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2章:異存
銀華のお願い 4話
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「銀華くんが恋人を氷漬けにさせたとき、銀華くんか恋人に感情移入したのかな? どう考えても墓じゃないから、成仏していなくて怨霊になった可能性も!?」
こんな状況だというのに、佑心は瞳をキラキラと輝かせて自身の考えを述べる。それを聞いた紬と銀華が「どうでもいい!」と同時に叫んだ。
「でも、わたしの力の暴走——……そういう理由があったのね」
おそらく、自分に同調したのだろうと銀華は目を伏せた。それなら――と銀華は紬の腕を掴んで彼を見上げる。
「お願い、炎ですべて終わらせて!」
「そのつもりだ」
銀華の手が離れたのと同時に、架瑠は血の湖から手を引き抜く。紬はそれを目視してから、自身の最大限の力を出し、辺りの雪を溶かした。
「湖の色が……!」
血の色をしていた湖の色がもとの色に戻り、銀華がぱぁっと表情を明るくさせた。氷漬けだった彼女の恋人も自由を取り戻し、ドポンと音を立てて湖の中に沈み、目を白黒させていたため、銀華は呆れたようにはぁ、とため息を吐く。
「仕方ないわね……」
銀華は自身の力で、湖に氷の橋をかける。紬の炎の影響か、力は暴走せずに彼女の思い通りになった。
「銀華ッ! お前、俺になんてことを……!」
「歯ぁ食いしばりなさい!」
氷の橋から銀華のもとまで駆け寄ってきた男性は、彼女に食って掛かろうとした。が、銀華は氷をまとった手で彼を殴りつけた。顔を、思い切り。
「あー、スッキリした! あんたみたいな浮気男、こっちから願い下げよ!」
ノックアウトされた男性は、生きているようだがピクピクと痙攣していた。
茉莉がこの場面を見ていなくて良かった、と架瑠は心底思い、ふと血の湖に入れていた手に視線を落とした。
あのぬちゃりとした感触と鉄の匂いを思い出し、ぞっと背中を震わせる。
だが、架瑠の手にはまとわりついた血も、刺されたと思った傷も残っていなかった。
「雪が……!」
積もっていた雪は一気に消え、氷華界という名に相応しい美しい氷の世界に変わっていく。
「本当にありがとう。あなたたちのおかげで、力の暴走を止められたわ」
「あ、いえ……一番の功績者は紬だと思います」
「いや、架瑠が霊視で見つけてくれたからだ。あの骨、しっかり供養してやれよ」
「ええ。……あ、もう時間みたいね。わたしはこれからいろいろ後処理しないといけないから……またね」
ひらひらと手を振る銀華に、架瑠は首をかしげる。またね、とは? と。
銀華の姿が段々とぼやけていく。徐々に意識が薄れていき――……気が付いたら自分の部屋で横になっていた。
「あれ? おれ……?」
「お目覚めかな?」
「蓮也さん!」
突然声をかけられて、架瑠は飛び起きた。ベッドの近くに椅子を持ってきていた蓮也は、開いていた本を閉じ、真剣な表情で架瑠を見つめる。
「……うん、ただ疲れちゃっただけのようだね」
「あの、蓮也さん、みんなは……?」
「それぞれ家に帰ったよ。きみたちが異界から帰ってきたのと同時に、こちらの世界の雪は跡形もなく消えた。怪奇現象だって大盛り上がりだったよ」
蓮也が肩をすくめると、架瑠は軽く頬をかく。
「なにがあったのか、話してくれるかい?」
架瑠は小さくうなずき、異界でのことを蓮也に話した。彼は決して架瑠の言葉を遮らず最後まで耳を傾けた。
「……そっか、いろいろ大変な思いをしたんだね。でも、無事に帰ってきてくれてよかった。今日はゆっくり休みなさい」
「……はい。あの、おれたち、どれくらいで戻ってきましたか?」
「ん? 二時間くらいかな? 九鬼くんが架瑠を背負ってきたからびっくりしたよ」
氷華界にいたとき、もっと時間が過ぎていたような気がした。もしかしたら、あちらのほうが時間の流れが早いのかもしれない。——と、考えたところで意識が薄れ始めた。
「――おやすみ、架瑠」
