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44 憧れの存在
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表面上は何事もなかったように見せていたノマーリンであったが、心中には『自分は何のためにここにいるのか』と棘が刺さったままであった。
そうして過ごして間もなく、家庭教師のレベルが上げられた。その家庭教師が挨拶代わりにした話にノマーリンは光明を得た。
「公爵令嬢たる者としてお役目を果たせるようお勉強してまいりましょう」
「公爵令嬢のお役目ですか?」
「ええ、そうです。公爵令嬢として皆に敬意を払われる存在にならなければなりませんわ」
「何のためにですか?」
「公爵令嬢ともなれば、経済を動かすこともできるからです。その方が着るドレスが流行したり、お菓子やお茶が人気になったりいたします。
ただし、それは憧れられる存在である必要があるのです。お嬢様は憧れられる淑女となるよう学んでいかなければなりません」
「それがわたくしのお役目なのね」
ノマーリンは目を輝かせた。
「経済とは少し異なりますが、お嬢様が笑顔になれば使用人たちは張り切ります。すると公爵家が活気付きます。楽しく仕事をすることは生活に潤いが出て、これもまた経済に繋がるのです。
しかし、ただお嬢様が笑顔でいればよいのではありませんよ。敬われ愛されるお嬢様が笑顔でいることが大切なのです。
敬われる存在になりましょう」
「わかりましたわ。わたくし、頑張りますわ」
憧れられ敬われる存在になることがお役目であると知ったノマーリンは、貪欲に学んでいった。そして、可憐な容姿と柔和な笑顔と慈母の眼差しを携え、普段は隠しているが時に見せる賢明さが冴え渡り、誰からも尊敬され愛され憧れられる淑女へと成長していった。
〰️ 〰️ 〰️
ノマーリンから幼少期の悩みを聞いたニールデンとパメラ、そして老執事は目を落とした。
「全く気が付かなかったわ。ごめんなさいね」
「わたくしの不用意な言葉がお嬢様を傷つけていたとは思わず……。申し訳ございません」
「違うわ。貴方の言った『にこやかに過ごすことが仕事』という言葉の意味を理解していなかっただけよ。今ならそれも公爵令嬢として大切なお役目だとわかっているわ。
お母様。わたくしは誰かに必要とされたり、わたくしのお役目があることに喜びを感じますの」
ノマーリンは老執事とパメラに満面の笑みを見せた。老執事はハンカチで目尻を押さえる。パメラはノマーリンの手を握る力を少しだけ強めた。
「それならば尚更『王子妃の役目』を奪おうとする輩が憎いのではないのか?」
「公爵令嬢としてのお役目は残りますもの。大丈夫ですわ。
それに、レンエール殿下を信じております」
「お前への愛を、か?」
「ふふふ。違いますわ。殿下のお国への愛ですわ。
わたくしは殿下の婚約者となってから幾度となく殿下とお国のことをお話いたしました。国民の笑顔を何より大切に思っておられました。
その殿下がお選びになる女性はお国のためになる方だと信じております」
「なるほど」
「サビマナ様はこれまで学ぶ機会がなかっただけで優秀な人材であるかもしれません。それを見極めた時に殿下がお決めになればよいと思いますわ。
サビマナ様が王妃に相応しいのであれば、殿下のお相手はわたくしである必要はないではありませんか」
「それもそうだな」
「殿下は国民に優しく、優秀な方です。もしもの時はご自分のお気持ちより国民の幸せをお考えになれる方ですわ」
「だが、自分の気持ちを優先させた場合はどうする?」
「それらは国王陛下とお父様たちがお考えになるべきことですわ。大公様もいらっしゃるのですから問題ないのではなくて?」
レンエールには兄弟はいないが、従兄弟がいる。大公家に五代振りに王女が嫁つぎ、レンエールより六歳下の男子がいる。大公家の跡取りでありレンエールのスペアとして教育されている。
そうして過ごして間もなく、家庭教師のレベルが上げられた。その家庭教師が挨拶代わりにした話にノマーリンは光明を得た。
「公爵令嬢たる者としてお役目を果たせるようお勉強してまいりましょう」
「公爵令嬢のお役目ですか?」
「ええ、そうです。公爵令嬢として皆に敬意を払われる存在にならなければなりませんわ」
「何のためにですか?」
「公爵令嬢ともなれば、経済を動かすこともできるからです。その方が着るドレスが流行したり、お菓子やお茶が人気になったりいたします。
ただし、それは憧れられる存在である必要があるのです。お嬢様は憧れられる淑女となるよう学んでいかなければなりません」
「それがわたくしのお役目なのね」
ノマーリンは目を輝かせた。
「経済とは少し異なりますが、お嬢様が笑顔になれば使用人たちは張り切ります。すると公爵家が活気付きます。楽しく仕事をすることは生活に潤いが出て、これもまた経済に繋がるのです。
しかし、ただお嬢様が笑顔でいればよいのではありませんよ。敬われ愛されるお嬢様が笑顔でいることが大切なのです。
敬われる存在になりましょう」
「わかりましたわ。わたくし、頑張りますわ」
憧れられ敬われる存在になることがお役目であると知ったノマーリンは、貪欲に学んでいった。そして、可憐な容姿と柔和な笑顔と慈母の眼差しを携え、普段は隠しているが時に見せる賢明さが冴え渡り、誰からも尊敬され愛され憧れられる淑女へと成長していった。
〰️ 〰️ 〰️
ノマーリンから幼少期の悩みを聞いたニールデンとパメラ、そして老執事は目を落とした。
「全く気が付かなかったわ。ごめんなさいね」
「わたくしの不用意な言葉がお嬢様を傷つけていたとは思わず……。申し訳ございません」
「違うわ。貴方の言った『にこやかに過ごすことが仕事』という言葉の意味を理解していなかっただけよ。今ならそれも公爵令嬢として大切なお役目だとわかっているわ。
お母様。わたくしは誰かに必要とされたり、わたくしのお役目があることに喜びを感じますの」
ノマーリンは老執事とパメラに満面の笑みを見せた。老執事はハンカチで目尻を押さえる。パメラはノマーリンの手を握る力を少しだけ強めた。
「それならば尚更『王子妃の役目』を奪おうとする輩が憎いのではないのか?」
「公爵令嬢としてのお役目は残りますもの。大丈夫ですわ。
それに、レンエール殿下を信じております」
「お前への愛を、か?」
「ふふふ。違いますわ。殿下のお国への愛ですわ。
わたくしは殿下の婚約者となってから幾度となく殿下とお国のことをお話いたしました。国民の笑顔を何より大切に思っておられました。
その殿下がお選びになる女性はお国のためになる方だと信じております」
「なるほど」
「サビマナ様はこれまで学ぶ機会がなかっただけで優秀な人材であるかもしれません。それを見極めた時に殿下がお決めになればよいと思いますわ。
サビマナ様が王妃に相応しいのであれば、殿下のお相手はわたくしである必要はないではありませんか」
「それもそうだな」
「殿下は国民に優しく、優秀な方です。もしもの時はご自分のお気持ちより国民の幸せをお考えになれる方ですわ」
「だが、自分の気持ちを優先させた場合はどうする?」
「それらは国王陛下とお父様たちがお考えになるべきことですわ。大公様もいらっしゃるのですから問題ないのではなくて?」
レンエールには兄弟はいないが、従兄弟がいる。大公家に五代振りに王女が嫁つぎ、レンエールより六歳下の男子がいる。大公家の跡取りでありレンエールのスペアとして教育されている。
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