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6章
119話 中毒性の原因
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本編が始まる前に1つご報告をさせてください。
本作についてですが、書籍化が決定しました!
12月中旬に発売させていただくことになりました。
大きく内容は変えていませんが、加筆を3,4万字くらいして、WEBを読んでいても楽しめるようにしてあります。
イラストはまだ公開されていませんが、とても素晴らしいので、ぜひ手のとってみていただけると嬉しいです。
*************************
僕は目の前の扉を開けるべきか物凄く悩む。
「これ……本当に入ってもいいのかな……」
「それではエミリオ様。私は少し用事を思い出しましたので、ここで失礼させていただきますね」
「サシャ? 置いて……いくの?」
「……冗談ですよ。用事でもない限り離れません」
「良かった」
僕がそう言った次の瞬間に、少し遠くから僕達の御者が歩いて来る。
彼は僕達の側に来て、一礼をしてからサシャに話しかけた。
「サシャ。少々相談ごとがあるのでお話を聞いて頂けませんか? エミリオ様も、少々サシャをお借りしてよろしいですか?」
「それは……いいけど……」
「え? いいんですか?」
「いてほしいけど、流石に相談ごとを邪魔するほどではない……と思う。それに、この屋敷の中なら兄さんも1人で歩けるみたいだし。警備はしっかりとしているよね」
「……分かりました。では少々お待ちください。出来る限り早く片付けて来ますから」
「うん。でも、今日はもう休んでいいよ? 僕も基本的に研究室から出ないと……出られないと思うし……」
「いえ、出来る限り急ぎます」
そう言って、サシャと御者は僕の前から姿を消した。
「ふぅ~行くか」
僕は1人で不安を抱えながらも扉を開ける。
そこには、かなり楽しそうな表情の師匠と、それに付き従っているクレアさんがいた。
「師匠」
「おお! エミリオ! 丁度いい所に来た! 早速中に入るぞ!」
「ええ! すぐに入りましょう!」
「は、はい……」
僕が彼らの側に行くと、彼らの側には台座がおいてあり、その上には1人の女性が縛り付けられていた。
彼女の顔は真っ黒になっていて、マーキュリーの患者であることが分かる。
「あ、あの……何があったのでしょうか……?」
これから30日徹夜で何かをさせられるのかと考えると、ちょっと不安になって聞く。
すると、師匠はほとんど聞いたことがないくらい明るい声で話す。
「エミリオ。マーキュリーには複数の効果があると知っているな?」
「はい。強力な殺菌作用により黒くなることと、中毒性です」
「中毒性の原因なんだがな。それを取り除くことに成功した」
「本当ですか!?」
僕は思わず目を見開いて師匠に詰め寄る。
「ああ! 早速これを他の者達にも教える……ことは難しいかもしれないが、お前にも見せてやろう」
「はい!」
流石師匠だ。
僕が兄さんとちょっと出掛けている間にこんなにもすぐに中毒を解除する方法を見つけてしまうなんて。
そんな思いで、僕達は目の前の女性の中に入っていく。
「師匠は……こっちか」
僕はなんとなく師匠がいる方に向かって移動する。
そして、5分もしない内に師匠達と合流した。
「よし。それでこっちだ。細心の注意を払えよ」
「はい!」
僕は師匠についていき、目的地に到着する。
「ここは……」
僕の目の前は真っ白でとても柔らかそうな壁に変わっている。
しかも血管はかなり細くなり、速度を出し過ぎると壁に当たってしまいそうだ。
でも、それは決してしてはいけないと言われてきた。
というか、今までの時にも、ここに来ることはほとんど無かったのだ。
なぜならここは……。
「脳……」
「そうだ。決して触れるなよ。どんなことが起きるかわからないからな」
「はい」
脳、それは人の体でもっとも繊細な部分とされている。
なので今までの治療の時も、脳の辺りに来ることはほとんど無かった。
それどころか、近付くことさえ禁止だったのだ。
「ここに……マーキュリーがいるんですか?」
「ああ、それも……かなり面倒な場所にな。こっち……か?」
「あ、そっちだと思いますわ」
クレアさんが師匠が見ているところよりも、少し奥を指し示す。
「こっちか」
「ええ」
その場所に向かうと、僕の手が通るくらいの小さな穴があった。
元々脳に空いている穴か……それとも何かあってできたのだろうか?
