考えではあったがやはり夏は麦茶を煮出さなくてはならない衝動に駆られている千代子は手にしていたボトルをカゴに入れる。次は、と食器の並ぶ棚も眺めていれば前から探していた丁度いい大きさの花弁を模した丸いおしゃれな三つ仕切りの皿を見つけて二枚、カゴの中にそっと入れた。
二人で暮らす為の物を手にして会計に向かう。
司に言われていたようにこれはこっちのお財布、と二人で使う為の物として支払いを済ませる。いつもならスーパーに食材を買い出しに行ったり、生活に必要な消耗品を補充する時にしか開かない財布も今日は少しだけ緩めていた。あまり遠慮をし過ぎても普段忙しい中で心配してくれている司の気持ちを無碍にしてしまっているようで、今日の千代子は“二人で暮らす為だから”と心に留める。
あとは、と千代子なりにショッピングを楽しみながらも昼に談笑をしていた事を思い出して少し笑ってしまいそうになっていた。
松戸の軽い人となりは先に知っていたが芝山もなかなかの人であると判明した。それにしても松戸には司の事のみならず、個人的な仕事の相談など色々と無理を通して貰っている。
今日の昼のセッティングはきっと付き人である芝山が時間を捻出してくれたに違いない。
二人に何かお礼を、と思っても会う機会もほとんど得られない。司にお重箱を持たせて出社させる訳にも行かず……手料理とかちょっと重たい女だし、と悩む。
(そう言えば司さん、最初から私の料理……作る理由はそれなりにあったけどよく考えたら結構無茶な事を言われていた気がする)
それでもその時に自分が出来る事と言ったら、本当にそれだけだった。
ふと、千代子はデパートのショーウィンドウに反射する自分の姿を見て少し、立ち止まる。
小さな部屋で一日中部屋着のまま、気分すら塞ぎ、うずくまることは何回もあった。込み上げてくる心細さをどうにかして生活をしていた頃の自分の姿を思い返せばまだ胸の奥がじくじくと痛くなってしまう。
しかし今日は三人と食事をする為にすっきりとした装いをしていた千代子は静かに息を吐いて背筋を伸ばすときゅ、と口角を上げて前を向き、歩き出す。
(お昼は素敵な創作和食だったから夜はどうしよっかな)
出て来たついでだから、と軽やかにヒールを小さく鳴らす千代子はそのままデパートの中に入っていく。
そしてそのまま白むほどに明るく華やかな化粧品や服飾フロアには目もくれず、真っ直ぐに地下フロアへ……量り売りのお惣菜売り場や質の良い食材を扱っている生鮮食品フロアへと吸い込まれて行ってしまった。
――小一時間後。
荷物が多くなってしまい、タクシードライバーに大きな紙袋をトランクに納めて貰っている千代子がいた。
(ごめんなさい司さん……つい、散財を……そう、お酒をちょっと頂いてしまっていたから……ああもう、勢い任せにやっちゃった……)
案の定、であった。
デパートの大きな紙袋が一つ。そして先に購入していたそこそこ大きいガラスのボトルと皿が二枚入ったインテリアショップの紙袋が一つ。それなりに重さのある二つの紙袋を提げてお出掛け用のヒールを履いたまま電車に乗って歩いて帰るには……流石に遠過ぎた。
マンション付近に着くまで非常に居たたまれない表情をしながら呼び止めたタクシーの車内で司に『今から帰ります』とメッセージを送る。タクシーを使った事も正直に添えて。
その夜、買って来た惣菜を同じく買って来たばかりの仕切りのある皿に一人前ずつ移しながら「ごめんなさい」と誘惑に勝てなかった事を司に謝罪する。
「昼からも出掛けて疲れていただろうし、買って来た物だって私は全然構わないよ。美味しそうだったんだろう?」
「あまりそっちの方を見ないようにしていたんですけど……いい匂いがするし、どれもキラキラしていて」
「彼らはそれが商売なんだから、ね。マーケティング戦略としては大成功だ」
笑っている司にしょぼしょぼしながらも鮮やかな色合いのサラダ惣菜や大きなシュウマイなど和洋折衷、誘われるままに購入した惣菜を三つ仕切りの皿に盛りつける。以前から司が遅い日、おかずを盛り合わせて冷蔵庫にしまっておく時など水分がどうしても他の料理に付いてしまうのを気にしていたところ今日、ちょうど良さそうなサイズの皿を見つけて購入したのだが早速、使われる事になった。
昼は横並びに、夜には向かい合って座る二人。
「実は、明日の朝のパンもあるんです……」
「じゃあ少し早起きして食べてから行こうかな」
本当に申し訳なさそうにしている千代子が可愛くて、普段はコーヒーと千代子が冷凍庫にストックしている甘さのない小さなパンケーキ二枚だけで朝食を済ましてしまう司が「どんなパンにしたの?」と聞いてくれるので千代子はそれが焼き立てで、と話を始める。
キッチンで軽く片付けをしていた千代子に「今日はありがとう」と声を掛ける司は「眠くなるまで、私の話をしても良い?」と寝室に誘う。
もちろんです、と片付けを切り上げてそのまま眠ってしまえるように身支度をした千代子がリビングの明りを落とし、司の書斎兼寝室を訪れる。
大きなベッドに横になって「眠かったら寝ちゃっていいから」と司は千代子を隣に置いて自分が伯父の養子となり育った事や社会の裏側でもそれなりの立場がある事を時系列に沿って千代子に聞かせる。
そして今の生活がとても充実している事、千代子が二人で暮らしやすいように工夫をしてくれている事、それに伴って多くの気を遣わせてしまっているのではないのかと言う心配も言葉にする。遅く帰る夜も多く、家事にほとんど参加出来ていない事。自分が同棲をお願いしておきながら寂しい思いをさせているのではないか、と言う正直な思いも口にする。
「司さんは優しすぎます。あと私より心配性だとも思うんです」
