異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

81.光の槍と縫い留められた瘴気

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 田んぼで一度足を止め、私を降ろそうとするオラフさん。
「待ってください。……あの、一度花畑の、様子を見に行ってもいいですか?」
「危ないから、止めておきなさい」

 オラフさんは、あの瘴気溜まりを、まぐれというか偶然というか、奇跡的に封じたのだと知らないのかな。

「見るだけですよ? フィオちゃん」

 私の事を、新しい巫女候補だと思っているロイスさんは、私の要望を聞いてくれた。
 街の人目があるところでは近所のお兄さんのような口ぶりで話してくれるのに、カインハウザー様や衛士隊の仲間しか居ない時は、丁寧な言葉になる。

 何度か、彼に祝福の風を吹かせてしまったので、本当に巫女候補なのだと、信じているのだろう。

「お、おいおい、いいのか?」
「俺が責任を持つ」
「何かあったら、責任を負い切れるのか?」

 ロイスさんは答えなかったけど、馬を出したので仕方なく、眉と肩をすくめて、オラフさんも後に続く。

 小川を超えて、花畑へ行くと、キーシンさんとナイゲルさんが立っていた。

「あれぇ? フィオちゃん? どーしたの? ここは危ないですよ~」

 いつも、ロイスさんよりも軽いノリで話しかけてくれるナイゲルさん。
 街の人はいないけれど、いつも通りだった。

「こっ、こら、ナイゲル。小さな領主夫人ファーストレディに向かってなんて口の利き方だ」
 キーシンさんに後頭部をはたかれる。

「いえ、あの、違いますから」

 身長もあり骨格もいい、白人種の大人の男の人に比べると遥かに小さい、東洋人種の私は、彼らから見ると、小柄で童顔もあってか、まだほんの10歳児かそれ以下に見えるらしい。
 話せばさすがに、幼女ではないと判ってもらえるし、実年齢も、近く15歳の成人を迎えると知ると、今度は、別の誤解が生まれる。

 精霊を多く惹きつけ、それなりに魔力もあり、カインハウザー様のお屋敷でお世話になっている事もあってか、私の事を、街中の人は領主であるカインハウザー様の嫁候補だと思い、衛士隊の人達は、精霊を介して強い魔道を行って、瘴気を封じ込められる力があると信じている事から、巫女候補だと思っているらしい。

 どちらもあり得ないよね。

 精霊の加護があれば巫女になれるなら、精霊に好かれる人の多いハウザー砦街の人達はみんな女神の巫部かんなぎになれそうなのに、そうじゃない。
 いくらそれっぽくても、私は、いずれかの神様に祝福を受けてると実感した事もないし、もちろん、女神アルファ様と交信した事もない。

 とにかく、ここへ来た目的は、花畑の現状を見る事。

 そして、可能なら……

「アリアン?」

 私の背中にくっついてまわりを見ていたアリアンロッドが、急に震えだした。

「瘴気に反応してるのかもしれない」
 ロイスさんも肩が触れるほど近くに立って、アリアンロッドと瘴気溜まりを見比べている。

 アリアンはまだ、言葉を話さない。声を聴いたこともない。けど、今、彼女(?)は、震えて悲鳴を堪えているように見えた。

「フィオリーナ様、やはりこちらへ……」
 キーシンさんに肩をおされる。

 ピンと来なかったけど、フィオリーナ様って私の事なのね。
 『フィオ』ならシオリと響きが近いから反応できるけど、『フィオリーナ』に様付けだと、自分の事だとすぐには気づかない。

 そのせいで、反応が遅れてしまった。

 花畑に目をやると相変わらず、くらけがれのこごりがわだかまっていて、瘴気と混ざろうとしている。
 それを、私が精霊に頼んで放ったとされる、光と風、僅かに水の気を含む純粋な霊気の槍が、地に縫いつけて、その活動を抑えていた。
 明暗差もなくひたすら冥い瘴気が、闇落ちの獣から滴り落ちた穢れと妖精達のなげきの負の感情の凝りを呑み込もうとするのを、大きく膨らんで活動しようとするのを、光の霊気が清め、風と水の霊気が抑え、現状を維持している。

 でも、見た感じ、長く持たなそうにも見える。
 以前見たよりも、光の槍の長さが縮み、細くなって、弱っているように見えるのだ。

「その通りです。妖精達のなげきを糧に、瘴気は衰えることがない。辛うじて、成長するのを抑えているくらいで、少しづつその力も弱まっていってます。
 神殿や王都が手を打ってくれるまで、てばいいのですが……」

 言葉を濁すキーシンさん。ロイスさんも少し厳しい表情で、瘴気を見る。
 報告はあがっているはずなのに、未だ、なんの手も打ってくれない大神殿。
 彼らの目は、諦めと疑心と苛立ちを含んでいた。

 美弥子は、聖女の力に目覚めてはいないの? 
 さくらさんは、巫女として闇を祓えないの?


 ──シャラシャラン シャラシャラシャーン 

 銀を細い糸状にして編んだボールの中に真鍮の珠を入れて、シャラシャランと鳴る『ボラ・ミンピ(ドリーム・ボール)』と呼ばれる物──ガムランボールと言えば解るだろうか。インドネシア土産によく見られるあの綺麗な飾り玉。
 破邪の音色とも言われる、神へ捧げる神秘の音楽を再現したという音のなる飾り玉。
 その澄んだ響きが、辺りにややヒステリックに鳴り響き、アリアンロッドが頭を抱えて蹲るように身を折り、震えながら小さくなる。

「この音色……が、アリアンの声なの?」

 ロイスさんもキーシンさんも、もちろんナイゲルさんもオラフさんも、ここに居る人達は精霊の加護を持つ、視る人達で、アリアンロッドの声も聴こえている。
 彼らは、確信を持てないような表情で、互いを見合った。

≪あ、ああ、あ──っ!!≫



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