52 / 57
52 オルクス公爵家の未来
しおりを挟む
それからというもの月に二回になったお茶会はキャリーナとメイロッテが交互に参加するようになる。
メイロッテに対してのルナセイラはきっちりと一線を引いており、城内を案内するもエスコートはせず隣に並び歩くだけだし、笑顔も然程見せることがなかった。王城王宮の者たちはメイロッテへの印象は『次期王妃陛下となるアリサの相談役になるべく勉強をしている者』という前向きで応援すべき対象者となっていった。それゆえ、メイロッテの質問には喜んで答えたし、時には騎士団の訓練にも参加できるようにまでなっていた。
サンビジュムもメイロッテの立場には気を使い、ルナセイラを含めたお茶の時間はサンビジュムの執務室脇の応接室で過ごしその部屋にはサンビジュムが信用する側近だけが残るようにした。そのおかげでその時間だけはルナセイラは満面の笑顔でメイロッテに接し、そういうきちんとした心配りとギャップによってメイロッテは心をゆるすようになっていく。
『親しい友人くらいにはなれたかな? ここで急いでは仕損じる。あくまでもズバニール君とメイロッテ嬢との婚約が解消されるまでは紳士でいなくては』
恋愛に鈍感で責任感が強いメイロッテはルナセイラを異性として見ることはなかった。
そしてアリサたちが入学した。
〰 〰 〰
アリサとケネシスはワイドン公爵家へ向かう馬車の中でケネシスは改めて婚約者としてアリサの手を取れた喜びを噛み締めていた。
『学園でクラスメートになれた時にはとても幸せだと感じていましたが、それは序章に過ぎませんでしたね。アリサと婚約できるだなんて。これほどの感動が待っているとは本当に神にでも悪魔にでも感謝したいくらいです』
照れてそっぽを向いてしまっているアリサの横顔をケネシスは幸せそうに顔を緩めて見つめている。テッドがその様子を見たら驚愕の雄叫びを上げたに違いない。
『それもこれもエイミー義姉上さんがワイドン公爵家を後継してくれるおかげです。そしてオルクス公爵様が女性後継者を認める法案を通してくれたおかげですね。
アリサはずっとオルクス公爵家の行く末を気にしていて、王妃にならなかったらオルクス公爵家の秘書官になると宣言していましたからね。ズバニール殿を支えるつもりだったということでしょう。そうなったとしても、ズバニール殿がアリサの助言を素直に耳に入れるとは思えません。
オルクス公爵はよく女性当主法案をこれほど迅速に通したものです』
ケネシスは義父となるカイザー・オルクス公爵がアリサとメイロッテが婚約者と仲良くする姿に渋った顔を思い出し苦笑いをした。
『義父に焼きもちをやいてもらえるくらいにはアリサと仲良くなれたということですかね』
それに気が付いたアリサが首を傾げる。
「大したことではないですよ。僕には偉大な義父親が二人になるのだと感慨に浸っていたのです」
「そうね。わたくしたちもお父様に負けないよう領地を盛り立てましょうね」
「もちろんです」
アリサとケネシスが決心を固めていた頃、カイザー・オルクス公爵は自室で一人ワインを飲んでいた。
「旦那様。ほどほどになさってくださいませ。まだ夕餉にはお早いお時間です」
「今日のところは許せ」
カイザーはあおるようにグラスを飲み干した。初老の執事長がため息とともにグラスにワインを注ぐ。
「あれはどうしている?」
「奥様でしたらズバニール坊ちゃまのお側で励ましておいでです。お二人共かなり憔悴しております」
「ワシらが甘やかした結果だというのにまだ尚甘やかすか……」
「母親でございますればしかたありません。アリサお嬢様は幼き頃よりしっかりとなさっておいででしたので、尚更ズバニール坊ちゃまに傾倒なさることになってしまわれたのでしょう」
カイザーはアリサとズバニールの思い出を蘇らせた。
「…………そうか。確かに親としては頼られることは嬉しくないはずはないな」
「はい、そのようです。奥様はズバニール坊ちゃまとともに男爵領へ行かれるご決意をなさったご様子です」
「だろうな。ワシもズバニールが学園を卒業するまでには男爵領へ移るつもりだ」
「では数カ月後には?」
「イヤ、二年後だ。ズバニールは東部学園の一学年に編入させる。たった半年ほどでは東部での人脈作りなどできまい。
それまではこれまで同様ワシがここから指示を出し管理人に任せる」
「それは大変に素晴らしいご判断かと思います」
「お前にはアリサとケネシスを頼んだぞ」
「ホッホッホ。わたくしもそれほど長くは務められませぬゆえ、そろそろ孫を本格的に指導してまいります。二年後には使えるようになりましょう」
執事長の息子はオルクス公爵家の持つ飛び地の管理人をしていて孫はオルクス公爵邸の執事の一人である。執事長は領地を持たない男爵位を賜っているため息子も孫も王都学園を卒業している。
カイザーの自室の壁に立つ執事がひっそりと肩を落としたのは誰にも気が付かれななかった。
メイロッテに対してのルナセイラはきっちりと一線を引いており、城内を案内するもエスコートはせず隣に並び歩くだけだし、笑顔も然程見せることがなかった。王城王宮の者たちはメイロッテへの印象は『次期王妃陛下となるアリサの相談役になるべく勉強をしている者』という前向きで応援すべき対象者となっていった。それゆえ、メイロッテの質問には喜んで答えたし、時には騎士団の訓練にも参加できるようにまでなっていた。
サンビジュムもメイロッテの立場には気を使い、ルナセイラを含めたお茶の時間はサンビジュムの執務室脇の応接室で過ごしその部屋にはサンビジュムが信用する側近だけが残るようにした。そのおかげでその時間だけはルナセイラは満面の笑顔でメイロッテに接し、そういうきちんとした心配りとギャップによってメイロッテは心をゆるすようになっていく。