「エミリオ。奥を覗いてみろ」
「? はい。わかりました」
僕はそっと脳に当たらないようにその奥を覗き込む。
すると、その奥には青い何かがいるのが見えた。
クラゲのようにも見える、以前クレアさんに見せてもらったものに似ている。
「あれは……?」
「マーキュリーの中毒性を引き起こすものだ」
「あれがですか!?」
「そうだ」
「でも……あんなところに入いられたのでは、倒せないのでは……」
もし魔法での攻撃を間違えて脳に当ててしまえば、中毒は治ったとしても人として取り返しがつかないことになるのかもしれない。
それを考えると、あまり無茶なことはできなかった。
「それはな……こうするんだ」
そう言って師匠は魔法を詠唱した。
「金剛の剣と成りて敵を刻め、その血をもって我が誉れとする『金剛剣生成』」
師匠は魔法を使い、左手に剣を作り出す。
そして、更に魔法を発動させた。
「土の縄よ。敵を捕らえ我が前に引きずり出せ『土の縄』」
師匠が魔法を使うと、彼の前には緑色の縄ができていた。
「みどり色?」
「し、今は集中してみていてください」
「あ、はい」
クレアさんに言われて、僕は頷いて師匠の行動を見守る。
師匠はその縄を慎重に脳の細い穴の中に差し込む。
そして、マーキュリーの前でちょろちょろと振っている。
「……」
マーキュリーはそれに気付いたのかゆっくりと師匠の縄に腕を伸ばしていく。
しかし、腕が掴みそうになる前に、師匠がその縄を操作して掴ませない。
そんなことを繰り返してマーキュリーが血管に出てくるまで辛抱強く粘った。
「出て来た!」
そして、ついにマーキュリーは姿を晒し、脳の外に出てくる。
スパァ!
師匠は出て来たマーキュリーを持っている剣で真っ二つにして、一息ついた。
「ふぅ……これでとりあえずは中毒症状は弱まる」
「なるほど、今のが中毒の治療法なんですね」
「治療法……というほど効果があるものではないがな。脳に今までのダメージは残っている。新しい刺激が無くなる……という程度でしかない」
「それでもすごいです!」
僕は今の師匠の技術を見て、素直にそう思う。
さっき2人が喜んでいた理由がわかった。
僕の気持ちを察してくれたのか、クレアさんも首が取れんばかりに首を振っていた。
「全くです! まずは魔法の色を変えるなんて! 普通は想像しませんし、出来る者の方が稀でしょう! しかも魔法の3重起動は並みのものでは出来るものではありません! しかも、それを同時にこなしながらあの細いところを通す魔法の制御力! 流石特級回復術師ですわ。私では厳しいでしょう」
クレアさんの言葉を聞いていた師匠が、僕に向き直る。
「エミリオ。お前ならできるんじゃないのか?」
「僕が……ですか?」
「そうだ。魔法の3重起動はやっている。色も変えた。後は制御力だが……マスランから聞いている。出来ると思うが……どうだ?」
「それは……」
僕が……僕ができるだろうか。
師匠が示してくれたことは……それぞれ単体ならきっとできる……と思う。
今まで多くの人に助けられてきたんだから、僕も助けたい。
「……やらせてください」
そうと決めたら迷うことなんてない。
今、この街ではきっと……多くの人がマーキュリーで苦しんでいて、困っているはず。
なら、僕はできることをする。
僕がそう決意を固めると、クレアさんが叫ぶ。
「お待ちください! いくら何でもそれはやり過ぎです! 確かに彼は力があるのかもしれません! ですが本当にできるのですか!? 確かに彼女たちは犯罪者として捕らえています! ですが、彼女たちもまた被害者なのですよ!? それをこんな子供にさせるなんて……。失敗したらどうするのですか!?」
クレアさんはそう言って全力で否定してくる。
でも、それは仕方ないと思う。
僕だってリーナに脳を治療してあげる。
そう言われたら怖くて震えるだろう。
でも、だからこそ僕が言わないといけないと思う。
「クレアさん」
「……なんでしょう」
「僕に……一度任せてくれませんか。いえ、僕の魔法を見てくれないでしょうか」
「……いいでしょう。それができれば治療をお任せします。今回の非礼もお詫びいたしましょう」
「それは必要ありません。ただ、僕にも治療をさせてください」
僕はそう言って集中して魔法を発動させる。
「氷雪の剣と成りて敵を抉れ、その血を持って我が誉とする『氷雪剣生成』」
本作についてですが、書籍化が決定しました!
