不治の病で部屋から出たことがない僕は、回復術師を極めて自由に生きる

土偶の友

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6章

118話 まほうをおしえて?

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 孤児院の門が開かれ、そこに入って来たのは馬車を引いたディオンさんだった。
 彼の側には護衛の為か、兵士が数人付き従っている。

「でぃ、ディオンさん!?」

 僕は思わず声を出してしまう。

 その声はディオンさんに届き、こちらを向く。

「はて? 貴方はどこかで……」
「あ……いえ、おうわさはかねがね」
「噂……何かありましたか?」

 彼は少し考えて兵士に聞く。

「いえ、わたくしどもは存じません」
「そうですか……」

 やばい。
 このままだと気付かれてしまうかもしれない。

 そんな僕のピンチを救ってくれたのは、やっぱりロベルト兄さんだった。

「これはお久しぶりです。ディオン殿」
「ロベルト様!? なぜあなたがここに?」

 兄さんが僕の前に出てくれたお陰で、ディオンさんの注意はそちらに向いた。

「いやぁ、色々とありまして。子供の声が聞こえたので来てみたら、ジェシカが襲われていたんですよ。それを助けて送っただけなのです」
「それは……この街に住むものとして、この孤児院を出た者として感謝を」
「ディオン殿はこの孤児院の出なのですか?」

 兄さんの疑問はもっともだと思う。
 孤児院を出て、クレアさんの側近にまで登りつめる。
 普通の考えではならないはず。
 孤児から貴族になるなんて……。

 その言葉を聞いたディオンさんは少し悲しそうに笑ってごまかした。

「色々と事情がありまして。それよりもどうですか? 一緒に食事でも」
「よろしいのですか?」
「ええ、今日は特別な日ですので、少しいい食事を皆の為にお持ちしました。少々余分に持ってきてありますので、どうぞぜひ」
「いいか?」

 兄さんは振り返って僕に聞いてくる。

「僕はいいけど……」
「わかった。ではそのお話をお受けします」
「いいの?」
「ここで断る方がマナーとして悪い」
「そっか……」

 兄さんは勉強をしているのか、ちゃんとそういった事を教えてくれる。

「ディオン?」

 僕達は良かったけれど、メーテルさんは責めるような視線をディオンさんに向けていた。

 でも、彼は気にした様子もなく、メーテルさんに聞く。

「では中に入ってもよろしいですか? 院長先生」
「……ええ。ディオン。貴方。また無茶をしているんじゃない? そんなに痩せて……」
「わたくしのことは大丈夫です。ドルトムント伯爵様にお仕えしているのですから。それよりも院長先生の方が少し細くなったのでは?」
「そんなことはありませんよ。さ、中に入りましょう。皆。食事にします。しっかりと手を洗って食堂に向かって下さい」
「はーい!」

 メーテルさんがそう言うと、子供たちは一斉に建物の中に入っていく。

 僕達も一緒に中に入り、手を洗って席につく。
 僕の隣にはロベルト兄さんとサシャ、向かいには子供が座っている。

 1つの大きな長いテーブルを皆で囲んでいる形だ。
 目の前には黒パンと小さな肉切れや野菜の入ったスープ。
 主菜として小さな魚が出されていた。

「わーすごーい! お魚だ!」

 僕の目の前の子供は目の前の食事に目を輝かせていた。

 それからメーテルさんの号令で子供たちは一斉に食事を始める。
 僕はそんな子達の様子を見て、そして、先ほどからの裏と呼ばれた街のことを思い出す。

 そして、黒パンをかじっている兄さんに話しかける。

「ねぇ、兄さん」
「なんだ?」
「孤児院の食事って……これが普通なのかな?」
「そうなんじゃないのか? 俺は孤児院というのか、そういう所の勉強まではしていないんだ。というか、バルトラン家にはスラムどころか孤児院すらないからな」
「そりゃ……ウチは大きくないから当然だと思うけど……」
「ちゃんと食べろ。じゃないと他の子に取られるぞ」
「むしろあげてもいいんじゃ……?」
「む……それもそうか」
「兄ちゃんたち」

 僕達がそんな風に話していると、兄さんの隣にいる子供が話しかけてくる。

「なんだ?」
「さっきのまほうって、おれもつかえるようにならない?」
唐突とうとつだな」
「だって、かっこよかったんだもん。おれもまほうをつかえるようになりたい!」
「それは……難しいな。俺達は長い間居られないんだ。そして、魔法を使えるようになるには結構時間がかかる」
「そんな……」
「まぁ、落ちこむな。俺の弟は優秀だ。1000年に1人の逸材いつざいで、しかも優しい。必死に頼み込んだら教えてくれるかもしれないぞ」
「ほんと!?」
「兄さん!?」

 兄さんが勝手に言うのでその子は目をランランと輝かせて僕のことをみつめている。

「ちょ、ちょっと待って、僕が使えるのって水魔法だけだし……」
「いいよ! このまちっておっきなみずうみがちかいでしょ!? だからみずまほうがつかえたらいいんだ!」
「そ、それは……」

 僕が言いよどんでいると、彼は押しが足りないと判断したのか兄さんの腕の下をくぐって詰め寄ってくる。

「ここもみずうみとつながってて! みずとずっとふれてるんだ! だからだいじょうぶ!」
「いや、そういう訳じゃ……」
「え? だってみずにさわりつづけるのがいいって……」
「そんなことはないと思うけど……」