『親しい友人くらいにはなれたかな? ここで急いでは仕損じる。あくまでもズバニール君とメイロッテ嬢との婚約が解消されるまでは紳士でいなくては』
恋愛に鈍感で責任感が強いメイロッテはルナセイラを異性として見ることはなかった。
そしてアリサたちが入学した。
〰 〰 〰
アリサとケネシスはワイドン公爵家へ向かう馬車の中でケネシスは改めて婚約者としてアリサの手を取れた喜びを噛み締めていた。
『学園でクラスメートになれた時にはとても幸せだと感じていましたが、それは序章に過ぎませんでしたね。アリサと婚約できるだなんて。これほどの感動が待っているとは本当に神にでも悪魔にでも感謝したいくらいです』
照れてそっぽを向いてしまっているアリサの横顔をケネシスは幸せそうに顔を緩めて見つめている。テッドがその様子を見たら驚愕の雄叫びを上げたに違いない。
『それもこれもエイミー義姉上さんがワイドン公爵家を後継してくれるおかげです。そしてオルクス公爵様が女性後継者を認める法案を通してくれたおかげですね。
アリサはずっとオルクス公爵家の行く末を気にしていて、王妃にならなかったらオルクス公爵家の秘書官になると宣言していましたからね。ズバニール殿を支えるつもりだったということでしょう。そうなったとしても、ズバニール殿がアリサの助言を素直に耳に入れるとは思えません。
オルクス公爵はよく女性当主法案をこれほど迅速に通したものです』
ケネシスは義父となるカイザー・オルクス公爵がアリサとメイロッテが婚約者と仲良くする姿に渋った顔を思い出し苦笑いをした。
『義父に焼きもちをやいてもらえるくらいにはアリサと仲良くなれたということですかね』
それに気が付いたアリサが首を傾げる。
「大したことではないですよ。僕には偉大な義父親が二人になるのだと感慨に浸っていたのです」
「そうね。わたくしたちもお父様に負けないよう領地を盛り立てましょうね」
「もちろんです」
アリサとケネシスが決心を固めていた頃、カイザー・オルクス公爵は自室で一人ワインを飲んでいた。
「旦那様。ほどほどになさってくださいませ。まだ夕餉にはお早いお時間です」
「今日のところは許せ」
カイザーはあおるようにグラスを飲み干した。初老の執事長がため息とともにグラスにワインを注ぐ。
「あれはどうしている?」
「奥様でしたらズバニール坊ちゃまのお側で励ましておいでです。お二人共かなり憔悴しております」
「ワシらが甘やかした結果だというのにまだ尚甘やかすか……」
「母親でございますればしかたありません。アリサお嬢様は幼き頃よりしっかりとなさっておいででしたので、尚更ズバニール坊ちゃまに傾倒なさることになってしまわれたのでしょう」
カイザーはアリサとズバニールの思い出を蘇らせた。
「…………そうか。確かに親としては頼られることは嬉しくないはずはないな」
「はい、そのようです。奥様はズバニール坊ちゃまとともに男爵領へ行かれるご決意をなさったご様子です」
「だろうな。ワシもズバニールが学園を卒業するまでには男爵領へ移るつもりだ」
「では数カ月後には?」
「イヤ、二年後だ。ズバニールは東部学園の一学年に編入させる。たった半年ほどでは東部での人脈作りなどできまい。
それまではこれまで同様ワシがここから指示を出し管理人に任せる」
「それは大変に素晴らしいご判断かと思います」
「お前にはアリサとケネシスを頼んだぞ」
「ホッホッホ。わたくしもそれほど長くは務められませぬゆえ、そろそろ孫を本格的に指導してまいります。二年後には使えるようになりましょう」
執事長の息子はオルクス公爵家の持つ飛び地の管理人をしていて孫はオルクス公爵邸の執事の一人である。執事長は領地を持たない男爵位を賜っているため息子も孫も王都学園を卒業している。
カイザーの自室の壁に立つ執事がひっそりと肩を落としたのは誰にも気が付かれななかった。
36
あなたにおすすめの小説
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
婚約者はこの世界のヒロインで、どうやら僕は悪役で追放される運命らしい
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
僕の前世は日本人で25歳の営業マン。社畜のように働き、過労死。目が覚めれば妹が大好きだった少女漫画のヒロインを苦しめる悪役令息アドルフ・ヴァレンシュタインとして転生していた。しかも彼はヒロインの婚約者で、最終的にメインヒーローによって国を追放されてしまう運命。そこで僕は運命を回避する為に近い将来彼女に婚約解消を告げ、ヒロインとヒーローの仲を取り持つことに決めた――。
※他サイトでも投稿中
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
【完結】婚約破棄はいいですよ?ただ…貴方達に言いたいことがある方々がおられるみたいなので、それをしっかり聞いて下さいね?
水江 蓮
ファンタジー
「ここまでの悪事を働いたアリア・ウィンター公爵令嬢との婚約を破棄し、国外追放とする!!」
ここは裁判所。
今日は沢山の傍聴人が来てくださってます。
さて、罪状について私は全く関係しておりませんが折角なのでしっかり話し合いしましょう?
私はここに裁かれる為に来た訳ではないのです。
本当に裁かれるべき人達?
試してお待ちください…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる