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第8話 君の未来

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「早速だが、エミリアさんに頼みたいことがあるんだが」

 陛下が一呼吸置いて言った。

「頼みですか?」
「ああ、君にしか頼めないことだ」
「分かりました。引受けます」

 その言葉に陛下は一瞬驚いた表情を浮かべる。

「まだ何も言っていないのにいいのか?」
「私にしか頼めないってことは、治して欲しい患者さんがいるのでしょう」
「さすが、ブラット・メディの孫娘だな。一緒に来て欲しい」
「承知しました」

 陛下とサルヴァと共に、応接間を出る。
そして、陛下の後に続いて王宮の中を歩く。

「ここだ」

 綺麗に装飾が施された扉の前に到着した。
中に入ると、天蓋がついたベッドに静かに眠る少女の姿があった。

「彼女は?」
「リタ・マルディン。私の娘だ」

 陛下の娘ということは、この国の王女であるということだ。

「ご病気ですか?」
「これを見てくれ」

 そういうと陛下は、リタの左手の甲を見せた。

「これは……」

 王女の手の甲には赤黒い魔法陣が浮かんでいる。

「君には、これが何か分かるのだな」
「はい、悪魔の筋書き。高位の呪いです」
「さすがだな」

 悪魔の筋書きは呪いの中でも高位のものだ。
この時代、滅多にお目にかかる事はない。

「これを解呪する事はできるか?」
「ちょっと、診てもよろしいでしょうか?」
「もちろんだとも」

 エミリアは、王女に触れる。

「冷たい……」

 ただ、脈もあるし呼吸もしている。
死んでいるというわけでは無いらしい。

「呪いの術者とは別の魔力が干渉しているのを感じますが、誰が?」
「そんなことまで分かってしまうのだな。宮廷魔術師の1人に特殊な固有魔法を使えるものがいてな」
「なるほど。呪いの進行を遅らせているというわけですね」

 悪魔の筋書きは、術者が指定した時期になるとその効果を発揮し、呪いの対象を死に陥れるという恐ろしいものだ。
この時代にまだこの種の呪いが残っているとは驚きだ。

 呪いというのは、術者に反動がくるものだ。
おそらく、悪魔の筋書きの反動は術者の死だろう。

 人を呪わば穴二つとはよく言ったものだ。

「リタ王女は呪い以外は問題ないようですね」

 診察した結果、呪いの影響で生命力が減少しているが、それ以外は特に問題ない。

「どうだろうか? 解呪可能か?」
「正直、断言はできません。ただ、やってみなければ分かりません」
「分かった。試してくれて構わない」
「承知しました」

 エミリアは王女様の左手を取った。

「治すよ。あなたの未来」

 その瞬間、アーサー・マルディン王は確信した。
今、目の前にいる医者は間違いなく名医の血を引く名医だと。

『治すよ。君の未来』

 これは伝説に消えた名医、ブラット・メディの口癖だった。
 
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