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本編

伝説の剣士

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馬車がゆっくりとヴェスペリア山へと向かう中、イザヤとタカヒコはジョブの選択について話していた。

タカヒコ:「で、イザヤくんはジョブを何に設定したの~?やっぱ剣士かな?」

イザヤ:「それも考えたけど、“リーダー”ってのがあったから、それにしたぜ!」

タカヒコ:「へえ~、ゲームにしては珍しいジョブだね~」

イザヤ:「で、タカヒコは何にしたんだ?」

タカヒコ:「ボクもゲーマーってのがあったらいいんだけど~」

イザヤ:「まあ、パーティ的にはバランス取れてるから、好きなジョブを選べばいいぜ!」

ナミ、前の席から振り返って言った。

ナミ:「だったらジョブ選択に“ランダム”ってのがあるわ。レアジョブってのも数%の確率でなれるらしい。」

タカヒコ:「じゃ、ランダムでいいや~」

タカヒコが選択ボタンを押すと、空から一筋の光が下りてきた。何と彼はレアジョブの「トリックスター」となったのである。

イザヤ:「おお、凄いぞ!タカヒコ~!」

タカヒコ:「やった~!・・・けど、トリックスターって、これも聞かないジョブだな~。」

イザヤ:「“レア”ってつくんだからツエーに決まってんだろ!」

タカヒコ:「うん、そうだね~」

馬車の奥では、セリフィナは祈りと瞑想にふけっていた。マドカスはボトルに入れた酒を飲んでいたが、今は寝ていた。

馬車がヴェスペリア山への道を進む中、ナミはイザヤに対して疑問をぶつけた。

ナミ:「マドカスさんって呑んでるか寝てるかしか見てないけど、本当に大丈夫なの?」

イザヤ:「俺の直感に狂いはないと思うんだけどなぁ。これでも剣士の端くれだし、何となくオーラでわかるんだ。」

ナミ:「けど、呑んで寝てたらその実力も出せないんじゃない?」

イザヤ:「ナミが言うのもわかる。けど、今、俺たちのチームは、一人一人を信用・信頼することが大事な気がする。」

ナミ:「そう、イザヤがそこまで言うなら、わかったわ。言葉遣いと態度は悪いけど、悪い人じゃあなさそうだし」

窓の外には緑豊かな森が続いており、その景色を眺めながら、イザヤはナミに問いかけた。

イザヤ:「ところでナミ、なぜ西の城塞都市ガリウスに行く案を出したんだ?」

ナミ:「そこには伝説の剣士・オリヴァレイがいるという情報を得たからよ。」

イザヤの目には興味が宿った。

イザヤ:「伝説の剣士オリヴァレイか…」

オリヴァレイの伝説は数々あるが、代表的なものは三つである。

1.獣神の討伐
2.千人斬りの戦い
3.時間を斬る

そうしたオリヴァレイの伝説をイザヤはナミから聞いて、興味津々であった。

ナミ:「そう、今彼は現役を引退して教官をしているらしいわ。もし雇えなくても、イザヤがそのオリヴァレイの剣術を習うことはできるでしょ?」

イザヤ:「それは確かに魅力的だな。次の目的地には、そのガリウスも候補に入れよう。」

ナミは微笑んで頷いた。

この世界の馬車は知能が高く、目的地まで自動で運んでくれる。乗客が降りると、馬車は元の場所へと自動で帰っていく。

ナミ:「気になるのは、この山の情報が少ないことね」

イザヤ:「ああ、地図は宿屋の主人にもらったし、そうだなぁ、あとは山賊が出るってことくらいかな」

ナミ:「さ、山賊~?大丈夫なの?」

イザヤ:「統計的に出ないルートで行ってるから大丈夫だよ」

ナミ:「それならいいけど・・・」

突如、"ドン!"という音と共に馬車が揺れ、急停止した。外を見ると、山賊たちに取り囲まれていた。

ナミ:「全然、大丈夫じゃないじゃないの~!」

イザヤ:「こういうこともあるって~!」

ナミ:「アイリスの時もだけど、いつもじゃないの~!」

イザヤ:「話は後だ!」

イザヤは仲間たちに指示を出した。

イザヤ:「俺が先頭に立つ。セリフィナは後方でプロテクションを張ってくれ」

セリフィナ:「わかりました、お任せください。」

イザヤ:「ナミは後方で遠隔魔法だ。タカヒコはスキルがわからないから、色々と試してくれ。」

ナミ・タカヒコ:「了解!」

セリフィナのプロテクションによって後方の心配がなくなり、前方に集中できた。イザヤの物理攻撃とナミの遠隔魔法が見事に組み合い、タカヒコは変則攻撃で山賊たちを圧倒した。しかし、イザヤは一つ、疑問を抱いた。

「この山賊たちも、アイリスの世界における“正義”や“完全性”に含まれるのだろうか?」と。しかし、その答えを探る時間はなく、目の前の戦いに集中しなければならなかった。

山賊たちは次第にイザヤたちがただ者ではないと察し、包囲陣を敷いて持久戦に持ち込もうとした。その時、一人風格が違う者が現れた。山賊の頭領の様である。

ウレアトス:「テメーら、何モタモタやってやがる!」

ウレアトスは大斧、通称グレートアクスを振り上げ、イザヤに容赦なく振り下ろした。その斧は重いが、ウレアトスはそれを驚くほど軽々と操っていた。イザヤは最初のうちはその攻撃を巧妙に避けていたが、ウレアトスの斧の速度が増すにつれ、とうとう避けきれなくなり、剣で斧を受け止めた。

