51 / 57
51 ズバニールの所業
しおりを挟む
敵意とも取れるアリサの視線にサンビジュムとルナセイラは苦笑いをする。
「メイロッテ嬢を傷つける話ではないから安心してほしい」
アリサは疑いの気持ちを持ちながらも首肯する。
「この新学年にメイロッテ嬢が入学してきた。西部学園ではなく王都学園に入学したのはオルクス公爵子息ズバニール君と婚約しているからだろうね」
「そうですわ」
「大変に優秀で快活で面倒見のいい彼女はすでにとても人気があるよ」
アリサは思わず破顔する。
『さすがお義姉様ですわ! わたくしも早く学園に通いお義姉様と頻繁にお会いしたいですわ』
「でも一方で悪い噂もあるのは知っているかい?」
アリサはサッと扇を広げて顔を隠した。それほど苦々しい気持ちを隠せそうにもなかったのだ。
「そうか。知っているようだね。ズバニール君がいろいろな茶会で婚約者であるメイロッテ嬢の悪口を言い回っている」
それは本当に幼稚なものであった。「男を立てない」とか「女のくせに剣を振る」とか「女があんなに学ぶことに意味があるのか」とか「俺と結婚したら黙らせてやるのだ」などである。幼稚な悪口ではあるが女性の地位が低いこの国ではそれに賛同しズバニールをおだて上げるような雰囲気になることが常習となっていた。
アリサは何度もズバニールに苦言を呈したがそれさえも「女のくせにうるさい!」と言って聞き入れることはなかった。メイロッテもズバニールの態度を変えることは諦めており、それでもズバニールを支えていくために努力は惜しまず勉学も剣術も頑張っている。
ここまでルナセイラに任せていたサンビジュムであったがフウと息を吐いて真剣な眼差しを向ける。
「ズバニール君の言動は彼だけの問題ではないことはわかっている。これは常々母上も問題視しているし、女性の活躍できるところが少ないことも起因しているのは確かだ。そういう点でもキャリーナの働きに母上が喜んでいるんだ」
アリサは自分自身にも降りかかる問題なので真面目に耳を傾けた。
「女性の立場の問題はさておき、私はメイロッテ嬢の心傷を和らげる者でありたいと思っているのだ」
アリサはあからさまな疑いの目をルナセイラに送る。
「あはは。そんなに怒らないでほしいな。私としてはメイロッテ嬢の幸せを見届けたいだけなんだ。そのために愚痴聞き役でも良い噂の喧伝役でも何でもしよう」
「第二王子殿下に擁護されることは悪評にしかなりませんわ」
「そうだよね。だから君の付添人という形でここへ来てもらい愚痴聞き役になりたいと思っているのだよ」
「お義姉様は愚痴などおっしゃいません。ズバニールへの愚痴を零してくださったら、わたくしとしてもどれほどお心の傷を癒やしてさしあげたいか……。お義姉様が我慢をなさっていると思うだけで心を痛めておりますのに……」
「そうか……。アリサ嬢にさえ言わないのか……。それなら気晴らしに来てほしい。王妃陛下に庭園の散策許可ももらえるし、騎士団の鍛錬見学へ行ってもいい」
「まあ! それはお義姉様も喜ばれそうですわ」
アリサの表情が悲しんだり喜んだりと変化に飛んでいる。脇で聞き役のサンビジュムがホッと肩を撫で下ろし優しく微笑んでいる。
『アリサ嬢と知り合って一年ほどになるが、ここまで感情を顕にするアリサ嬢は初めてだ。表情があると年下らしく見えるな。自分のことではなくメイロッテ嬢のことになるとタガが外れるのかな?』
「一度同伴してもらって、メイロッテ嬢が忌むようなら次回は誘わないと約束するよ」
アリサが表情を引き締めた。
「わかりましたわ。ですが、一度目でさえもお義姉様の意志次第です。わたくしはお義姉様に一度であっても無理強いをいたしたくはございませんの」
真顔で王子に対してそこまで言うアリサにルナセイラは目を丸くした。
「はっはっは! こちらがここでの本来のアリサ嬢だよ」
「なるほど。兄上が良き相談相手だとおっしゃる意味の片鱗が見えました」
「なぜかお褒めいただいているように感じませんわ」
「王太子の相談役だよ。褒め言葉でしょう?」
サンビジュムが楽しそうにからかう。
「ただの壁役です」
澄まし顔のアリサと楽しそうに笑うサンビジュムを交互に見て驚きを隠せないルナセイラであった。
「メイロッテ嬢を傷つける話ではないから安心してほしい」
アリサは疑いの気持ちを持ちながらも首肯する。
「この新学年にメイロッテ嬢が入学してきた。西部学園ではなく王都学園に入学したのはオルクス公爵子息ズバニール君と婚約しているからだろうね」
「そうですわ」
「大変に優秀で快活で面倒見のいい彼女はすでにとても人気があるよ」
アリサは思わず破顔する。
『さすがお義姉様ですわ! わたくしも早く学園に通いお義姉様と頻繁にお会いしたいですわ』
「でも一方で悪い噂もあるのは知っているかい?」
