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16 男爵家の上下関係
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ボーラン男爵がサビマナに勉強を頑張ってほしいと懇願するが、サビマナはボーラン男爵がサビマナに激甘なことを充分に理解している。
「もうっ! 私もいっぱいいっぱいに頑張ってるのっ! 私のせいじゃなくて、家庭教師の腕が悪いのよ」
サビマナは腕を胸の前で組んで、口を尖らせ『プイッ』と横を向いた。ボーラン男爵もこうなってはサビマナが何も聞き入れないことは承知している。それにボーラン男爵は勉強の指導の様子を直接見たわけではないのでサビマナの言葉を信じた。
「なるほど、そうかもしれないな」
先程まで丁寧にマナーを指導してもらったことなどすっかり忘れている。否、そうであってもできないことを何度も注意されて嫌気がさしている。
「私にわかりにくいように言うの」
「あなたっ!」
ボーラン男爵夫人は自身もマナーはできなかったが、それを呆れることなく何度も教えてくれていた執事たちに感心していたのでそれについてはサビマナに言うべきだと考えてボーラン男爵の袖を引いた。
「お母さんは何も知らないでしょっ!」
サビマナは危険を察知したのか、母親を牽制した。平民出のボーラン男爵夫人はその後ろめたさから口を閉じた。兄も妹にも父親にも強く言えない。
「わかりにくい指導は良くないな。高い料金だけせしめる輩なのだろう。ネイベット大臣に相談しておくよ」
「うんっ! お願いねっ! 特にコリンヌは首にしてもらってよ」
「わかったわかった。サビマナに合う家庭教師を手配してもらおう」
「お父さん! ありがとう!」
隣室ではネイベット侯爵は呆れたというように左右に首を振っていた。レンエールは王子らしからぬ姿で、ダランと項垂れている。普段はそのようなレンエールを指導するメイド長もレンエールを憐れむように放置していた。
ネイベット侯爵の指示でメイドがボーラン男爵一家を馬車寄せへと連れていく。先頭にはネイベット侯爵が歩いていた。ボーラン男爵はソソッっとネイベット侯爵の脇へ行く。
「サビマナの家庭教師なのですが……」
隣室で全て聞いているネイベット侯爵はボーラン男爵が言わんとすることを即座に理解した。
「王妃陛下ご推薦の素晴らしい教師陣です。お会いになりますか?」
先制攻撃を受けたボーラン男爵はグッと飲み込んだ。王妃陛下の名前が出ては反論など出来ようものがない。
「いえ……。みなさまによろしくとお伝えください……」
「わかりました。ボーラン男爵のご許可が降りたと報告いたします。これまで以上に教育に力を入れてくれることでしょう」
ボーラン男爵はスゴスゴと歩くペースを落としてネイベット侯爵から離れた。サビマナはボーラン男爵の腕にパンチしたが、ボーラン男爵は渋い顔をするだけだった。
馬車寄せに到着するとサビマナは一晩くらい家に帰りたいと主張したが、ネイベット侯爵から鋭い視線を受けた父親から『明日の朝の勉強を頑張ってほしい』と言われて渋々頷いた。
〰️
その日の夜の食事で、サビマナは『楽しく食べることがおもてなしだ』とコリンヌに言った。
「今のボーラン様とお食事をしても、楽しいと思う貴族はいませんよ」
コリンヌにピシャリと返され、マナーレッスンがなくなることはなかった。
もちろん、コリンヌが首になるはずもない。
そして、父親との約束もなんのその。サビマナが早起きをすることは不可能なようだ。
〰️ 〰️ 〰️
それから約一ヶ月後の週末。
サビマナの怒鳴り声が勉強部屋として使われている客間に響いた。
「もっぉぉ!! いやっ!
