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ショコラの接吻
04 ー 王都へ
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「貴様達は、こんな美味い物を食べていたのか!」
いつぞやと似た台詞を吐いたのは、ローストビーフのサンドイッチを食べた黒豹殿下だ。ローストビーフと言っているが、その牛は二足歩行で斧を構えている牛なのだが。
ローストビーフの起源は古く、イギリスに駐在していた古代ローマ軍が牛肉を塊のまま焚き火で焼いて食べたことが始まりと言われている。だったらこの世界にあっても良いのだが、似た料理はあってもソースは別物だし、ローストビーフを使う部位は決まっていないそうなので、味にバラつきがあるらしい。
ちなみに、適した部位はサーロインとランプだ。
用意した茶請けが殆ど誠を除く三人の腹に納まった頃、ようやく誠もこの部屋に呼ばれた理由を話してくれた。
誠に伝えることは二つ。カルトーフィリ村での商業ギルド職員の件と、新居についてだそうだ。
ギルド職員はすでにスルト騎士団の手入れがあり、当の本人は捕まったそうだ。しかし、ことの重大さを危惧したフレデリクと、その商業ギルドを置いている領主のレイナルド、そして誠のツガイ相手であるアレクセイの家であるヴォルク公爵家は、
連名で商業ギルドに対して苦言を呈した。
ギルドは国に捕らわれないというのは、冒険者、商業ギルド共に同じ理念だが、人々の生活に根付き、貴族や王族との付き合いもある分、信用を失うと痛いのは商業ギルドだ。
なので、いくら商業の自由があるとは言え、いろんな忖度がある分、商業ギルドは動かしやすいそうだ。本来なら一権力に左右されないのだが、向こうに明らかな失態があるので、あまりにも無茶な要望以外は通ってしまうのだろう。
元々は民間の一つの組合が大きくなったのが商業ギルドだ。今は世界各地に支部が点在しているので国家権力と対峙できる力を持っているのだが、大きな権力を持っていればいるほど、それに対する責任というものが発生する。
商業ギルドは腹黒帝王に貸しを作る形となってしまったようだが、部下の管理が甘かったので自業自得だが、きっと商業ギルドは、何かあれば良いように黒豹殿下に使われるんだろう。もしかしたら、ヴォルク家にも…。
可哀想に…。
誠は半目になりながら、フレデリクを見ていた。
「まぁ、俺は普通に商売できりゃ、それで良いんだけど」
「…そうか」
明らかに残念そうな表情になったフレデリクに、誠の頬は引き攣る。
何をするつもりだったんだろう。
聞きたい気もするし、聞けば引き返せないことになるかもしれない。
フレデリクは咳払いをすると、数枚の紙をテーブルに滑らせた。ティーカップの隙間を縫うようにこちらにやってきた紙の束を見てみると、どれも家の間取りが書かれてある。
「そちらが今回の話のメインだ」
アレクセイが見えるように、二人の間に束を置く。わざわざフレデリクが探したのかと思ったが、どうやら違うようだ。
「兄上。この物件の場所ですが、全てヴォルク家のタウンハウスに近いところばかりなんですが」
「当たり前だろう。物件を選んで用意したのは、母上なのだからな」
「…過干渉でしょう」
アレクセイは紙を見ながら、眉間の皺を深くした。
「どれも広い家ばっかだな」
「ああ。この広さだと、何人かメイドを雇う必要があるだろう」
部屋の大きさは日本のように畳での換算ではなく、メートルで書かれてあった。分かりやすいようで分かりにくい。ルシリューリクはどこまで手抜きなんだろうか。
いや、それよりも今は物件の大きさの方が大事だ。どの部屋も一辺が五メートル以上あるというのは、何なんだろう。
それに、部屋数も無駄に多い。食事会を開くのでダイニングが広いのは良いのだが、二人しか住まないのだ。何で一階だけでも、部屋数が八部屋もあるのだろうか。広い。広過ぎる。
他の物件も似たり寄ったりなので、アレクセイがメイドが必要だと言ったのも頷ける。
そして家は借家なのか建売なのか。値段がかなり気になるところだ。紙のどこを見ても、値段が書かれていないので、余計に怖い。
「兄上。これは母上に返しておきます」
誠が困っているのが分かったのか、アレクセイはそう言って束を突き返した。そして誠に向かい合う。
「マコト。俺はしばらくは、君と二人で住みたい。それに君の職業のこともあるだろう。余計な人を家に入れる必要はないし、君が良いという家を選びたいと思っている」
「あ…うん。ありがと。でも、俺が選んで良いの?せっかく用意してくれたのに」
「ああ、かまわないさ。あまり俺の実家に近いと、母が入り浸る可能性が高い。マコトのことは気にいるだろうしな」
ふう、と小さな溜息をアレクセイは吐いた。
話を聞く限りでは実家との折り合いは良いようだが、やはり成人男性なのであまり母親に干渉されるのは嫌なのだろう。
狼は群れを大事にする生き物なのだが、ツガイを得た狼獣人は、また少し違うのかもしれない。
アレクセイはニヤリと笑い、フレデリクに言った。
「ああ、兄上。この物件は、兄上に譲りますよ。まだ二人は寮住まいでしょう?兄上がこの物件のどれかに住めば、母上も喜びますよ」
「なっ…!アレクセイ。貴様、私を売る気か?」
「まさか」
「…私が家の話を止められなかったから、怒っているんだな?」
