上 下
102 / 129
6章

114話 エミリオの設定?

しおりを挟む

***ロベルト視点***

「探したぞ、ロベルト。全く、一体どうしたと言うのだ」

 そう言いながら陛下は扉から部屋の中に入ってくる。

 やってしまった。
 陛下の姿を見て、俺はそう思う。

 なぜか?
 エミリオの力は隠さねばならない。
 それは絶対であり、何をおいてもやらなければならないこと。

 今の俺に評価が集まっていることに関しても、エミリオの盾となるということであればやっていこう。
 そしてあわよくば、このチャンスを活かしてコネ等を作っておこう。
 そう思ったからだ。

 でも、ここでエミリオの姿がバレるのは不味い。
 俺が舞踏会で女性たちに囲まれて楽しんでいたことがバレることよりも不味い。

 エミリオは不治の病で苦しんでいる。
 それなのに、どうしてこんな寒い冬にわざわざヴェネルレイクにまで来ているのか?
 国王に問われたらきっと返事に困ってしまうに違いない。

 ならばどうするのか?
 俺が華麗に助け舟を出していく。
 これしかない。
 だてに立派な貴族としての振る舞いを学んでいた訳ではない。

 俺はしっかりと自分にやるべきことを言い聞かせると、陛下に向かい合う。

「これはこれは陛下。少し舞踏会でお話したい相手を見つけまして」
「それでいきなり2人きりでと誘ったということか?」
「え、ええ。彼のお話がとてもおもしろくて」
「ほう。どんな話をしていたのだ?」
「それは……」

 俺はそこまで考えて、言えないことに気付く。

 エミリオがレストラリアで上げた功績は隠されているはずだ。
 その功績を聞いて楽しんでいた。
 言えるはずがない!
 なぜ俺はこの話題を選んでしまったんだ!

 そう思っていたら、エミリオが立って口を開く。

「僕の旅の話をしていました」
「貴様は?」
「失礼いたしました。初めまして、国王陛下。僕はエミリオ。バルトラン子爵家の次男です」
「ほう。貴様があの……」
「はい。兄さん……ロベルト次期子爵は僕が旅をしてきて面白かった。楽しかったという事を聞いて下さっていたのです」

 エミリオ……エミリオ! お前はなんてできた弟なんだ!
 俺がちょっとだけやってしまったことをすぐに取り戻すなんて!

 だが、このままエミリオに任せておく訳にはいかない。
 俺だってやれるということを見せてやらねば。

「ええ、エミリオはとてもできた弟です。私としても鼻が高い」
「ふむ? しかし、君は……不治の病を患っていると聞いたが? もしかして……既に治っているのかな?」
「っ!?」

 陛下が鋭い、こちらを見抜くような視線を向けてくる。
 視線は一瞬だったけれど、今も彼の目は何か情報を取り逃がすまいとこちらに意識を向けていた。

「何を言うのですか。エミリオは病など患っていませんよ」
「なんだと?」
「どうして嘘をつくの!?」

 ああ!
 エミリオがばらしてしまった!
 何とかして国王からの追及ついきゅうを避けるために俺の華麗な演説を聞かせてやろうと思ったのに!

 そんなことを考えている間に、陛下の視線がエミリオに向く。

「さて、ではエミリオ。君はどうしてここにいるのかな?」
「はい。それは、ジェラルド様についてくる様に言われているからです」
「ふむ? ジェラルドに?」
「はい。僕は不治の病をわずらっています。そして、その病を治療できるかもしれないのはジェラルド様しかいない。でも、この国の特級回復術師であるジェラルド様に、ずっと僕の為だけにバルトラン子爵家に居てもらう訳にはいきません」
「そうだな」
「なので、僕が馬車に乗れる体力が回復するまでついていてくださりました。そして、馬車に乗れるようになると、ジェラルド様の仕事について行きながら治療を続けてもらっているのです」
「なるほどな……。それで、お主が仮面をつけている理由は?」
「僕は……不治の病を患っている。そう言いました」
「ああ。言ったな」
「これは……うつるものではない。そうししょ……ジェラルド様からも保証を頂いています。けれど、それを……心配する方もいるだろう。ということで仮面をつけています」
「そうか……悪かったな」
「いえ、不自然に思う方がいるのも当然だと思います。なので、どうかご了承頂きたく……」

 そう言ってエミリオはすっと頭を下げる。

 彼の様子を見て、陛下はしなくてよいとばかりに手を振った。

「頭を上げよ。余も不躾ぶしつけな質問をしてしまった。許せ」
「勿論でございます」
「おぉ……」

 俺は思わず感嘆かんたんのため息を漏らす。
 すごい。
 エミリオ……まさかこの一瞬でそこまで作ったのか?
 それができるのであれば、いっそそれだけで生きていくこともできるのでは……。

「時にロベルト」
「へい!」
「……へい?」
「あ、し、失礼しました。陛下。少々考え事をしていまして……」
「ふむ。何があったのだ?」
「そ、それが、エミリオは今日来たばかりという話ですので、どこの街をおススメしようか……」

