上 下
117 / 294
Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

80.レディの恥じらいと二人乗り

しおりを挟む


 すぐ出るつもりが、燻製腸詰めスモークソーセージを一緒に食べたいというカインハウザー様の要望で、リリティスさんと3人で食卓に着き、グレイスさん特製の粒マスタードで食べる事に。 

 

「ここ毎日、すっかり遅くなっちゃう」

 今日は、午後からはお休みをもらえたので、燻製スモーク腸詰めソーセージとナッツ入りハニースティックパンをカゴに詰め、街の南門へ向かう。

 もちろん、お爺ちゃんズは朝早くに畑へ行っているだろう。

 でも、私は覚えた! こないだのように、花畑の貼り付けの瘴気を見張る衛士隊の交代が、お昼と夕方に花畑へ行くのそれに便乗すればいいのだと。

 今日のお昼の当番は、東洋人のようなお肌色で、髪と眼の色が薄茶の三十路手前のオラフさん。
 風と水の加護持ちで、魔道防御は強いらしい。いつも大剣を佩き、大きな鎚を担いでいる、ちょっと見ガテン系の精悍なイケメンさん。
     
 もう1人はロイスさんで、二十歳超えたばかりの青年だけど、こう見えても実は小隊長さん。
 精霊や女神の信仰に篤く、四大精霊の加護持ち。
 槍斧ハルバードを手に、門を出ようとするところだった。
 淡い金髪に綺麗な薄い緑の眼で、いかにも白人さんで、地球ではモテそう。ここでは、金髪碧眼は珍しくなくて、アイドル系のハンサムなのに、まわりに埋没してしまう。

 そう。この街には、精霊を視れなくても、そこそこ精霊に守護されている人が多いのだ。
 あちらこちらに精霊が居て、魔術が普及している世界だから、普通のことだと思っていたけれど、実は他に比べて異常に加護持ちが多いのだとか。
 加護があるから、魔術の効果が高かったり魔道に強かったりするけれど、精霊が視えるとは限らないし、魔術が使えるとも限らない。
 私やカインハウザー様ほどではなくても、この街の人達はたいていが精霊に好かれていた。

「ロイスさん、私も一緒に行きます!」
「フィオちゃん? 今日も、セルティック様は一緒じゃないの?」
「ええ。リリティスさんと、各地の代表さん達との定例会議みたい」

「そうか。じゃ、一緒に行きましょうか」
 先に出てたオラフさんがロイスさんの槍斧ハルバードを受け取り、私はロイスさんの馬の後ろに乗せてもらう。

 カインハウザー様もベーリングさんも、私を前に横座りに乗せて、抱えるようにして行くけれど、ロイスさんは、後ろに跨がらせてくれるので、私はロイスさんの腰にしがみつく感じになる。
 実は、こちらの方が、気は楽である。
 前に抱えられると、色々と気恥ずかしい。

「ロイス、自力でしがみつかせて、大丈夫か?」

 オラフさん、無用のお心遣いです。

「なにも早駆けするわけじゃないし、一応気をつける。レディには、失礼のないようにしないと」
「なに言ってる? レディなら、前に座らせて、落ちないよう支えるべきじゃないか?」
「前で支えるという事は、距離感が近すぎて、恥じらって、却ってちゃんとおとなしく座っていられないレディもいるんだよ、オラフ
 後ろから支える行為が抱擁に近く感じて、意識しすぎる女性もいるんだ。顔も近いから俯くし、まわりをちゃんと見なくなる。見ないという事は、馬の動きに合わせたバランスを取れない事もある。
 ──後ろの方がいいんだよ」
「その通りです。後ろから抱えられるように乗せてもらうのは、居たたまれないです」

 私の同意に、同乗位置について、オラフさんがそれ以上指示してくる事はなかった。
 パカポコゆっくり歩き出す。けっこう揺れる。
 そんなにゴツくないロイスさんでも、私の腕はまわりきらなくて、後ろからしがみつき、前でしっかりとベルトを摑む。

「……恋人同士のお膝抱っこみたいだもん」

 私の呟きに、ちょっとだけ、ロイスさんが動揺したみたいだった。
 オラフさんは、聴こえてないかと思ったのに、笑い出した。

「なるほど、小さな若奥様レディには恥ずかしい事なんだな。それに、膝に抱っこみたいだと言うのなら、カインハウザー様以外の男には無理か」
「カッ、カインハウザー様も同じです!! どなたでも、近すぎはよくないです」

 も~ぉ。悔しい。子供扱いなんだから。

 田園地を横目に街道を通り、カインハウザー様の畑を越して、田んぼに着くまで、オラフさんは時々こちらを見て、楽しそうに微笑んでいた。




しおりを挟む
感想 112

あなたにおすすめの小説

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~

黒色の猫
ファンタジー
 両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。 冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。 最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。 それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった… そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。 小説家になろう様でも投稿しています。

家族はチート級、私は加護持ち末っ子です!

咲良
ファンタジー
前世の記憶を持っているこの国のお姫様、アクアマリン。 家族はチート級に強いのに… 私は魔力ゼロ!?  今年で五歳。能力鑑定の日が来た。期待もせずに鑑定用の水晶に触れて見ると、神の愛し子+神の加護!?  優しい優しい家族は褒めてくれて… 国民も喜んでくれて… なんだかんだで楽しい生活を過ごしてます! もふもふなお友達と溺愛チート家族の日常?物語

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

転生した愛し子は幸せを知る

ひつ
ファンタジー
 宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。  次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!    転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。  結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。  第13回ファンタジー大賞 176位  第14回ファンタジー大賞 76位  第15回ファンタジー大賞 70位 ありがとうございます(●´ω`●)

一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル
ファンタジー
表紙はゲートのコミカライズを担当している竿尾悟先生に描いて頂きました! あらすじはネットで出会えたステキなご提案をそのまま採用させていただいています! 『居酒屋で店員と揉めていたこの男____なんと神!? ひょんなことから異世界に家族ごと移り住むことに! なんでどうしてこうなった!? 一家の大黒柱のトモヒロさん、異世界で家族と仲間を守るために頑張ります!』

処理中です...