アリサはサッと扇を広げて顔を隠した。それほど苦々しい気持ちを隠せそうにもなかったのだ。
「そうか。知っているようだね。ズバニール君がいろいろな茶会で婚約者であるメイロッテ嬢の悪口を言い回っている」
それは本当に幼稚なものであった。「男を立てない」とか「女のくせに剣を振る」とか「女があんなに学ぶことに意味があるのか」とか「俺と結婚したら黙らせてやるのだ」などである。幼稚な悪口ではあるが女性の地位が低いこの国ではそれに賛同しズバニールをおだて上げるような雰囲気になることが常習となっていた。
アリサは何度もズバニールに苦言を呈したがそれさえも「女のくせにうるさい!」と言って聞き入れることはなかった。メイロッテもズバニールの態度を変えることは諦めており、それでもズバニールを支えていくために努力は惜しまず勉学も剣術も頑張っている。
ここまでルナセイラに任せていたサンビジュムであったがフウと息を吐いて真剣な眼差しを向ける。
「ズバニール君の言動は彼だけの問題ではないことはわかっている。これは常々母上も問題視しているし、女性の活躍できるところが少ないことも起因しているのは確かだ。そういう点でもキャリーナの働きに母上が喜んでいるんだ」
アリサは自分自身にも降りかかる問題なので真面目に耳を傾けた。
「女性の立場の問題はさておき、私はメイロッテ嬢の心傷を和らげる者でありたいと思っているのだ」
アリサはあからさまな疑いの目をルナセイラに送る。
「あはは。そんなに怒らないでほしいな。私としてはメイロッテ嬢の幸せを見届けたいだけなんだ。そのために愚痴聞き役でも良い噂の喧伝役でも何でもしよう」
「第二王子殿下に擁護されることは悪評にしかなりませんわ」
「そうだよね。だから君の付添人という形でここへ来てもらい愚痴聞き役になりたいと思っているのだよ」
「お義姉様は愚痴などおっしゃいません。ズバニールへの愚痴を零してくださったら、わたくしとしてもどれほどお心の傷を癒やしてさしあげたいか……。お義姉様が我慢をなさっていると思うだけで心を痛めておりますのに……」
「そうか……。アリサ嬢にさえ言わないのか……。それなら気晴らしに来てほしい。王妃陛下に庭園の散策許可ももらえるし、騎士団の鍛錬見学へ行ってもいい」
「まあ! それはお義姉様も喜ばれそうですわ」
アリサの表情が悲しんだり喜んだりと変化に飛んでいる。脇で聞き役のサンビジュムがホッと肩を撫で下ろし優しく微笑んでいる。
『アリサ嬢と知り合って一年ほどになるが、ここまで感情を顕にするアリサ嬢は初めてだ。表情があると年下らしく見えるな。自分のことではなくメイロッテ嬢のことになるとタガが外れるのかな?』
「一度同伴してもらって、メイロッテ嬢が忌むようなら次回は誘わないと約束するよ」
アリサが表情を引き締めた。
「わかりましたわ。ですが、一度目でさえもお義姉様の意志次第です。わたくしはお義姉様に一度であっても無理強いをいたしたくはございませんの」
真顔で王子に対してそこまで言うアリサにルナセイラは目を丸くした。
「はっはっは! こちらがここでの本来のアリサ嬢だよ」
「なるほど。兄上が良き相談相手だとおっしゃる意味の片鱗が見えました」
「なぜかお褒めいただいているように感じませんわ」
「王太子の相談役だよ。褒め言葉でしょう?」
サンビジュムが楽しそうにからかう。
「ただの壁役です」
澄まし顔のアリサと楽しそうに笑うサンビジュムを交互に見て驚きを隠せないルナセイラであった。
29
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
どうして別れるのかと聞かれても。お気の毒な旦那さま、まさかとは思いますが、あなたのようなクズが女性に愛されると信じていらっしゃるのですか?
石河 翠
恋愛
主人公のモニカは、既婚者にばかり声をかけるはしたない女性として有名だ。愛人稼業をしているだとか、天然の毒婦だとか、聞こえてくるのは下品な噂ばかり。社交界での評判も地に落ちている。
ある日モニカは、溺愛のあまり茶会や夜会に妻を一切参加させないことで有名な愛妻家の男性に声をかける。おしどり夫婦の愛の巣に押しかけたモニカは、そこで虐げられている女性を発見する。
彼女が愛妻家として評判の男性の奥方だと気がついたモニカは、彼女を毎日お茶に誘うようになり……。
八方塞がりな状況で抵抗する力を失っていた孤独なヒロインと、彼女に手を差し伸べ広い世界に連れ出したしたたかな年下ヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID24694748)をお借りしています。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる