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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
71.よき隣人【ルビ振りミス修正あり】
しおりを挟む前日早くに寝たせいか、腕時計で5時──現地時間で4時に目が覚めてしまった。
朝食まで一時間はある。
寝直すもの中途半端な時間だし、8時間近く寝たなら十分だろう。ただ、山荘の周りを散策するとか、ベランダに出るのは憚られた。
私を見つけた妖精や精霊達が活発になるからだ。
昨日の神官戦士の女性に目をつけられたかもしれない。いや、確実に、纏わり付く精霊力は感じ取られただろうから、精霊術士として利用できる可能性とその確認をするかどうかを、上に報告されるかもしれない。
やはり、多少でも効果があるなら、始めからあのバレッタさんたちにもらったケープを着て、外へ漏れる魔力を抑えて、精霊や妖精の気を引くのも少なくするべきだったのだろう。
サヴィアンヌに預けたケープを出してもらい、夜明けの冴えた空気に冷える肩を覆う。
《いいんじゃない? いつもより魔力抑えられてるシ、元素精霊のヒッツキムシもちょっと減ってるワヨ》
「そう? やっぱり、神官が護衛につくって聞いた時に、これを羽織るべきだったね」
今日の昼には、次の巡礼地豊穣神殿に着く。
その時、あの神官戦士の女性は、私を、ルーチェさん家族を、妖精や精霊を視る事ができ、妖精とともに暮らすウィガロの民であると、私やルーチェさんは多くの精霊に守られており、声を聴ける人間だと、精霊術を扱える要素を持っているかもしれないと、上位神官に報告するだろうか。
初めてこの国に立ち、ハウザー砦街まで歩いた時は精霊なんて見えなくて、フィリシアがずっと守護してくれてたなんて知らなかった。
たくさんの、声もなき元素精霊が層をなして私の周りをうろついてるなんて、気がつかなかった。
だから、アリアンロッドを生み出し、精霊を常に見れるようになった後も、視界にうようよしている元素精霊が見えると、景色が霞んで邪魔なので、意識して見ないようにしていた。
精霊がいるのが当たり前の景色に慣れることがまだ出来なかったから。
だから、私にすり寄ってきたり頭や方の上で遊ぶ精霊たちに気がつかなかったし、ルーチェさんを守っている精霊たちにも気がつかなかった。
名付けの契約の精霊──アリアンロッドとフィリシア、守護してくれてる頼りになる妖精のサヴィアンヌしか見ていなかった。
あの神官戦士は「妹御はどちらも精霊に愛される方なのか」と訊いた。つまりは、カリクさんの妹だと思われた私達ふたりに、精霊はついているという事。精霊を視る力を閉じていたから、自分も含め周りの人を守護している精霊まで見逃していたのだ。
もしかしたら、お兄さんにだってついているのかもしれない。
そう思って振り返ると、愛し子と思われるカインハウザー様ほどではないにせよ、お兄さんにも元素精霊の積み木は出来ていた。
ご両親にも、うっすらと精霊の層がある。小さな元素精霊達なので、周りの色や景色が変わるほどではない。
あれなら、カリクさんとルーチェさんは、魔力が読める魔術士には、元々ある程度は感づかれているのかもしれない。
視える人になら、お父様やお母様にも小さな元素精霊がついているのもわかっているのだろう。
《あれくらいナラ、愛し子ってほどでもないシ、まあ、魔術が使える人ナラついてることもあるワヨ。でも、ソウネ、ルーチェは、セルティックやシオリほどではないにしても、結構ついてるワ。しかも一種類じゃなくテ、四大元素ト、幾種かネ。あれが利用できるならッテ思うやつハ、少なからずいるでしょうネ》
「サヴィアンヌは他人事のように言うのね」
《他人事デショ。シオリがお世話になってるカラ、邪険にしないダケ。ワタシが守護してるのはシオリだもの。まあ、セルティックも気に入ってるカラ、ついでに面倒見てあげてもいいワネ》
そう言えばそうだった。
私にはあれこれしてくれるサヴィアンヌだけど、私の魔力や霊気を含めた魂の匂いが好みで、神殿から出られるきっかけになったから守護してみようという気になっているだけだと、前から言っている。
フィリシアも、私の魂に触れて、どうしょうもなく惹かれると言って、守護してくれている。
でも、それは、私を取り巻くまわりには、関係のないこと。
私だから守護するのだという。
私が望むから、ルーチェさんたちに通訳しているけれど、それはフィリシアが彼女達によかれと思っての事ではない。
忘れてはいけない。彼らは、義理人情や人の道徳心などは持ち合わせていない。人の常識やモラル、法もルールも関係ない。
私の魂の匂いや女神の加護とかに惹かれるから、風の精霊としてできる事を私に尽してくれる。精霊にとっては本能のようなもの。
妖精達も、精霊よりは生き物に近い感情を持ち、気まぐれで自分達の価値観で動くけれど、気に入った人間には肩入れしたり、知恵や恵みを分けてくれる。でも、気紛れだから、気が乗らなければ、知らん顔するときもある。
仲良く出来れば素晴らしい隣人ではあるけれど、人間のようなふれあいや助け合いは、期待してはだめなのだ。
山の向こうの空が白んでくると、シーグ、ルーチェさん、お母様、カリクさん、お父様の順でベッドから出てくる。
シーグは、人の姿でいても狼犬。熟睡する時間は短く、私とサヴィアンヌのやり取りも聴いていたらしい。
「カインハウザーも言っていただろう? 妖精は、気のいい隣人だが、山の天気ような気まぐれさを持っていると。いつでも、人のように手助けしてくれるとは思わない方がいい。精霊も、愛し子が頼まない限り、基本、守護するのも加護を与えるのも、気に入った人間だけだ。自分のまわりの事も、同じように助けてくれると期待するな。
俺は、番いだから、いつでもシオリが一番だからシオリを守るし、周りをも救う事がシオリの心を守る事になるなら、力の及ぶ限りは手助けはする。でも、シオリの次だ。シオリが泣いて助けてやってくれと言っても、他のやつを助けている間にシオリが危険に遇うくらいなら、他のやつは見捨てる。それはわかってくれ」
そう言って、頭を撫でてくれた。撫で方ひとつでも、カインハウザー様とは全然違うんだな⋯⋯
軽めの朝食のあと、巡礼者を詰め込んだ臨時便乗合馬車は、朝日の中、豊穣神殿に向けて出発した。
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