神様の料理番

柊 ハルト

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ショコラの接吻

05 ー 王都へ

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 第一部隊長の執務室を出た誠は、アレクセイに連れられて王城周辺の貴族街に来ていた。
 王都は王城を中心に、貴族街には高位貴族のタウンハウス、貴族街と平民街の間には下位貴族のタウンハウス、そして平民街と放射線状に広がっているそうだ。
 アレクセイの爵位上、居住を構えるのは基本的には貴族街になる。けれど、騎士団と魔術師団は貴族街と平民街の間辺りにあるので、通勤のことを考えると別にその辺りでもかまわないらしい。

「だったら、そのあたりが良いな。職場に近い方が、楽だろ」

 実家だと通勤時間ゼロ分の誠が言っても説得力は無いが、製菓学校時代からの友人である寺田は通勤時間に一時間程かかるそうで、乗り換えが面倒臭いし時間が勿体ないとよく溢していたので、やはり職場が近い方が良いだろう。
 誠がそう提案すると、アレクセイは眉をへにょりと下げた。

「王都内は騎士団の第四部隊が巡回しているとはいえ、夜は危険だぞ。俺は夜勤の日もあるから、貴族街にしないか」
「えー。貴族街って、貴族ばっかなんだろ?」
「貴族向けの商店もあるから、貴族ばかりというわけではないんだが…」
「それでも、気後れしそう。俺は貴族街と平民街の間辺り希望かな。つーか、夜は家に結界張っとくから心配無いんだっーの」

 そう言うと、アレクセイは少し考えた後で頷いてくれた。
 どうやら懸念材料は誠の安全のことだったようだ。誠が強いことを忘れていたわけではないのだが、それでも心配だったのだろう。

「それに、屋台出すんなら平民街だしな」

 それは最初から決めていたことだ。けれどその言葉を聞いたアレクセイは、驚いていた。

「そうなのか?」
「え?うん。だって貴族向けの商品っつったら、入れ物から何から凝らないといけないイメージだし、対応が面倒臭い。実家のカフェもお客さんの半分は庶民だからってのもあって、俺の菓子は気軽に食べてもらいたいんだよね」
「なるほど…。だからマコトはあんなにホイホイと、周りにスイーツやら何やらを配っていたんだな」

 意外とアレクセイは、誠の行動を見ていたらしい。

「おう。だって直に食べた時の反応見たいし、全部食べてくれるだろ?貴族に売ったらさぁ、お茶会やらで出されると、残しそうじゃん。俺、そういうの嫌いなんだよね」

 残れば使用人の皆で食べてもらえれば良いが、そういう盛り付け方をしていない場合はゴミ箱行きだ。
 実家のカフェでも廃棄を出さないように工夫しているし、出雲の温泉宿はそれ以上に工夫をしている。実際には事前に料理の量は相談して決められているので残ることは無いが、残すと牡丹の鉄拳が飛んでくるので、廃棄はゼロだそうだ。
 誠はそういう躾を受けているし、勿体ない根性が染み付いているので、売った後のスイーツの行方が心配なのだ。
 平民だと試食をしてもらった上での購入が主なので、セーヴィルでの反応を見る限りでは安心できるだろう。

「…そうだな。大きなお茶会や夜会になると、皿に取ったものを残す者も居るからな」
「うへぇ。それってマナー違反なんじゃねぇの?」
「食べている途中でダンスに誘われたりすると、仕方がないようだ」
「せめて食べ終わってから踊りに行けよな」
「俺もそう思う」

 アレクセイが同意してくれたので、ほっとした。食の部分はいくらツガイと言っても譲れないので、自分と共通認識を持ってくれていて良かった。
 目的も無く歩いているのかと思ったが、アレクセイが連れてきてくれたのは大きめの宿だった。
 誠は部外者なので、騎士団の寮には泊まれない。これに対して異議はないのでおとなしく決まりに従うが、もう少し小さな宿は無かったのだろうか。
 貴族街ということで、値段の方がとても気になるところだ。

「…俺、平民街の宿で良いんだけど」

 そう言うとアレクセイは誠の両手を包んで懇願した。

「頼む、マコト。君が強いのは分かっているが、この宿が一番セキュリティが高いんだ。それにヴォルク商会が営んでいるから、余計な詮索も入らない。だから宿泊料金もかからないんだ。…俺のためと思って、ここに泊まってくれないか?」
「ぐっ…」

 どうやら銀色の狼は、誠の操作方法を少しずつ覚えてきたようだ。こうも言われると断りきれない誠は、元気を失っている銀色の尾に陥落してしまった。
 そこら辺の邸と変わらない建物だ。貴族の邸との違いは、バカ広い庭があるか無いかだろう。小さな庭を進んで中に入ると、ドアの側には従業員が控えていた。
 アレクセイはその従業員と一言二言話すと、従業員は軽く頭を下げてから奥に引っ込んで行った。

「少し待っていてくれ。じきに支配人が来る」
「え…?ああ」

 ヴォルク商会が営んでいると言っていたから、その息子が来れば支配人も挨拶などに来るのだろう。毎度忘れてしまうが、アレクセイは公爵家の子息なのだ。貴族では一番上の階級なのだから、こういう扱いになる。

「マコト。残念ながら、この宿は共有キッチンが無い」
「そうなの?…まぁ、貴族街っつーんだから、そうなるの…か?」
「ああ。よければ厨房を使わせてもらうように言うが」
「いや、いいよ。仕事の邪魔はしたくないし、王都の料理も食べてみたいし」
「そうか。では、コースを頼んでおこうか。スパイスは控えめで」
「うん」
「楽しみだな」
「うん…うん?」

 その言い方に疑問を持った誠が聞き返してみると、どうやらアレクセイもしばらくこの宿に泊まるそうだ。誠はてっきり、一人で泊まるものだと思っていた。アレクセイは、騎士団の寮に部屋があるのだから。

「マコトが居る部屋が、俺の帰る場所だ」

 逃がさないとばかりにしっかりと腰を抱かれ、誠は拒否することができなかった。それに、すぐに支配人がやって来たのでこの状況をばっちり見られてしまい、にこにこと恵比寿顔になった白い髭が立派な支配人は
「アレクセイ様にツガイが…。生きているうちに見られるなんて」
 と、ハンカチで目元を押さえていた。
 アレクセイは、どれだけ心配されていたのだろうか。まだ二十代中盤だし、獣人の平均寿命は五百年だそうなので、心配する歳でもないのに。
 小声でアレクセイに聞くと、ヴォルク家の者はツガイを追い求めるあまり、三百歳を過ぎても結婚しない者が何人か居たらしい。アレクセイは、その人達と同じ道を辿ると思われていたのだろう。
 そんな支配人に案内された部屋は、一番良い部屋だった。無駄に広くて部屋数もあり、スイートルームに泊まったことのない誠は妙に緊張してしまったが、夜になればぐっすりと眠れた。
 誠の神経は図太い。
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