「いや……私が、そうしたいんだ」
それは司にとって“ちよちゃん”が初恋の人だったから。どうしても、忘れられなかった。
司が本家今川の養子となる道を選んだのは色々と気に掛けてくれていた伯父の進に対する恩義の他にも本当に強い人間とはどういった人間なのか、と自分の目で確かめたかった部分も多分にあった。
今は義父である進に子供時分、強い人間がなんたるかをやって来るたびに言い聞かせられ続けていたせい……その時は本当に年齢も思考もまだ子供であり、深く考える事が出来なかった司。直系組長ではない三次団体の組長でしかない父親である修の姿がどうしても弱く見えてしまっていた。
何故、今川の名を使って成り上がろうとすれば出来た事を実父はしなかったのだろうか。
思春期を迎え、ますます膨らむ疑問と答えようとしない父親。
世間に迷惑をかけて来た極道者として、もう古い仕来たりから抜け出して集団でありながらも真っ当な、道を外れてしまった者達にももう一度やり直せる場を、と新しい道を作ろうと奔走していた伯父の姿は司にはどうしても輝いて見えてしまっていた。
連合の若頭の座も、その道を進む為に必要なだけであり、伯父はその座にこだわってなどいなかった。その手腕から会長ともなりえたがそれは兄弟分の中津川に任せ、その下で躍進し続けた。
「松戸の会社もね、小さな事から着実に社会経験を積ませる為の場でも……寝ちゃったか」
気が付けば瞼を閉じ、すうすうと寝息を立てている千代子がいた。
はたしてどこまで聞いてくれていたのかは分からないが……穏やかな表情をして隣で眠っているのならそれでいい。一緒に暮らしているのだからいつでもこの話の続きは出来る。
司は、自分の方を向いて横になって眠っている千代子の顔の近くでゆるく重ねられていた指先を片手でそっと覆うように握りこむ。
(小さい……)
昔と変わらず、千代子のこの手は自分を癒してくれる。
殴られた傷を、血が滲んでいたような深い傷を臆することなく手当てをしてくれた手は今も変わらず自分に優しい。
だから、二度と離れてしまわないように。
(諦めてはいけない。やり遂げなくては……)
たとえ自分に災厄が降り掛かろうとも千代子だけは守りたい、とそんな思いを司が強く抱くのには理由があった。
遡ること数時間前。食事会の後にオフィスに戻った司たちの元には連合本部から本部総会開催の知らせが入っていた。
今度こそ会長個人からの呼び出しでは無く、直参組長やそれに準ずる組長代行や若頭、二次昇格を待つ三次団体の組長が一挙に集まる半年に一度の定例会議の場、なのだが……。
穏やかに眠る千代子の手を握る司の目が少しだけ光を失い……そろそろ覚悟を持って行動をしなければならない局面に息を吸い込み、細く長く吐き出す。
どうかこの先、無事に全てが終われるように。
片手で覆えてしまうような千代子の両手。眠り始めたせいかぽかぽかと温かい千代子の体温が覆っている手のひらから司へと移り、この何気ない幸せな時間がずっと続くようにと心のなかで祈る。
そんな気持ちに少し強く握り込んでしまえばまだまどろみだったのか少しだけ瞼を開けた千代子がぼんやりと重なる手を見ているようだったが司が「おやすみ」と言葉を掛ければまた瞼は安心したようにそっと閉じられる。
しかし、二人だけの穏やかな時間に影を差すようにマンションの周辺では数台の作業車を装った正体不明のワゴン車がぐるぐると巡回を始めていた。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜
青花美来
恋愛
「……三年前、一緒に寝た間柄だろ?」
三年前のあの一夜のことは、もう過去のことのはずなのに。
一夜の過ちとして、もう忘れたはずなのに。
「忘れたとは言わせねぇぞ?」
偶然再会したら、心も身体も翻弄されてしまって。
「……今度こそ、逃がすつもりも離すつもりもねぇから」
その溺愛からは、もう逃れられない。
*第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞しました*
ヤクザのせいで結婚できない!
山吹
恋愛
【毎週月・木更新】
「俺ァ、あと三か月の命らしい。だから志麻――お前ェ、三か月以内に嫁に行け」
雲竜志麻は極道・雲竜組の組長を祖父に持つ女子高生。
家柄のせいで彼氏も友達もろくにいない人生を送っていた。
ある日、祖父・雲竜銀蔵が倒れる。
「死ぬ前に花嫁姿が見たい」という祖父の願いをかなえるため、見合いをすることになった志麻だが
「ヤクザの家の娘」との見合い相手は、一癖も二癖もある相手ばかりで……
はたして雲竜志麻は、三か月以内に運命に相手に巡り合えるのか!?
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした
瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。
家も取り押さえられ、帰る場所もない。
まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。
…そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。
ヤクザの若頭でした。
*この話はフィクションです
現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます
ツッコミたくてイラつく人はお帰りください
またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる