麗しのマリリン

松浦どれみ

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5月

8−5彼の元へ

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『みなさん、お疲れ様でした~! 撮影した写真は出口に表示されますので、ぜひご購入ください。お忘れもののないよう、お願いいたします』

 コースターはゆっくりと発着場に戻った。目まぐるしく変わる景色やスリリングなスピード感。マリは意外とハマりそうだと思いながら安全バーが上がるのを待った。

「新堂?」
「…………」

 バーが上がって隣を見ると、そこには血の気の引いた新堂が。声を掛けるが返事はない。白い肌が不健康に青白くなっており、顎からは汗が落ちている。

「新堂!」

 マリは慌てて新堂の名を呼び、彼の肩と手に触れた。指先が冷え切っている。こんなに暖かい日におかしい。

「新堂、大丈夫? 私スタッフの人呼ぶね」
「待って……」

 マリがスタッフを呼ぼうと立ち上がると、新堂に引き止められる。彼は力無くマリの手を掴んでいた。

「でも、具合悪いんでしょう?」
「大丈夫……酔っただけ」

 不安そうに見下ろすマリに新堂は静かに返事をした。喉がカラカラに渇いていて、声がうまく出せず掠れる。

「新堂? どうした~?」
「大丈夫か~?」
「酔ったって言ってるんだけど……」

 先に降りてやってきたダブケンがマリと新堂の座席を覗き込む。マリは眉を寄せながら彼らに状況を説明する。
 すると、新堂がふらふらと立ち上がった。

「ごめん、大丈夫……」
「本当か~? とりあえず肩貸すから掴まれよ」
「俺も俺も、ほら気をつけて……」

 マリは先にコースターを降り、入れ替わりにダブケンが立ち上がった新堂を支えながらコースターから降ろすのを見守った。

「え、新堂具合悪いの?」
「スミちゃん、そうみたい。酔ったって……」
「大丈夫かなあ?」

 最前列にいたスミちゃんとヨナも降りてきて、ダブケンとアトラクション出口に向かう新堂の背中を心配そうに見送る。マリも彼女たちと共に出口に向かった。

 マリがアトラクションを出ると、近くのベンチに新堂が座るところだった。依然、彼の顔色は青白く体調は悪そうに見え、急いで駆け寄る。

「新堂……」
「マリ……驚かせてごめん」

 力無く消え入りそうな声で返事をする新堂。マリは勢いよく頭を左右に振る。

「そんなのいいから、本当に酔っただけ?」
「ああ、少し休ませて貰えば平気だから……あとで合流するよ」

 全員新堂を置いていくことを嫌がったが、彼自身の「大丈夫だから気にせず楽しんできてほしい」という言葉に、頷き次のアトラクションに向かった。

 しかし、マリはやはり新堂のことが心配で、道中で足を止めた。

「みんな、あの、私やっぱり……」
「行っておいでよ」
「うん、ついててあげてほしい」

 マリの言葉に、スミちゃんとヨナが優しい笑顔で後押しする。

「新堂のこと、頼みます!」
「よろしく!」

 ダブケンも揃って笑顔を見せていた。

「ありがとう、あとで連絡する!」
「「いってらっしゃい!」」

 マリは来た道を引き返すべく、見送ってくれる彼らに背を向け走り出した。
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