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6章
114話 エミリオの設定?
しおりを挟む***ロベルト視点***
「探したぞ、ロベルト。全く、一体どうしたと言うのだ」
そう言いながら陛下は扉から部屋の中に入ってくる。
やってしまった。
陛下の姿を見て、俺はそう思う。
なぜか?
エミリオの力は隠さねばならない。
それは絶対であり、何をおいてもやらなければならないこと。
今の俺に評価が集まっていることに関しても、エミリオの盾となるということであればやっていこう。
そしてあわよくば、このチャンスを活かしてコネ等を作っておこう。
そう思ったからだ。
でも、ここでエミリオの姿がバレるのは不味い。
俺が舞踏会で女性たちに囲まれて楽しんでいたことがバレることよりも不味い。
エミリオは不治の病で苦しんでいる。
それなのに、どうしてこんな寒い冬にわざわざヴェネルレイクにまで来ているのか?
国王に問われたらきっと返事に困ってしまうに違いない。
ならばどうするのか?
俺が華麗に助け舟を出していく。
これしかない。
だてに立派な貴族としての振る舞いを学んでいた訳ではない。
俺はしっかりと自分にやるべきことを言い聞かせると、陛下に向かい合う。
「これはこれは陛下。少し舞踏会でお話したい相手を見つけまして」
「それでいきなり2人きりでと誘ったということか?」
「え、ええ。彼のお話がとてもおもしろくて」
「ほう。どんな話をしていたのだ?」
「それは……」
俺はそこまで考えて、言えないことに気付く。
エミリオがレストラリアで上げた功績は隠されているはずだ。
その功績を聞いて楽しんでいた。
言えるはずがない!
なぜ俺はこの話題を選んでしまったんだ!
そう思っていたら、エミリオが立って口を開く。
「僕の旅の話をしていました」
「貴様は?」
「失礼いたしました。初めまして、国王陛下。僕はエミリオ。バルトラン子爵家の次男です」
「ほう。貴様があの……」
「はい。兄さん……ロベルト次期子爵は僕が旅をしてきて面白かった。楽しかったという事を聞いて下さっていたのです」
エミリオ……エミリオ! お前はなんてできた弟なんだ!
俺がちょっとだけやってしまったことをすぐに取り戻すなんて!
だが、このままエミリオに任せておく訳にはいかない。
俺だってやれるということを見せてやらねば。
「ええ、エミリオはとてもできた弟です。私としても鼻が高い」
「ふむ? しかし、君は……不治の病を患っていると聞いたが? もしかして……既に治っているのかな?」
「っ!?」
陛下が鋭い、こちらを見抜くような視線を向けてくる。
視線は一瞬だったけれど、今も彼の目は何か情報を取り逃がすまいとこちらに意識を向けていた。
「何を言うのですか。エミリオは病など患っていませんよ」
「なんだと?」
「どうして嘘をつくの!?」
ああ!
エミリオがばらしてしまった!
何とかして国王からの追及を避けるために俺の華麗な演説を聞かせてやろうと思ったのに!
そんなことを考えている間に、陛下の視線がエミリオに向く。
「さて、ではエミリオ。君はどうしてここにいるのかな?」
「はい。それは、ジェラルド様についてくる様に言われているからです」
「ふむ? ジェラルドに?」
「はい。僕は不治の病を患っています。そして、その病を治療できるかもしれないのはジェラルド様しかいない。でも、この国の特級回復術師であるジェラルド様に、ずっと僕の為だけにバルトラン子爵家に居てもらう訳にはいきません」
「そうだな」
「なので、僕が馬車に乗れる体力が回復するまでついていてくださりました。そして、馬車に乗れるようになると、ジェラルド様の仕事について行きながら治療を続けてもらっているのです」
「なるほどな……。それで、お主が仮面をつけている理由は?」
「僕は……不治の病を患っている。そう言いました」
「ああ。言ったな」
「これは……うつるものではない。そうししょ……ジェラルド様からも保証を頂いています。けれど、それを……心配する方もいるだろう。ということで仮面をつけています」
「そうか……悪かったな」
「いえ、不自然に思う方がいるのも当然だと思います。なので、どうかご了承頂きたく……」
そう言ってエミリオはすっと頭を下げる。
彼の様子を見て、陛下はしなくてよいとばかりに手を振った。
「頭を上げよ。余も不躾な質問をしてしまった。許せ」
「勿論でございます」
「おぉ……」
俺は思わず感嘆のため息を漏らす。
すごい。
エミリオ……まさかこの一瞬でそこまで作ったのか?
それができるのであれば、いっそそれだけで生きていくこともできるのでは……。
「時にロベルト」
「へい!」
「……へい?」
「あ、し、失礼しました。陛下。少々考え事をしていまして……」
「ふむ。何があったのだ?」
「そ、それが、エミリオは今日来たばかりという話ですので、どこの街をおススメしようか……」
やばい。
エミリオの言葉は全部嘘だから! よろしく!