蓮也は架瑠の身体を支えて、横にしてから彼の頭を撫で、彼の部屋を出ていく。
翌日、六月の異常気象がいきなり終わったことについて、テレビやネットのニュースがそれ一色になった。
こんな状況だというのに、佑心は瞳をキラキラと輝かせて自身の考えを述べる。それを聞いた紬と銀華が「どうでもいい!」と同時に叫んだ。
「でも、わたしの力の暴走——……そういう理由があったのね」
おそらく、自分に同調したのだろうと銀華は目を伏せた。それなら――と銀華は紬の腕を掴んで彼を見上げる。
「お願い、炎ですべて終わらせて!」
「そのつもりだ」
銀華の手が離れたのと同時に、架瑠は血の湖から手を引き抜く。紬はそれを目視してから、自身の最大限の力を出し、辺りの雪を溶かした。
「湖の色が……!」
血の色をしていた湖の色がもとの色に戻り、銀華がぱぁっと表情を明るくさせた。氷漬けだった彼女の恋人も自由を取り戻し、ドポンと音を立てて湖の中に沈み、目を白黒させていたため、銀華は呆れたようにはぁ、とため息を吐く。
「仕方ないわね……」
銀華は自身の力で、湖に氷の橋をかける。紬の炎の影響か、力は暴走せずに彼女の思い通りになった。
「銀華ッ! お前、俺になんてことを……!」
「歯ぁ食いしばりなさい!」
氷の橋から銀華のもとまで駆け寄ってきた男性は、彼女に食って掛かろうとした。が、銀華は氷をまとった手で彼を殴りつけた。顔を、思い切り。
「あー、スッキリした! あんたみたいな浮気男、こっちから願い下げよ!」
ノックアウトされた男性は、生きているようだがピクピクと痙攣していた。
茉莉がこの場面を見ていなくて良かった、と架瑠は心底思い、ふと血の湖に入れていた手に視線を落とした。
あのぬちゃりとした感触と鉄の匂いを思い出し、ぞっと背中を震わせる。
だが、架瑠の手にはまとわりついた血も、刺されたと思った傷も残っていなかった。
「雪が……!」
積もっていた雪は一気に消え、氷華界という名に相応しい美しい氷の世界に変わっていく。
「本当にありがとう。あなたたちのおかげで、力の暴走を止められたわ」
「あ、いえ……一番の功績者は紬だと思います」
「いや、架瑠が霊視で見つけてくれたからだ。あの骨、しっかり供養してやれよ」
「ええ。……あ、もう時間みたいね。わたしはこれからいろいろ後処理しないといけないから……またね」
ひらひらと手を振る銀華に、架瑠は首をかしげる。またね、とは? と。
銀華の姿が段々とぼやけていく。徐々に意識が薄れていき――……気が付いたら自分の部屋で横になっていた。
「あれ? おれ……?」
「お目覚めかな?」
「蓮也さん!」
突然声をかけられて、架瑠は飛び起きた。ベッドの近くに椅子を持ってきていた蓮也は、開いていた本を閉じ、真剣な表情で架瑠を見つめる。
「……うん、ただ疲れちゃっただけのようだね」
「あの、蓮也さん、みんなは……?」
「それぞれ家に帰ったよ。きみたちが異界から帰ってきたのと同時に、こちらの世界の雪は跡形もなく消えた。怪奇現象だって大盛り上がりだったよ」
蓮也が肩をすくめると、架瑠は軽く頬をかく。
「なにがあったのか、話してくれるかい?」
架瑠は小さくうなずき、異界でのことを蓮也に話した。彼は決して架瑠の言葉を遮らず最後まで耳を傾けた。
「……そっか、いろいろ大変な思いをしたんだね。でも、無事に帰ってきてくれてよかった。今日はゆっくり休みなさい」
「……はい。あの、おれたち、どれくらいで戻ってきましたか?」
「ん? 二時間くらいかな? 九鬼くんが架瑠を背負ってきたからびっくりしたよ」
氷華界にいたとき、もっと時間が過ぎていたような気がした。もしかしたら、あちらのほうが時間の流れが早いのかもしれない。——と、考えたところで意識が薄れ始めた。
「――おやすみ、架瑠」
蓮也は架瑠の身体を支えて、横にしてから彼の頭を撫で、彼の部屋を出ていく。
翌日、六月の異常気象がいきなり終わったことについて、テレビやネットのニュースがそれ一色になった。
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