「まさか」
不敵に笑うアレクセイは、じわじわとフレデリクを押していた。
いつぞやと似た台詞を吐いたのは、ローストビーフのサンドイッチを食べた黒豹殿下だ。ローストビーフと言っているが、その牛は二足歩行で斧を構えている牛なのだが。
ローストビーフの起源は古く、イギリスに駐在していた古代ローマ軍が牛肉を塊のまま焚き火で焼いて食べたことが始まりと言われている。だったらこの世界にあっても良いのだが、似た料理はあってもソースは別物だし、ローストビーフを使う部位は決まっていないそうなので、味にバラつきがあるらしい。
ちなみに、適した部位はサーロインとランプだ。
用意した茶請けが殆ど誠を除く三人の腹に納まった頃、ようやく誠もこの部屋に呼ばれた理由を話してくれた。
誠に伝えることは二つ。カルトーフィリ村での商業ギルド職員の件と、新居についてだそうだ。
ギルド職員はすでにスルト騎士団の手入れがあり、当の本人は捕まったそうだ。しかし、ことの重大さを危惧したフレデリクと、その商業ギルドを置いている領主のレイナルド、そして誠のツガイ相手であるアレクセイの家であるヴォルク公爵家は、
連名で商業ギルドに対して苦言を呈した。
ギルドは国に捕らわれないというのは、冒険者、商業ギルド共に同じ理念だが、人々の生活に根付き、貴族や王族との付き合いもある分、信用を失うと痛いのは商業ギルドだ。
なので、いくら商業の自由があるとは言え、いろんな忖度がある分、商業ギルドは動かしやすいそうだ。本来なら一権力に左右されないのだが、向こうに明らかな失態があるので、あまりにも無茶な要望以外は通ってしまうのだろう。
元々は民間の一つの組合が大きくなったのが商業ギルドだ。今は世界各地に支部が点在しているので国家権力と対峙できる力を持っているのだが、大きな権力を持っていればいるほど、それに対する責任というものが発生する。
商業ギルドは腹黒帝王に貸しを作る形となってしまったようだが、部下の管理が甘かったので自業自得だが、きっと商業ギルドは、何かあれば良いように黒豹殿下に使われるんだろう。もしかしたら、ヴォルク家にも…。
可哀想に…。
誠は半目になりながら、フレデリクを見ていた。
「まぁ、俺は普通に商売できりゃ、それで良いんだけど」
「…そうか」
明らかに残念そうな表情になったフレデリクに、誠の頬は引き攣る。
何をするつもりだったんだろう。
聞きたい気もするし、聞けば引き返せないことになるかもしれない。
フレデリクは咳払いをすると、数枚の紙をテーブルに滑らせた。ティーカップの隙間を縫うようにこちらにやってきた紙の束を見てみると、どれも家の間取りが書かれてある。
「そちらが今回の話のメインだ」
アレクセイが見えるように、二人の間に束を置く。わざわざフレデリクが探したのかと思ったが、どうやら違うようだ。
「兄上。この物件の場所ですが、全てヴォルク家のタウンハウスに近いところばかりなんですが」
「当たり前だろう。物件を選んで用意したのは、母上なのだからな」
「…過干渉でしょう」
アレクセイは紙を見ながら、眉間の皺を深くした。
「どれも広い家ばっかだな」
「ああ。この広さだと、何人かメイドを雇う必要があるだろう」
部屋の大きさは日本のように畳での換算ではなく、メートルで書かれてあった。分かりやすいようで分かりにくい。ルシリューリクはどこまで手抜きなんだろうか。
いや、それよりも今は物件の大きさの方が大事だ。どの部屋も一辺が五メートル以上あるというのは、何なんだろう。
それに、部屋数も無駄に多い。食事会を開くのでダイニングが広いのは良いのだが、二人しか住まないのだ。何で一階だけでも、部屋数が八部屋もあるのだろうか。広い。広過ぎる。
他の物件も似たり寄ったりなので、アレクセイがメイドが必要だと言ったのも頷ける。
そして家は借家なのか建売なのか。値段がかなり気になるところだ。紙のどこを見ても、値段が書かれていないので、余計に怖い。
「兄上。これは母上に返しておきます」
誠が困っているのが分かったのか、アレクセイはそう言って束を突き返した。そして誠に向かい合う。
「マコト。俺はしばらくは、君と二人で住みたい。それに君の職業のこともあるだろう。余計な人を家に入れる必要はないし、君が良いという家を選びたいと思っている」
「あ…うん。ありがと。でも、俺が選んで良いの?せっかく用意してくれたのに」
「ああ、かまわないさ。あまり俺の実家に近いと、母が入り浸る可能性が高い。マコトのことは気にいるだろうしな」
ふう、と小さな溜息をアレクセイは吐いた。
話を聞く限りでは実家との折り合いは良いようだが、やはり成人男性なのであまり母親に干渉されるのは嫌なのだろう。
狼は群れを大事にする生き物なのだが、ツガイを得た狼獣人は、また少し違うのかもしれない。
アレクセイはニヤリと笑い、フレデリクに言った。
「ああ、兄上。この物件は、兄上に譲りますよ。まだ二人は寮住まいでしょう?兄上がこの物件のどれかに住めば、母上も喜びますよ」
「なっ…!アレクセイ。貴様、私を売る気か?」
「まさか」
「…私が家の話を止められなかったから、怒っているんだな?」
「まさか」
不敵に笑うアレクセイは、じわじわとフレデリクを押していた。
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