凄まじい音と火花が飛び散る。その衝撃により、イザヤは後方へと弾き飛んだ。ナミも遠隔魔法を放って援護したが、ウレアトスには効果がない。

ウレアトス:「小僧、さあ、どうした?もう逃げるのは終わりか?」

ウレアトスの斧の一撃は凄まじく、その衝撃でイザヤの全身が痺れ、手がほとんど動かなくなっていた。

ウレアトス:「小僧、冥土の土産に教えてやろう。これが最強のスタン攻撃、“地獄の轟雷”だ!」

ウレアトスが再び大斧を振り下ろそうとした瞬間、響く金属音とともに時間が停止したように感じられた。

“ギィーーーーン”

凄まじい金属音が空間を震わせ、イザヤの目の前には、マドカスが突如として現れ、剣を抜いてウレアトスの“地獄の轟雷”を見事に受け止めていた。



イザヤ:「マドカス!」

マドカス:「呑んで寝てるだけじゃあ、給料泥棒って言われちまうからなぁ」

ウレアトス:「俺の攻撃を受けるとは、おもしれぇ!」

マドカス:「俺も本来は攻撃を受ける主義ではないんでなぁ」

その瞬間、マドカスから凄まじいオーラが解放された。その気迫に圧倒され、ウレアトスは後方へと何歩か下がった。

イザヤも、マドカスのオーラに圧倒されていた。子供の頃から剣術を学んできたイザヤであったが、このような気迫、このようなオーラを放つ人物に出会ったことはなかった。

ウレアトス:「俺の攻撃を受け止めたくらいでいい気になるなよ!今のは本気ではないぜ!」

マドカス:「ああ、俺も本気ではない。せいぜい楽しませてくれよぉ!」

ウレアトス:「言っとくが、俺は今まで一度も負けたことはない!」

マドカス:「奇遇だなぁ。俺もだ。しかし、今日お前は初めての体験をするだろう!」

ウレアトス:「ほざけーーー!!」

と、大斧が空を切り、地面に突き刺さるように降ってきた。しかし、次の瞬間、信じられないことが起こった。マドカスの剣が、ウレアトスの大斧をまっ二つに裂いたのだ。

ウレアトス:「な・・・、何・・・!こんなことが・・・!」

イザヤが驚愕の表情で言った。

イザヤ:「刃と刃が並行してぶつかり、一方が刃ごと割る・・・。こんなことがあるのだろうか・・・」

イザヤは父親から聞いていた神薙流の逸話を思い出していた。神代に、神が行ったとされる「刃相破」という伝説の技が、この瞬間、現実に現れたのだ。

マドカスが斧を破壊したその瞬間、戦場に沈黙が訪れた。ウレアトスの手には、折れた斧の柄だけが残っていた。それはまさに神業と言うべき瞬間であった。

ウレアトス:「こ、こうなったら・・・、野郎ども、やっちまえ~!」

山賊頭領ウレアトスの号令とともに、山賊たちが一斉に攻撃を開始した。だが、マドカスは神速とも言える速度で、山賊たちを次々と薙ぎ倒していく。

イザヤはその光景に圧倒され、心の中で考えた。

イザヤ:「神代から伝わる“神薙”とは、まさにこのことか。」

ウレアトス:「ま、参った・・・!こんなツエーのはじめてだ!名を聞かせてくれ!」

マドカス:「マドカス・・・、オリヴァレイ」

一同はその名前を聞いて、驚きのあまり言葉を失った。

ナミ:「え・・・?」
イザヤ:「あの伝説の・・・。」
ウレアトス:「ガリウスの軍団長を務めていたマドカス・オリヴァレイ様でしたかぃ!こりゃ、ツエーわけだぁ・・・。」

ウレアトスは目を丸くして言った。

ウレアトス:「そうとは存じませんで、許してくだせぇ・・・!」
マドカス:「どうする、リーダー?」
イザヤ:「ところで、マドカス・・・。全員、斬ってしまったのか・・・?」
マドカス:「いやぁ、刃引きにしてある。刃引きにしねぇと引っかかっちまうからなぁ。多人数には刃引きがいいぜ。」

刃引きとは、刃を潰して斬れないようにすること。マドカスはその技術を使い、山賊たちを無力化したのだ。

イザヤ:「ところで、この山に仙人がいると聞いたんだが、知っているか?」
ウレアトス:「見たことはないが、噂では瑞龍という名の仙人が龍吟谷(りゅうぎんこく)にいるらしいぜ。」
イザヤ:「わかった、じゃあ、案内してくれ。お前をどうするかはその後だ。」
ウレアトス:「わかりやしたぁ、旦那ぁ!」

この会話を耳にしたナミは、イザヤの袖を掴んで引き寄せる。

ナミ:「え、山賊よ?大丈夫なの?」
イザヤ:「山賊だって三分の理があるって言うし、今は一人でも協力者が欲しいんだ」
ナミ:「それって盗人でしょ?」
イザヤ:「よく似たもんじゃねーか」
ナミ:「・・・ちょっとでもおかしいことがあれば、すぐにパーティから追放するわよ!」
イザヤ:「ああ、わかった」

そうして、山賊頭領ウレアトスがイザヤたちのパーティに加わることとなった。ウレアトスが案内役となり、一行は複雑な山道を進んでいった。
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