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5月
8−4トラウマ1
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「全員装備は整えたし、乗り物でも乗ろうか!」
スミちゃんはそう言って前方に見える船のアトラクションを指してから歩きだした。
「楽しそう」
「「行こうぜ!」」
ヨナ、ダブケンも続けてアトラクションに向かう。
「マリ、行こう。船は平気?」
新堂は先に歩き始めたスミちゃんたちに続いてマリと歩幅を合わせる。マリが顔を上げ目を細めて頷いた。
「うん、平気。楽しみ」
実は懸念していることがあったが、来てよかった。新堂はマリの笑顔を見てそう思っていた。
船のアトラクションは海に出た設定で水辺を周り、ナビゲーターのスタッフと共に冒険をするというものだった。時折水面からモンスターが出てくると、ダブケンがお互いにしがみつきあって固まる。スミちゃんはその様子を撮影し、ヨナと一緒に楽しんでいた。
新堂はマリがダブケンと同じタイミングで驚き、隣に立つ自分の服の裾を掴むのが嬉しかった。
「さて、そろそろ本格的なのいっちゃおっか!」
アトラクションを出ると、スミちゃんが先の方に見える山のアトラクションを指した。ULR一番人気のアトラクション「ハイテンションマウンテン」だ。いわゆるジェットコースターである。
「待ってました」
「「よし、行くぞ!」」
歩き出したスミちゃんに続いて、ヨナやダブケン、マリと新堂が続く。
「新堂、もしかして絶叫系苦手?」
マリが新堂に向かって少し眉を上げ、イタズラな笑みを浮かべている。
「とりあえず酔い止めは飲んだ」
新堂は口角を上げ、マリに笑みを返す。このアトラクションへの挑戦が些細なことであると、自分をごまかすための笑みだ。
「う~ん、この緊張感。ワクワクする」
「ヨナ、本当に好きなんだね。こういうの」
発射前、最前列でニコニコと笑うヨナにスミちゃんが声をかけている。次の列のダブケンは表情も固く緊張を隠せていない。
「タナケン、大丈夫だ」
「サトケン、最後まで俺らは一緒だ!」
その後ろの列にマリと新堂は並んで座っていた。
「ダブケン、物騒なこと言わないでよ」
「「すみませ~ん」」
マリのツッコミでオチがついたところで、安全バーが下りる。
「新堂、本当に大丈夫?」
「あ、ああ……」
マリは席についてから言葉を発していない新堂を不思議に思い、声をかけた。力ない返事が返ってきたところで、その声はスタッフのアナウンスでかき消えてしまう。
『それではみなさん、ハイテンションでいってらっしゃ~い!』
ゆっくりと、コースターが動き出す。カタカタと音を立てながらカーブし発着場を出て、小刻みに車体は揺れながら坂を登る。
そして、坂の頂点。先のレールは全く見えず、最前列の目の前には空が広がっている。そこでガタンという音とともに、コースターはクライマックスを迎える。
「「きゃああ~!!」」
猛スピードでコースターが坂道を急降下する。乗員たちは悲鳴を上げながら、重力に耐えるべくバーを握りしめたり、高揚感から両手を上げてアトラクション最大の見せ場を体感した。そのスピードに乗ったまま、コースターは上下や左右に進路を変えて進んだ。
そんな中、新堂はカーブ時の鈍い衝撃と過去のある出来事が重なり、目の前の景色も様変わりしていく。
——ドン! 鈍い音の中に、キイという甲高い音が混ざる。次に衝撃と、痛み。
忘れたくても忘れられない。
真っ暗な道に、ふわふわと舞う白い雪。
呼びかけても誰かの返事がない。
冷え切っていく身体。赤いランプとサイレン——。
それは、新堂にとっては忘れられない、全てを失った日の出来事だった。
スミちゃんはそう言って前方に見える船のアトラクションを指してから歩きだした。
「楽しそう」
「「行こうぜ!」」
ヨナ、ダブケンも続けてアトラクションに向かう。
「マリ、行こう。船は平気?」
新堂は先に歩き始めたスミちゃんたちに続いてマリと歩幅を合わせる。マリが顔を上げ目を細めて頷いた。
「うん、平気。楽しみ」
実は懸念していることがあったが、来てよかった。新堂はマリの笑顔を見てそう思っていた。
船のアトラクションは海に出た設定で水辺を周り、ナビゲーターのスタッフと共に冒険をするというものだった。時折水面からモンスターが出てくると、ダブケンがお互いにしがみつきあって固まる。スミちゃんはその様子を撮影し、ヨナと一緒に楽しんでいた。
新堂はマリがダブケンと同じタイミングで驚き、隣に立つ自分の服の裾を掴むのが嬉しかった。
「さて、そろそろ本格的なのいっちゃおっか!」
アトラクションを出ると、スミちゃんが先の方に見える山のアトラクションを指した。ULR一番人気のアトラクション「ハイテンションマウンテン」だ。いわゆるジェットコースターである。
「待ってました」
「「よし、行くぞ!」」
歩き出したスミちゃんに続いて、ヨナやダブケン、マリと新堂が続く。
「新堂、もしかして絶叫系苦手?」
マリが新堂に向かって少し眉を上げ、イタズラな笑みを浮かべている。
「とりあえず酔い止めは飲んだ」
新堂は口角を上げ、マリに笑みを返す。このアトラクションへの挑戦が些細なことであると、自分をごまかすための笑みだ。
「う~ん、この緊張感。ワクワクする」
「ヨナ、本当に好きなんだね。こういうの」
発射前、最前列でニコニコと笑うヨナにスミちゃんが声をかけている。次の列のダブケンは表情も固く緊張を隠せていない。
「タナケン、大丈夫だ」
「サトケン、最後まで俺らは一緒だ!」
その後ろの列にマリと新堂は並んで座っていた。
「ダブケン、物騒なこと言わないでよ」
「「すみませ~ん」」
マリのツッコミでオチがついたところで、安全バーが下りる。
「新堂、本当に大丈夫?」
「あ、ああ……」
マリは席についてから言葉を発していない新堂を不思議に思い、声をかけた。力ない返事が返ってきたところで、その声はスタッフのアナウンスでかき消えてしまう。
『それではみなさん、ハイテンションでいってらっしゃ~い!』
ゆっくりと、コースターが動き出す。カタカタと音を立てながらカーブし発着場を出て、小刻みに車体は揺れながら坂を登る。
そして、坂の頂点。先のレールは全く見えず、最前列の目の前には空が広がっている。そこでガタンという音とともに、コースターはクライマックスを迎える。
「「きゃああ~!!」」
猛スピードでコースターが坂道を急降下する。乗員たちは悲鳴を上げながら、重力に耐えるべくバーを握りしめたり、高揚感から両手を上げてアトラクション最大の見せ場を体感した。そのスピードに乗ったまま、コースターは上下や左右に進路を変えて進んだ。
そんな中、新堂はカーブ時の鈍い衝撃と過去のある出来事が重なり、目の前の景色も様変わりしていく。
——ドン! 鈍い音の中に、キイという甲高い音が混ざる。次に衝撃と、痛み。
忘れたくても忘れられない。
真っ暗な道に、ふわふわと舞う白い雪。
呼びかけても誰かの返事がない。
冷え切っていく身体。赤いランプとサイレン——。
それは、新堂にとっては忘れられない、全てを失った日の出来事だった。
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