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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち

70.ウィガロの民とハウザーの街の人達

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「あの、ありがとうございました」

 ちょっとだけ、怖い雰囲気を醸し出して部屋まで進むお兄さん。
 それでも、ちゃんとお礼だけは言っておかなきゃ。

「ああ、君が気にする事はないよ。事実と、思った事を言っただけだからね。この見た目ですぐ判るウィガロの民が、各家庭にブラウニーやレプラコンなどの家事妖精を住まわせ共存している事も。
 彼らが見えない人が殆どで会話したり聞き耳を立てることも出来ないのも、彼らの為にミルクを用意したり、レプラコンがサボったり羽目をはずしてクルラコンに変わってしまわないようにお酒を隠して暮らす事も。
 妖精がいるということは元素精霊が常駐していて、かと言って精霊と交信できる精霊使いは居ない事も。
 そんな生活に目をつけられても、精霊使いになって巫女をサポートしたりできる訳でもない事も」

 な、何か、実感のこもった呟きですね?

 でも、思ったのは、ハウザー砦街での私の生活とほぼ変わらない事と、周りのみんなの生活にも準じた類似点がある事。

 ブラウニー達と仲良く暮らし、彼らの為に、ゲーム感覚でミルクをどこかに隠すように用意したり、ミルクを受け取る所を見られるのが嫌な彼らの希望に応えて、彼らのミルクを置いた場所には館の人の誰もが近づかないよう気を遣う事。
 妖精や精霊を使役したりは出来ないけれど、声は聴こえなくても見える人はそこそこいて、畑に恵みを分けてもらったり、仲良くしている内に、なにがしかちょこっとだけ加護をもらってたり、人によっては守護されていたり。

 妖精や精霊が身近な存在であることは、ハウザー砦街の人達を見ていればわかる。
 おかげで、彼ら妖精や精霊達がよく見えてなかった最初の頃も、素直に受け入れることが出来たのだから。
 また、彼らに加護をもらっているのは、誰でもそんなに珍しくない事だと思っていたけれど、ノドルでもそんなに変わらなかったけれど、マガナ以降の町では、彼らに目を合わせられる人はそんなに居なかった事。
 魔術を使う人達でも、ハウザーの人達ほど精霊に寄り添っていない事を再確認したのも。

 私は、魔法が息づくこの世界では、ハウザーの人達のような、魔法という不思議が隣人な生活が、ここでは当たり前だと信じていたのだ。

 ハウザーの人達と、国民の多くとの違いに戸惑ったけれど、その事を識れただけでも、この旅は有意義だったと思う。

 そしてこのあと、なぜカインハウザー様が、私が異様に精霊に好かれる事を隠せと言ったのか、なぜ、身の周りの精霊力の強さをごまかせるようになるまで、ご自身から離れないようにと仰っていたのかも、よく理解できる事になる──


 * * * * * * *


 部屋に戻った私達三人の様子に、あまり気持ちの良いことでない出来事に遭ったと察したお父様お母様は、ルーチェさんに寄り添って、肩を抱きしめる。

「カリク。何が?」
 不安そうに訊ねるお父様。

「俺が行っても、ああは助けられなかっただろう、済まない、シオ……フィオリーナを助けてくれてありがとう」
「いや。あの神官戦士は、ルーチェにも目をつけていたようだ。あの場では、あれがベストだろう。民族的に普通のことで、だからといって彼らの思惑に従えないことを理解してもらわねばならない。妖精や精霊が身近だからといって、それを武器に行使する事が出来る訳ではないし、例え出来ても、協力する気はない」

 シーグの感謝と謝罪に、お兄さんは自然な流れだったから気にするなと言ってくれる。
 姿を消していたサヴィアンヌも、部屋に戻ると虹色の蝶の翅を持った小妖精の姿を見せ、お兄さんを労う。

《今のこの国でハ、ああいう場ではワタシが助けるのは中々難しいカラ助かったワ。イザとなったラ、山荘の外で動物たちを暴れさせるとか何か事件を起こして、気を逸らせようかと思ってたノヨ。でもそれって一時的じゃナイ?》
 なんか、よく聞くと後半が怖いんだけど? サヴィアンヌ。
 まさかそんな事を考えていたなんて。
 確かに気を逸らして有耶無耶には出来るだろうけど、一時凌ぎで根本的には解決してないし。

「フィオリーナさんも、ウィガロの民と家族だと誤魔化せる容姿で良かったよ。まだ言い訳が通用したからね。
 もっとも、あれで諦めたかは怪しいが。なにせ、この国には巫女がいないという、極限の状態だ。また、あんな事が起こらないとも限らない」

 その、あんな事が何なのか訊くに訊けず、消灯してみんな眠りについてしまった。彼らの過去に、何があったんだろう……



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