12月中旬に発売させていただくことになりました。
大きく内容は変えていませんが、加筆を3,4万字くらいして、WEBを読んでいても楽しめるようにしてあります。
イラストはまだ公開されていませんが、とても素晴らしいので、ぜひ手のとってみていただけると嬉しいです。
*************************
僕は目の前の扉を開けるべきか物凄く悩む。
「これ……本当に入ってもいいのかな……」
「それではエミリオ様。私は少し用事を思い出しましたので、ここで失礼させていただきますね」
「サシャ? 置いて……いくの?」
「……冗談ですよ。用事でもない限り離れません」
「良かった」
僕がそう言った次の瞬間に、少し遠くから僕達の御者が歩いて来る。
彼は僕達の側に来て、一礼をしてからサシャに話しかけた。
「サシャ。少々相談ごとがあるのでお話を聞いて頂けませんか? エミリオ様も、少々サシャをお借りしてよろしいですか?」
「それは……いいけど……」
「え? いいんですか?」
「いてほしいけど、流石に相談ごとを邪魔するほどではない……と思う。それに、この屋敷の中なら兄さんも1人で歩けるみたいだし。警備はしっかりとしているよね」
「……分かりました。では少々お待ちください。出来る限り早く片付けて来ますから」
「うん。でも、今日はもう休んでいいよ? 僕も基本的に研究室から出ないと……出られないと思うし……」
「いえ、出来る限り急ぎます」
そう言って、サシャと御者は僕の前から姿を消した。
「ふぅ~行くか」
僕は1人で不安を抱えながらも扉を開ける。
そこには、かなり楽しそうな表情の師匠と、それに付き従っているクレアさんがいた。
「師匠」
「おお! エミリオ! 丁度いい所に来た! 早速中に入るぞ!」
「ええ! すぐに入りましょう!」
「は、はい……」
僕が彼らの側に行くと、彼らの側には台座がおいてあり、その上には1人の女性が縛り付けられていた。
彼女の顔は真っ黒になっていて、マーキュリーの患者であることが分かる。
「あ、あの……何があったのでしょうか……?」
これから30日徹夜で何かをさせられるのかと考えると、ちょっと不安になって聞く。
すると、師匠はほとんど聞いたことがないくらい明るい声で話す。
「エミリオ。マーキュリーには複数の効果があると知っているな?」
「はい。強力な殺菌作用により黒くなることと、中毒性です」
「中毒性の原因なんだがな。それを取り除くことに成功した」
「本当ですか!?」
僕は思わず目を見開いて師匠に詰め寄る。
「ああ! 早速これを他の者達にも教える……ことは難しいかもしれないが、お前にも見せてやろう」
「はい!」
流石師匠だ。
僕が兄さんとちょっと出掛けている間にこんなにもすぐに中毒を解除する方法を見つけてしまうなんて。
そんな思いで、僕達は目の前の女性の中に入っていく。
「師匠は……こっちか」
僕はなんとなく師匠がいる方に向かって移動する。
そして、5分もしない内に師匠達と合流した。
「よし。それでこっちだ。細心の注意を払えよ」
「はい!」
僕は師匠についていき、目的地に到着する。
「ここは……」
僕の目の前は真っ白でとても柔らかそうな壁に変わっている。
しかも血管はかなり細くなり、速度を出し過ぎると壁に当たってしまいそうだ。
でも、それは決してしてはいけないと言われてきた。
というか、今までの時にも、ここに来ることはほとんど無かったのだ。
なぜならここは……。
「脳……」
「そうだ。決して触れるなよ。どんなことが起きるかわからないからな」
「はい」
脳、それは人の体でもっとも繊細な部分とされている。
なので今までの治療の時も、脳の辺りに来ることはほとんど無かった。
それどころか、近付くことさえ禁止だったのだ。
「ここに……マーキュリーがいるんですか?」
「ああ、それも……かなり面倒な場所にな。こっち……か?」
「あ、そっちだと思いますわ」
クレアさんが師匠が見ているところよりも、少し奥を指し示す。
「こっちか」
「ええ」
その場所に向かうと、僕の手が通るくらいの小さな穴があった。
元々脳に空いている穴か……それとも何かあってできたのだろうか?
