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2章:異存
銀華のお願い 3話
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鼓膜にまとわりつくような声だった。男の声だが、架瑠や紬、佑心の声とは違う。
激高したように顔を赤くさせ、ゴォォォ、と音を鳴らしながら銀華の周りに冷気が集まった。
「誰が凍るもんですか! なんなの、変なこと言わないで!」
「ぎ、銀華さん、落ち着いて……!」
紬がみんなを守るために囲っていた炎の結界が、銀華の冷気で弱くなってきた。それを狙ったかのように、再び氷の刃が襲いかかってくる。
勢いよく飛んできた氷の刃を、銀華が扇子を取り出して広げ、砕いていく。
手の動きが素早すぎて見えない。
「ッ!」
紬の足に、氷の刃が突き刺さる。そこから氷が広がり、彼の左足は凍りついてしまった。
「紬!」
咄嗟に出たのは、彼の名前だった。そのことにびっくりしつつ、架瑠は彼に近付いて「氷が……!」と手を伸ばす。
彼の手を払いのけ、自身が操る炎で足の氷を溶かした。
「架瑠、お前、加茂家で修行しているんだよな?」
「え、う、うん」
「なら、頼みがある。怖いとは思うが、あの血の湖を霊視してくれ。どこに結びついているかがわかれば、なんとかなる」
紬の言葉に、架瑠は一瞬ためらった。だが、氷の刃は今もなお襲いかかっていて、このままでは危険なことは明白だ。——それなら、と架瑠はうなずく。
架瑠に炎の結界をまとわせ、紬は「行け!」と叫ぶ。
炎の結界のおかげで足元の雪は蒸発していき、走りやすかった。血の色に染まった湖に手を突っ込むと、ぬちゃりとした感触と錆びた鉄の匂いが鼻腔を刺激する。その気持ち悪さに胃液が込み上げたが、なんとか耐えて血の湖を見つめた。
架瑠の瞳が淡く光り、なにかが視えてくる。ぼやけているが、男女——自分がよく知っているはずの――……そうだ、あの服は、両親が亡くなるときに着ていたものと唇を噛み締める。
顔はやはりわからない。もやがかかっているように見える。だが、口元だけはわかった。口が動いている。その言葉は――……
「ま、も、れ……?」
いったい、なにを? と思考を巡らせると、茉莉の「きゃぁ!」という悲鳴が聞こえた。紬が押されているようで、架瑠は湖に入れていないほうの手を握りしめた。
「さっきの言葉は、どういう意味だ……?」
架瑠は小さくつぶやき、湖と氷漬けにされている男性を交互に見る。
「――ぐ、ぅ……」
湖の中で、架瑠の手がなにかに刺された。その痛みに表情を歪め、深呼吸をして自身を落ち着かせた。そして、さらに霊視の力を強め、この状況を打開するものを探し――
「紬! あの大樹の下だ! 根元を狙って!」
「そこだな!」
血の湖の傍にある大樹。その根元を狙い、紬は炎を繰り出す。大樹の氷は圧倒間に溶け、その根元から誰かの骨が出てきた。茉莉はふらりと身体をふらつかせ、佑心に「おっと」と支えられた。気を失った彼女を抱き上げ、銀華に視線を向けた。
「大樹の下に、骨……!?」
「誰かがそこに埋めたんだろうね」
心当たりある? と佑心が尋ねたが、銀華は「あるわけないでしょ!」と叫ぶ。
激高したように顔を赤くさせ、ゴォォォ、と音を鳴らしながら銀華の周りに冷気が集まった。
「誰が凍るもんですか! なんなの、変なこと言わないで!」
「ぎ、銀華さん、落ち着いて……!」
紬がみんなを守るために囲っていた炎の結界が、銀華の冷気で弱くなってきた。それを狙ったかのように、再び氷の刃が襲いかかってくる。
勢いよく飛んできた氷の刃を、銀華が扇子を取り出して広げ、砕いていく。
手の動きが素早すぎて見えない。
「ッ!」
紬の足に、氷の刃が突き刺さる。そこから氷が広がり、彼の左足は凍りついてしまった。
「紬!」
咄嗟に出たのは、彼の名前だった。そのことにびっくりしつつ、架瑠は彼に近付いて「氷が……!」と手を伸ばす。
彼の手を払いのけ、自身が操る炎で足の氷を溶かした。
「架瑠、お前、加茂家で修行しているんだよな?」
「え、う、うん」
「なら、頼みがある。怖いとは思うが、あの血の湖を霊視してくれ。どこに結びついているかがわかれば、なんとかなる」
紬の言葉に、架瑠は一瞬ためらった。だが、氷の刃は今もなお襲いかかっていて、このままでは危険なことは明白だ。——それなら、と架瑠はうなずく。
架瑠に炎の結界をまとわせ、紬は「行け!」と叫ぶ。
炎の結界のおかげで足元の雪は蒸発していき、走りやすかった。血の色に染まった湖に手を突っ込むと、ぬちゃりとした感触と錆びた鉄の匂いが鼻腔を刺激する。その気持ち悪さに胃液が込み上げたが、なんとか耐えて血の湖を見つめた。
架瑠の瞳が淡く光り、なにかが視えてくる。ぼやけているが、男女——自分がよく知っているはずの――……そうだ、あの服は、両親が亡くなるときに着ていたものと唇を噛み締める。
顔はやはりわからない。もやがかかっているように見える。だが、口元だけはわかった。口が動いている。その言葉は――……
「ま、も、れ……?」
いったい、なにを? と思考を巡らせると、茉莉の「きゃぁ!」という悲鳴が聞こえた。紬が押されているようで、架瑠は湖に入れていないほうの手を握りしめた。
「さっきの言葉は、どういう意味だ……?」
架瑠は小さくつぶやき、湖と氷漬けにされている男性を交互に見る。
「――ぐ、ぅ……」
湖の中で、架瑠の手がなにかに刺された。その痛みに表情を歪め、深呼吸をして自身を落ち着かせた。そして、さらに霊視の力を強め、この状況を打開するものを探し――
「紬! あの大樹の下だ! 根元を狙って!」
「そこだな!」
血の湖の傍にある大樹。その根元を狙い、紬は炎を繰り出す。大樹の氷は圧倒間に溶け、その根元から誰かの骨が出てきた。茉莉はふらりと身体をふらつかせ、佑心に「おっと」と支えられた。気を失った彼女を抱き上げ、銀華に視線を向けた。
「大樹の下に、骨……!?」
「誰かがそこに埋めたんだろうね」
心当たりある? と佑心が尋ねたが、銀華は「あるわけないでしょ!」と叫ぶ。
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