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6章

113話 船上のパーティ

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「ここが……」

 僕は今、サシャと一緒にロベルト兄さんがくるという船に乗っていた。

「本来だったら師匠の手伝いをしたかったんだけど……」
「仕方ありません。ロベルト様がどうなっているのか確認しないといけませんからね」
「だよねぇ……」

 サシャが言う言葉に僕は同意する。

 ロベルト兄さんは王都にいるはずなのに、どうしてここにいるのだろうか……。

 その事が気になりすぎてあまり研究に入り込めなかったのだ。
 なので、クレアさんに手配してもらって入れるようにしてもらった。

 ただ、ちゃんと姿を隠せるように、仮面はつけたままでもいいということらしい。

「いいところだね……」

 空に綺麗な月が浮かんでいて、星空はとても綺麗だ。
 船上だけれど、明かりの魔道具や熱を発する魔道具がおいてあって薄着でもいいくらい。

 視線を船の人々に戻すと、彼らは他の貴族の人達と談笑していたり、テーブルの上にこれでもかと置かれた食事をつまんでいる。

 これが貴族の生活か、そう思えるくらいには素晴らしい物が並んでいた。

「でも……ロベルト兄さんは……どうしてこんなところにいるんだろう……?」
「分かりかねます。ですが、ロベルト様のことです。きっと女性の姿でも追いかけて来ているのでしょう」
「兄さんはそんなことしないと思うけど……」

 そんなことを話しながら待っていると、他の参加者の声が聞こえてくる。

「聞きました? 今回は国王陛下も来られるそうですわ」
「なんと、あの輝かしい頭部が見られるのですか」
「ええ、国王派として光り輝く道しるべだと思われます」
「全く、ゴルーニ侯爵が囲っていたあのお方を連れ出して下さったその手腕。流石だと思いませんこと?」
「同意させて頂きますわ」

 そんな国王を持ち上げる? 声が聞こえてくる。

「やっぱり……ゴルーニ侯爵のところから来たっていうことは……ロベルト兄さんだよね……」
「ええ、そのようですね」

 サシャは未だにどこか固い表情をしていて、周囲を警戒している。

 貴族の船だから大丈夫だと言っても、彼女は警戒の手を緩めるつもりはないらしい。

 のんびりと果物をかじって待っていると、黄色い歓声が上がる。

「きゃー!」
「こっちを向いてください!」
「私とお話しましょう!」

 僕とサシャは黄色い歓声の方を向く。

「……」
「……」
「あれって……ロベルト兄さんだよね……」

 僕に視線には、貴族の女性たちに囲まれて鼻の下を伸ばしながら、ニヤニヤとしているロベルト兄さんがそこにはいた。
 兄さんは周囲の女性たちにいい顔をしながら、気さくに話しかけている。

 サシャはそんな兄さんを見て聞いてきた。

「潰しますか?」
「なにを!?」
「ナニ……を……」
「やめて、お願いだからやめて、きっと……きっとロベルト兄さんには事情があるはずなんだ。きっと……きっと……」

 そうだ。
 ロベルト兄さんはバルトラン家の為に中央に行ってくれたはず。
 ここにいるのもきっと何かの理由があるからに違いない。

 僕はロベルト兄さんを信じているから。
 兄さんが僕達の為に頑張ってくれている。
 だから、僕も……少しだけでも、何か手伝えることがないのか。
 後、兄さんと少しでも話せたら……そう思って近付く。

「エミリオ様? どこへ?」
「ごめん。ちょっと行って来る」
「あ……」

 サシャはあくまでメイド。
 なのでパーティの中央にはこれない。
 仕事は全てクレアさんのところの執事やメイドが行うからだ。

 僕はそんなサシャをおいて兄さんのところに向かう。

「兄さん……」

 僕は失礼にならない速度で兄さんに近付ていく。
 今までは感じることがなかったこの気持ち。
 なんなのだろうか。
 ずっと……ずっと病を治すために頑張ってきた。
 でも、どうせ会えないのだからと、無視してきたこの想い。
 兄さんと会いたい。
 家族と……会いたい。
 たとえ女性と遊んでいるとしても会いたい。
 そんな風に思っている僕がいた。

 だから、兄さんの邪魔になるかもしれないけど、少しだけ……少しだけでも話せないだろうか。

 そう思って近付くけれど、兄さんの周囲は女性達で囲まれていて近付くことができない。

「あの……少し通してもらえないでしょうか……」

 なんとか前にいかせてもらえないかと思って声をあげるけれど、その答えは厳しいものだった。

「何? ダメよ。ロベルト様に見染みそめられるのは私」
「そうよ。仮面なんかつけて、選ばれる訳ないでしょう?」
「ここにあなたがくる権利はないわ!」

 ドン!