なんて言えずに思わず適当なことを言ってしまった。
ここに来る前に女性陣とどこに遊びに行くか……げふんげふん。
どこにも行っていないので許して欲しい。
話していただけだから。
俺がそう言うと、陛下はいい案があるといった顔をして進めてくる。
「では、ロベルト、お前が案内してやればいいではないか」
「え? よろしい……のですか?」
「当然だ。余も余で王妃とデー……今後のことに関して協議や、この街の視察をしなければならん。ずっと一緒にいる必要はないからな」
「では……エミリオ。明日の予定は?」
「え? ぼ、僕は一応……ないと思うけど……思いますが、ジェラルド様に聞いてみないことにはなんとも」
エミリオはちょっと慌てながらそう話す。
しかし、国王がエミリオに微笑みかける。
「そうかそうか。何か不都合があれば余に言うがいい。少しくらいなら聞いてやらんこともない」
「あ、ありがとうございます。しかし、僕の為に陛下のお手を煩わせるようなことがあってはなりません。お気になさらず」
「ほう……小さいのにしっかりとしているな?」
「おほめ頂き感謝します」
「……時にエミリオ」
「はい」
「ロベルトのことについてはどう思う?」
「兄さ……バルトラン次期子爵について……ですか?」
「そうだ」
「とても……すごい人だと思っています。僕にはできないことを平然とやってくれて……いつも僕を助けてくれるんです」
「そうか……」
陛下はそんなエミリオの言葉を聞いて、何を思ったのか俺達に背を向ける。
「それでは余はこれで失礼する。明日はゆっくりと楽しんでくるとよい」
「はい。ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
俺はエミリオに続いて陛下に別れの挨拶をする。
「ではな。よい夢を」
そして、陛下はそのまま部屋から出て行く。
陛下が部屋から出て行って少し、エミリオが息を吐く。
「ふぅー緊張したよ……。僕……変なこと言ってなかった? すっごく不安だったんだ」
「エミリオ……お前、あの話は今考えたのか?」
「あの話?」
「病の話だ。ジェラルド様についていくとかどうとかって……」
「ああ、あれは元々誰かに聞かれたらそう答えるように、というので言われていたことだよ。師匠もそう話すように言っているはずだし、サシャとかも知ってるよ」
「そ、そう……だったのか。そうか……そうか……」
俺はなんだかとてつもない無力感を味わう。
俺……居なくてももうエミリオだけでいいんじゃないのかな。
そう思うと、エミリオが照れくさそうに話す。
「でも良かったよ。兄さんがいてくれなかったら、陛下と話なんてできなかったと思う」
「……」
「兄さんが先に口を聞いてくれたり、話してくれようとしたでしょ? だから僕も普通にしゃべれたんだ。ありがとうね。兄さん」
「エミリオ……明日は精一杯楽しもうな?」
「突然どうしたの?」
俺はエミリオの言葉でやる気に満ち溢れ、明日は全力でエミリオを楽しませようと決意した。
******
***国王視点***
「いかがでした? 陛下」
余が舞踏会を終え、王妃と部屋に戻ってくると彼女が聞いてくる。
その相手が誰についてであるかは、ここ最近の動向を考えればすぐに分かった。
「ああ、エミリオと言ったか、中々どうして、しっかりした子ではないか」
「病に伏せっていたのでは?」
「それにしても最低限度は礼節を持っておったよ。ところどころ崩れかけているのはそれはそれで必死さの頑張りが見えて好感が持てたな」
「左様ですか」
王妃はそう言うと、それ以上言うことはないと微笑む。
余はそんな彼女に向かって誘う。
「明日……もちろん護衛はつくが、街に出掛けないか?」
「陛下? ロベルトと歓談をしたりするのではないのですか?」
「ずっと……そうしているのはよくなかろう。それに、ロベルトとエミリオはとても仲が良さそうだった。たまには……家族水入らずにしてやるものいいだろうからな」
「……陛下。まだ王位を継いだことを後悔していますか?」
「いや……そんなことはない。だが、それでも……時々は思う。余も……あんな風に立場など考えずに仲良くしていられれば……とな」
「陛下……」
余は暗い記憶に頭を振り、気分を入れ替えるように王妃に向き直る。
「どこに行きたい?」
「そう……ですね。貴方が居ればどこでも……とは思いますが、最近の流行を見るだけでもいいので、街をゆっくりと歩くのもよさそうです」
「そうだな。それで……入りたい店があったら入るか」
「護衛が泣き言を上げそうですね」
「基本的にはあいつらの言うことを聞いているんだ。少しくらいのわがままは許されるだろう」
「ふふ、そうですね」
「それに、ロベルトとエミリオの護衛もちゃんとつける。行ってはいけないところもあるからな。まぁ……あの2人ならやらかしでもしない限りないだろうが」
「ですね。明日が楽しみです」
王妃はそんな冗談に優しく笑ってくれてる。
余はそんな王妃を大事にしようと口を開く。
「明日は精一杯遊ぶぞ。欲しいものはなんでも買ってやろう」
「まぁいいですか?」
「ああ、これで国王だぞ? それくらいはできるさ」
こうして、夜は更けていった。
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