「エミリオ。奥を覗いてみろ」
「? はい。わかりました」
僕はそっと脳に当たらないようにその奥を覗き込む。
すると、その奥には青い何かがいるのが見えた。
クラゲのようにも見える、以前クレアさんに見せてもらったものに似ている。
「あれは……?」
「マーキュリーの中毒性を引き起こすものだ」
「あれがですか!?」
「そうだ」
「でも……あんなところに入いられたのでは、倒せないのでは……」
もし魔法での攻撃を間違えて脳に当ててしまえば、中毒は治ったとしても人として取り返しがつかないことになるのかもしれない。
それを考えると、あまり無茶なことはできなかった。
「それはな……こうするんだ」
そう言って師匠は魔法を詠唱した。
「金剛の剣と成りて敵を刻め、その血をもって我が誉れとする『金剛剣生成』」
師匠は魔法を使い、左手に剣を作り出す。
そして、更に魔法を発動させた。
「土の縄よ。敵を捕らえ我が前に引きずり出せ『土の縄』」
師匠が魔法を使うと、彼の前には緑色の縄ができていた。
「みどり色?」
「し、今は集中してみていてください」
「あ、はい」
クレアさんに言われて、僕は頷いて師匠の行動を見守る。
師匠はその縄を慎重に脳の細い穴の中に差し込む。
そして、マーキュリーの前でちょろちょろと振っている。
「……」
マーキュリーはそれに気付いたのかゆっくりと師匠の縄に腕を伸ばしていく。
しかし、腕が掴みそうになる前に、師匠がその縄を操作して掴ませない。
そんなことを繰り返してマーキュリーが血管に出てくるまで辛抱強く粘った。
「出て来た!」
そして、ついにマーキュリーは姿を晒し、脳の外に出てくる。
スパァ!
師匠は出て来たマーキュリーを持っている剣で真っ二つにして、一息ついた。
「ふぅ……これでとりあえずは中毒症状は弱まる」
「なるほど、今のが中毒の治療法なんですね」
「治療法……というほど効果があるものではないがな。脳に今までのダメージは残っている。新しい刺激が無くなる……という程度でしかない」
「それでもすごいです!」
僕は今の師匠の技術を見て、素直にそう思う。
さっき2人が喜んでいた理由がわかった。
僕の気持ちを察してくれたのか、クレアさんも首が取れんばかりに首を振っていた。
「全くです! まずは魔法の色を変えるなんて! 普通は想像しませんし、出来る者の方が稀でしょう! しかも魔法の3重起動は並みのものでは出来るものではありません! しかも、それを同時にこなしながらあの細いところを通す魔法の制御力! 流石特級回復術師ですわ。私では厳しいでしょう」
クレアさんの言葉を聞いていた師匠が、僕に向き直る。
「エミリオ。お前ならできるんじゃないのか?」
「僕が……ですか?」
「そうだ。魔法の3重起動はやっている。色も変えた。後は制御力だが……マスランから聞いている。出来ると思うが……どうだ?」
「それは……」
僕が……僕ができるだろうか。
師匠が示してくれたことは……それぞれ単体ならきっとできる……と思う。
今まで多くの人に助けられてきたんだから、僕も助けたい。
「……やらせてください」
そうと決めたら迷うことなんてない。
今、この街ではきっと……多くの人がマーキュリーで苦しんでいて、困っているはず。
なら、僕はできることをする。
僕がそう決意を固めると、クレアさんが叫ぶ。
「お待ちください! いくら何でもそれはやり過ぎです! 確かに彼は力があるのかもしれません! ですが本当にできるのですか!? 確かに彼女たちは犯罪者として捕らえています! ですが、彼女たちもまた被害者なのですよ!? それをこんな子供にさせるなんて……。失敗したらどうするのですか!?」
クレアさんはそう言って全力で否定してくる。
でも、それは仕方ないと思う。
僕だってリーナに脳を治療してあげる。
そう言われたら怖くて震えるだろう。
でも、だからこそ僕が言わないといけないと思う。
「クレアさん」
「……なんでしょう」
「僕に……一度任せてくれませんか。いえ、僕の魔法を見てくれないでしょうか」
「……いいでしょう。それができれば治療をお任せします。今回の非礼もお詫びいたしましょう」
「それは必要ありません。ただ、僕にも治療をさせてください」
僕はそう言って集中して魔法を発動させる。
「氷雪の剣と成りて敵を抉れ、その血を持って我が誉とする『氷雪剣生成』」
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