 やばい。
 エミリオの言葉は全部嘘だから! よろしく!
 なんて言えずに思わず適当なことを言ってしまった。
 ここに来る前に女性陣とどこに遊びに行くか……げふんげふん。
 どこにも行っていないので許して欲しい。
 話していただけだから。

 俺がそう言うと、陛下はいい案があるといった顔をして進めてくる。

「では、ロベルト、お前が案内してやればいいではないか」
「え? よろしい……のですか?」
「当然だ。余も余で王妃とデー……今後のことに関して協議や、この街の視察をしなければならん。ずっと一緒にいる必要はないからな」
「では……エミリオ。明日の予定は?」
「え? ぼ、僕は一応……ないと思うけど……思いますが、ジェラルド様に聞いてみないことにはなんとも」

 エミリオはちょっと慌てながらそう話す。

 しかし、国王がエミリオに微笑みかける。

「そうかそうか。何か不都合があれば余に言うがいい。少しくらいなら聞いてやらんこともない」
「あ、ありがとうございます。しかし、僕の為に陛下のお手をわずらわせるようなことがあってはなりません。お気になさらず」
「ほう……小さいのにしっかりとしているな?」
「おほめ頂き感謝します」
「……時にエミリオ」
「はい」
「ロベルトのことについてはどう思う?」
「兄さ……バルトラン次期子爵について……ですか?」
「そうだ」
「とても……すごい人だと思っています。僕にはできないことを平然とやってくれて……いつも僕を助けてくれるんです」
「そうか……」

 陛下はそんなエミリオの言葉を聞いて、何を思ったのか俺達に背を向ける。

「それでは余はこれで失礼する。明日はゆっくりと楽しんでくるとよい」
「はい。ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」

 俺はエミリオに続いて陛下に別れの挨拶をする。

「ではな。よい夢を」

 そして、陛下はそのまま部屋から出て行く。


 陛下が部屋から出て行って少し、エミリオが息を吐く。

「ふぅー緊張したよ……。僕……変なこと言ってなかった? すっごく不安だったんだ」
「エミリオ……お前、あの話は今考えたのか?」
「あの話?」
「病の話だ。ジェラルド様についていくとかどうとかって……」
「ああ、あれは元々誰かに聞かれたらそう答えるように、というので言われていたことだよ。師匠もそう話すように言っているはずだし、サシャとかも知ってるよ」
「そ、そう……だったのか。そうか……そうか……」

 俺はなんだかとてつもない無力感を味わう。
 俺……居なくてももうエミリオだけでいいんじゃないのかな。

 そう思うと、エミリオが照れくさそうに話す。

「でも良かったよ。兄さんがいてくれなかったら、陛下と話なんてできなかったと思う」
「……」
「兄さんが先に口を聞いてくれたり、話してくれようとしたでしょ? だから僕も普通にしゃべれたんだ。ありがとうね。兄さん」
「エミリオ……明日は精一杯楽しもうな?」
「突然どうしたの?」

 俺はエミリオの言葉でやる気に満ちあふれ、明日は全力でエミリオを楽しませようと決意した。

******

***国王視点***

「いかがでした? 陛下」

 余が舞踏会を終え、王妃と部屋に戻ってくると彼女が聞いてくる。
 その相手が誰についてであるかは、ここ最近の動向を考えればすぐに分かった。

「ああ、エミリオと言ったか、中々どうして、しっかりした子ではないか」
「病に伏せっていたのでは?」
「それにしても最低限度は礼節れいせつを持っておったよ。ところどころ崩れかけているのはそれはそれで必死さの頑張りが見えて好感が持てたな」
「左様ですか」

 王妃はそう言うと、それ以上言うことはないと微笑む。

 余はそんな彼女に向かって誘う。

「明日……もちろん護衛はつくが、街に出掛けないか?」
「陛下? ロベルトと歓談をしたりするのではないのですか?」
「ずっと……そうしているのはよくなかろう。それに、ロベルトとエミリオはとても仲が良さそうだった。たまには……家族水入らずにしてやるものいいだろうからな」
「……陛下。まだ王位を継いだことを後悔していますか?」
「いや……そんなことはない。だが、それでも……時々は思う。余も……あんな風に立場など考えずに仲良くしていられれば……とな」
「陛下……」

 余は暗い記憶に頭を振り、気分を入れ替えるように王妃に向き直る。

「どこに行きたい?」
「そう……ですね。貴方が居ればどこでも……とは思いますが、最近の流行を見るだけでもいいので、街をゆっくりと歩くのもよさそうです」
「そうだな。それで……入りたい店があったら入るか」
「護衛が泣き言を上げそうですね」
「基本的にはあいつらの言うことを聞いているんだ。少しくらいのわがままは許されるだろう」
「ふふ、そうですね」
「それに、ロベルトとエミリオの護衛もちゃんとつける。行ってはいけないところもあるからな。まぁ……あの2人ならやらかしでもしない限りないだろうが」
「ですね。明日が楽しみです」

 王妃はそんな冗談に優しく笑ってくれてる。

 余はそんな王妃を大事にしようと口を開く。

「明日は精一杯遊ぶぞ。欲しいものはなんでも買ってやろう」
「まぁいいですか?」
「ああ、これで国王だぞ? それくらいはできるさ」

 こうして、夜はけていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……

こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。