こんなのわかんないわよっ!」
一ヶ月たってもサビマナの勉強は全く進んでいない。この怒鳴り声もすでに日常化している。
教師陣は宣言通り厳しく指導しているが、気持ちが図太いサビマナはあの手この手でさぼるし、暗記物など全く覚えないでいた。
「もうっ! 私もいっぱいいっぱいに頑張ってるのっ! 私のせいじゃなくて、家庭教師の腕が悪いのよ」
サビマナは腕を胸の前で組んで、口を尖らせ『プイッ』と横を向いた。ボーラン男爵もこうなってはサビマナが何も聞き入れないことは承知している。それにボーラン男爵は勉強の指導の様子を直接見たわけではないのでサビマナの言葉を信じた。
「なるほど、そうかもしれないな」
先程まで丁寧にマナーを指導してもらったことなどすっかり忘れている。否、そうであってもできないことを何度も注意されて嫌気がさしている。
「私にわかりにくいように言うの」
「あなたっ!」
ボーラン男爵夫人は自身もマナーはできなかったが、それを呆れることなく何度も教えてくれていた執事たちに感心していたのでそれについてはサビマナに言うべきだと考えてボーラン男爵の袖を引いた。
「お母さんは何も知らないでしょっ!」
サビマナは危険を察知したのか、母親を牽制した。平民出のボーラン男爵夫人はその後ろめたさから口を閉じた。兄も妹にも父親にも強く言えない。
「わかりにくい指導は良くないな。高い料金だけせしめる輩なのだろう。ネイベット大臣に相談しておくよ」
「うんっ! お願いねっ! 特にコリンヌは首にしてもらってよ」
「わかったわかった。サビマナに合う家庭教師を手配してもらおう」
「お父さん! ありがとう!」
隣室ではネイベット侯爵は呆れたというように左右に首を振っていた。レンエールは王子らしからぬ姿で、ダランと項垂れている。普段はそのようなレンエールを指導するメイド長もレンエールを憐れむように放置していた。
ネイベット侯爵の指示でメイドがボーラン男爵一家を馬車寄せへと連れていく。先頭にはネイベット侯爵が歩いていた。ボーラン男爵はソソッっとネイベット侯爵の脇へ行く。
「サビマナの家庭教師なのですが……」
隣室で全て聞いているネイベット侯爵はボーラン男爵が言わんとすることを即座に理解した。
「王妃陛下ご推薦の素晴らしい教師陣です。お会いになりますか?」
先制攻撃を受けたボーラン男爵はグッと飲み込んだ。王妃陛下の名前が出ては反論など出来ようものがない。
「いえ……。みなさまによろしくとお伝えください……」
「わかりました。ボーラン男爵のご許可が降りたと報告いたします。これまで以上に教育に力を入れてくれることでしょう」
ボーラン男爵はスゴスゴと歩くペースを落としてネイベット侯爵から離れた。サビマナはボーラン男爵の腕にパンチしたが、ボーラン男爵は渋い顔をするだけだった。
馬車寄せに到着するとサビマナは一晩くらい家に帰りたいと主張したが、ネイベット侯爵から鋭い視線を受けた父親から『明日の朝の勉強を頑張ってほしい』と言われて渋々頷いた。
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その日の夜の食事で、サビマナは『楽しく食べることがおもてなしだ』とコリンヌに言った。
「今のボーラン様とお食事をしても、楽しいと思う貴族はいませんよ」
コリンヌにピシャリと返され、マナーレッスンがなくなることはなかった。
もちろん、コリンヌが首になるはずもない。
そして、父親との約束もなんのその。サビマナが早起きをすることは不可能なようだ。
〰️ 〰️ 〰️
それから約一ヶ月後の週末。
サビマナの怒鳴り声が勉強部屋として使われている客間に響いた。
「もっぉぉ!! いやっ!
こんなのわかんないわよっ!」
一ヶ月たってもサビマナの勉強は全く進んでいない。この怒鳴り声もすでに日常化している。
教師陣は宣言通り厳しく指導しているが、気持ちが図太いサビマナはあの手この手でさぼるし、暗記物など全く覚えないでいた。
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