「あ……」

 女性に押され、僕は時がゆっくりになったように自身の体が倒れて行くのが分かった。

 倒れると思った次の瞬間。

 パシ。

 僕の手がつかまれ、動きを止めた。

 手を掴んでくれているのは、囲まれていたはずのロベルト兄さんだった。
 兄さんは僕に優しく訪ねてくる。

「おい。大丈夫か?」
「あ……兄さん……」
「ん……んん!? その声……もしかして……と思ったが……お前まさか……」

 僕を助けてくれた兄さんはそう言いながら目を見開いている。
 だけれど、その手を離すことは決してない。

「そうだよ。ありがとう。助けてくれて。やっぱり兄……」
「ちょっと待て。いいか? ちょっと待ってくれ」
「どうしたの?」
「エミ……いや、いいか。ちょっとだけ、ちょっとだけ……ついて来てくれるか?」
「もちろん。どこにでもついて行くよ」
「分かった。ちょっと待ってろ」

 兄さんはそう言うと、僕を立たせた後に振り返る。
 そして、女性たちに向かって謝罪した。

「皆さま、少々話をしなければならない相手ができましたので、ここで私は失礼させていただきます」
「そんな……」
「ドレスも新調しましたのに……」
「大変申し訳ありません。この埋め合わせは必ず」

 そう言ってから、兄さんは僕をお姫様抱っこすると船内へ続く道を急ぎ足で進む。

「なんで? 僕自分で歩けるよ?」
「いいから、今は急ぐんだ。見つかる訳には……」
「見つかる?」
「黙っててくれ! 頼む」
「う、うん……分かった」

 兄さんの剣幕に押され、僕はされるがままだった。
 そして、兄さんは船内の豪華な部屋に入る。

 部屋の中には誰もおらず、僕と兄さんの2人きりだ。

「ふぅ……ここまで来れば大丈夫だろう……」
「兄さん……元気そうで良かったよ。でも、どうしたの?」
「エミリオ……お前こそ元気そうで……良かった。でも、体は大丈夫なのか? 病は辛くないのか?」
「それが聞いてよ!」
「お、おう。どうした?」

 僕はそれからレストラリアで何があったのかを兄さんに話す。

 兄さんは僕の話を楽しそうに聞いてくれて、時間はあっという間に過ぎていく。

「そうか……エミリオ。おまえがそんな活躍かつやくをしていたなんてな……」
「ううん。そんなことないよ! みんながすごかっただけだよ!」
「いや、お前は……やはり……別格だな」
「そんなことないよ。兄さんこそ、国王様が目をかけているって聞いたよ! すごいよ兄さん!」
「いや……そういわれても……な。特になにかした実感がある訳じゃない……からな。正直……戸惑とまどっているんだ」
「兄さん……」

 そう話す兄さんはどことなく疲れた様子で、よく見ると目の下にクマも薄っすらとある。
 もしかして……ここに来るまでにもずっと勉強をしていたりしたのだろうか。
 貴族としてのコネをさっきのように作りつつも、勉強をしっかりとやって……。

 そこまで考えて、僕は思い違いをしていたことを恥ずかしく思う。

「ごめんね……兄さん」
「エミリオ? 一体どうした?」
「だって……兄さん。大変なんだよね。毎日勉強をして、それで、貴族としてのコネを作る。その為にここに来ていて……バルトラン家の為に頑張ってくれているんだよね?」
「……お、おう。そうだぞ。俺はバルトラン子爵家の長男だからな。当然だろう」
「だよね……さっき女性の人達に囲まれていて、ずっとニヤニヤしてたから……遊んでいるんじゃないのか……って思ってたんだ。ごめんね……」
「……キニスルナ。ダレニデモマチガイハアル」

 兄さんのしゃべり方がおかしくて、じっと兄さんの方を見るとどこか左ななめ上を見ている。
 何かいるのかな?
 でも、そんなことはいい。

「うん。そうだよね。兄さんが女の人に囲まれて楽しんでいるだけなんてない。疲れているみたいだし、兄さんに魔法だけかけたら帰るよ。ごめんね。疑って」
「……エミリオ。その……あのな?」
「うん? どうかしたの?」
「その……実を……言うと……だな……」

 兄さんは何かバツが悪そうにしている。
 もしかして、なにか良くないことでもあったのだろうか。

 そんなことを思って、兄さんの言葉を待っていると、扉がノックされる。

 コンコン

「はい。どうぞ」

 兄さんが許可を出すと、彼は部屋に入ってきた。

「探したぞ。ロベルト。全く、一体どうしたと言うのだ」

 そう言いながら部屋に入って来たのは、輝く王冠を被り、豪奢ごうしゃな服を着たおじさんだった。

 兄さんはそのおじさんを見て、やってしまったと言う様につぶやく。

「陛下……」
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