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5月
8−6ベンチにて
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一方、みんなの姿が見えなくなったのを確認した新堂は、ベンチに横になって体の力を抜いた。抜けたと言った方が正しい。後悔と罪悪感と恐怖——過去のトラウマがフラッシュバックしたのだ。立っているのがやっとだった。指先は震え、血の気が引いてしまっている。
そんなときに気になるのは、最後に見たマリの不安げな表情だった。今にも泣きそうに眉を寄せ目尻を下げていた。あんな顔をさせてしまった後悔と彼女にこんな姿を見せてしまった情けなさが込み上げる。
「……ダサすぎだな、俺」
ため息混じりに呟いて手にしている帽子を顔に乗せて目を閉じる。気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。
「新堂!」
数分後、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。新堂が帽子をずらして目を開けると、そこにはマリが立っていた。彼女は若干息が乱れ、不安げな表情で新堂を見ている。
「マリ?」
「ごめん、やっぱりひとりにするのは心配で……。みんなもそうだったみたい。私、ここに一緒にいてもいいかな?」
こんな姿、見せたくないのに。ひとりになりたいと思っていたのに。新堂はマリが来てくれたことが、そばにいてくれることが嬉しいと思った。
「ありがとう」
新堂は体を起こし、もうひとり座れるスペースを空けた。マリが慌てて新堂の体を支える。
「新堂、無理しないで寝てていいんだよ」
「大丈夫」
「でも……」
「じゃあ、肩貸して」
隣に浅く腰掛けたマリの肩に、新堂の頭が寄りかかる。マリの体に力が入るのを感じた。緊張しているようだと新堂は思った。
「あ、新堂。飲み物買ってきたの……お茶とスポーツドリンクどっちがいい?」
「スポドリがいいな」
「はい、どうぞ」
新堂はマリがペットボトルの蓋を開けて手渡してくれたことに思わず笑みを浮かべた。
「ありがとう、マリ」
受け取って、一気に半分ほどの量を飲んで大きく息を吐く。喉はずいぶん渇いていて、体の中を通って水分が染み渡っていく感覚に、やっとフラッシュバックから少し現実に戻って来れたような気がした。
「少し落ち着いた?」
二〇分ほど経ち指先の震えがおさまった頃、マリが優しい声で新堂に声をかけた。新堂は彼女にさらに体重を少し預けて返事をする。
「うん、だいぶ平気」
「よかった。心配したんだからね。そんなに苦手なら無理しないで待つのでもよかったんだよ」
「ひとりで待つの、カッコ悪いかなって思って」
「みんな、そんなふうに思ったりしないよ」
「マリは?」
「え?」
新堂は体を起こし、マリを見つめた。不意に質問された彼女は瞬きしながら頬を染めている。視線は逸らさず会話を続けた。
「マリはカッコ悪いって思わない?」
「ええと……」
マリの顔が帽子の影で隠せないほどに赤みを帯びている。彼女の返事を新堂は聞き逃すまいと耳を澄ます。
「新堂、大丈夫か~!!」
「お~い!」
向かって右方向から聞き覚えのある声が聞こえた。目の前にいるマリではない。新堂とマリが声が聞こえる方に顔を向けると、そこにはダブケンとスミちゃん、ヨナの姿が見えた。
「みんな、どうしたの?」
みんながまだ遊んでいると思っていたマリは戻ってきた彼らに驚き首を傾げた。
「そういえばそろそろお昼だなあと思って」
「新堂の様子も見つつレストラン行こうかって話になったの」
「新堂、メシいけるか?」
サトケンの問いかけに、新堂は頷いて立ち上がった。
「ああ、もう大丈夫。ありがとな」
こうして六人は揃って少し早めのランチに向かった。
そんなときに気になるのは、最後に見たマリの不安げな表情だった。今にも泣きそうに眉を寄せ目尻を下げていた。あんな顔をさせてしまった後悔と彼女にこんな姿を見せてしまった情けなさが込み上げる。
「……ダサすぎだな、俺」
ため息混じりに呟いて手にしている帽子を顔に乗せて目を閉じる。気持ちを落ち着かせようと深呼吸をした。
「新堂!」
数分後、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。新堂が帽子をずらして目を開けると、そこにはマリが立っていた。彼女は若干息が乱れ、不安げな表情で新堂を見ている。
「マリ?」
「ごめん、やっぱりひとりにするのは心配で……。みんなもそうだったみたい。私、ここに一緒にいてもいいかな?」
こんな姿、見せたくないのに。ひとりになりたいと思っていたのに。新堂はマリが来てくれたことが、そばにいてくれることが嬉しいと思った。
「ありがとう」
新堂は体を起こし、もうひとり座れるスペースを空けた。マリが慌てて新堂の体を支える。
「新堂、無理しないで寝てていいんだよ」
「大丈夫」
「でも……」
「じゃあ、肩貸して」
隣に浅く腰掛けたマリの肩に、新堂の頭が寄りかかる。マリの体に力が入るのを感じた。緊張しているようだと新堂は思った。
「あ、新堂。飲み物買ってきたの……お茶とスポーツドリンクどっちがいい?」
「スポドリがいいな」
「はい、どうぞ」
新堂はマリがペットボトルの蓋を開けて手渡してくれたことに思わず笑みを浮かべた。
「ありがとう、マリ」
受け取って、一気に半分ほどの量を飲んで大きく息を吐く。喉はずいぶん渇いていて、体の中を通って水分が染み渡っていく感覚に、やっとフラッシュバックから少し現実に戻って来れたような気がした。
「少し落ち着いた?」
二〇分ほど経ち指先の震えがおさまった頃、マリが優しい声で新堂に声をかけた。新堂は彼女にさらに体重を少し預けて返事をする。
「うん、だいぶ平気」
「よかった。心配したんだからね。そんなに苦手なら無理しないで待つのでもよかったんだよ」
「ひとりで待つの、カッコ悪いかなって思って」
「みんな、そんなふうに思ったりしないよ」
「マリは?」
「え?」
新堂は体を起こし、マリを見つめた。不意に質問された彼女は瞬きしながら頬を染めている。視線は逸らさず会話を続けた。
「マリはカッコ悪いって思わない?」
「ええと……」
マリの顔が帽子の影で隠せないほどに赤みを帯びている。彼女の返事を新堂は聞き逃すまいと耳を澄ます。
「新堂、大丈夫か~!!」
「お~い!」
向かって右方向から聞き覚えのある声が聞こえた。目の前にいるマリではない。新堂とマリが声が聞こえる方に顔を向けると、そこにはダブケンとスミちゃん、ヨナの姿が見えた。
「みんな、どうしたの?」
みんながまだ遊んでいると思っていたマリは戻ってきた彼らに驚き首を傾げた。
「そういえばそろそろお昼だなあと思って」
「新堂の様子も見つつレストラン行こうかって話になったの」
「新堂、メシいけるか?」
サトケンの問いかけに、新堂は頷いて立ち上がった。
「ああ、もう大丈夫。ありがとな」
こうして六人は揃って少し早めのランチに向かった。
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