 自分が使えるようになった時の事を考えるとそう思う。

「ちがうの……?」
「だって、もしそうだったら火属性とかどうするの? 触れないでしょ?」
「そっか……」

 彼はそう言って落ちこんでいる。

「……」

 そんな彼を見て、僕は思う。
 僕は貴族だったから学べた。
 でも、孤児である彼らが学ぶというのは……当然難しい。
 なら、少しくらい……僕ができることを教えるということをしてもいいんじゃないのだろうか。

 僕はそう思って声をかけた。

「僕で良ければ教えるよ。でも、あんまり危ない魔法を使わせることはできないし、僕がここに来た時だけだよ? それに、僕もずっとここに来れるとは限らないし……」
「それでもいい! だからおしえて!」
「わかったよ」
「やったぜ!」
「ごふっ」

 そう言って彼は喜んで飛び上がると、パンをかじっていたロベルト兄さんのアゴに直撃する。

「大丈夫!?」
「いててて……」
「つぅ……」

 兄さんも子供も一緒に痛がっている。
 回復魔法を……と思ったけれど、ディオンさんがいる前では流石に使えない。

「2人とも。我慢して」
「……ああ、分かっている」
「おれはもんだいないよ。ごめんねにいちゃん」
「俺も大丈夫だ。気にしなくていい」

 それから兄さんと彼は席を代わり、僕は彼と色々と魔法について話した。

 ただ、ずっと魔法では飽きたのか、色々なことを彼と話した。
 この孤児院をメーテルさんがずっと取り仕切っていて、とても慕われているということ。
 しかもかなりの凄腕らしく、資金周りは悪くないこと。
 まぁ、これはディオンさんが何かしているのだろうとは思っている。
 それとこの孤児院の秘密ということで、湖と繋がっていて時々魚がここまでやってくる、という本当? と思うようなことも聞かされた。

「そんでなそんでな」
「うんうん」

 僕は彼とずっと話し込み、食事の時間はずっと話していた。

 それからはまた一緒に遊んだりして、僕達は帰ることになる。

「またね」

 僕達はディオンさんと一緒に屋敷に戻ることになった。
 そして、その見送りには子供たちにいかないでと泣きつかれる。

「ロベルトお兄ちゃん……」
「ジェシカ……」
「いかないで……いっしょういて……?」
「一生……重たいな……」
「じゃあ50ねんでいいから」
「それ一生とほぼ同じ意味だぞ?」

 そんな風に兄さんに抱きついているジェシカを、メーテルさんが引き離してくれる。

「ジェシカ。ロベルト様に迷惑をかけてはいけません」
「でも……」
「ジェシカ」
「メーテルさん。そんなに気にしないで下さい。というか、メーテルさんさえよければ、俺はまた来たいと思っています」
「しかし……」

 メーテルさんはそんな迷惑をかけられないとまゆをしかめる。

 でも、ロベルト兄さんは優しいからか笑顔で来たいという。

 そして、そこにディオンさんがメーテルさんに加勢した。

「ジェシカ。わがままを言ってはいけないよ」
「ディオンさん、本当に気にしないでください。俺も少し離れたい人……が特にいる訳ではないんですが……ないんですが! 彼らに会うのはとっても楽しみなんです。なので良かったらまた来てもいいでしょうか?」
「……そういうことでしたら」

 ディオンさんはちょっと困った顔をしながら頷く。

 彼も兄さんの評判を聞いているはずだから、きっと申し訳ないと思っているに違いない。

 でも、兄さんは気にした風もなく、子供たちと別れの挨拶をしていく。

「よし! それじゃあまた俺が来るまで、しっかりとメーテルさんの言うことを聞いて大人しくしておくんだぞ?」
「はーい!」
「わかった!」
「いかないで……いっしょにおふろはいって……」
「……またな!」

 兄さんはそれ以上は何も言わずに、一緒に屋敷に戻った。

 それから、今度はいつ行くのか。
 ということの話をして、僕達はわかれる。

 サシャと2人きりになって、師匠がいるらしい研究室に向かう。
 その道中の人気のないところで仮面を被って準備は万端ばんたんだ。

「ロベルト様はとてもお元気でしたね」
「うん。最初はどうなることかと思ったけど、すっごく楽しかったよ!」
「エミリオ様がそうであれば、私も良かったです。しかし、孤児院は……あまりいかない方がいいかと思いますが」
「そうなの?」
「ええ、メーテル様もディオン様も、あまり歓迎している雰囲気ではありませんでしたから」
「そっか……やっぱり……邪魔なのかな?」
「いえ、きっとロベルト様がジェシカ様を連れていかないかが不安なのでしょう」
「あはは、確かにすごくなついていたからね」
「ええ、とてもお似合いでした」

 そんな事を話しながら師匠の部屋に行くと、部屋の中からなにやら高笑いの様な声が聞こえる。

「これ……なんだと思う?」
「とりあえず入ってみるのがいいかと」
「うん。わかった」

 僕達が扉を開けると、すぐさま師匠とクレアさんの声が聞こえてくる。

「素晴らしい! 素晴らしいぞ! やはりやってみるものだな!」
「流石ジェラルド様ですわ! こんなすぐに見つけるなんて!」
「俺にかかればこんなのは朝飯前だ! もっと見つけていくぞ! その為にはエミリオを早く連れ戻さねば! 30日くらいぶっ続けでやればきっと解決するだろう!」
「まぁ! それではディオンを呼んですぐにこさせますね!」

 パタン

 僕は思わず扉をしめた。

「ねぇ、僕はこれからどうなるのかな」
「……孤児院にかくまってもらいますか?」

 サシャがそういうのを、ただ聞いていることしか出来なかった。
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