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最初で最後のわがまま。 2話
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「――姿勢が綺麗だったんだ。数多の令嬢の中で、誰よりも。その凛とした姿に惹かれた。それだけでは理由になりませんか?」
お母さまに視線を向けて問いかける。……彼と会ったのは、本当に一瞬の出来事だったはずだ。それなのに……その頃から、わたくしを想ってくださっていたの?
「俺がマティス殿下に勝ったら、婚約を白紙にすると、約束してください」
「……それで、陛下が納得すると思うかい?」
「いいえ。ですが、マティス殿下も望んだら? 自分の息子が婚約を白紙にしたいほど、マーセル嬢を望んでいると知ったら?」
にぃっと口角を上げるレグルスさまに、思わず目をパチパチと瞬かせた。
そういえば、マティス殿下は一度もわたくしとの婚約を白紙にするとは、言っていなかったわね。
マーセルを娶るとは言っていたけれど……それは、どちらのことを言っているのかしら。
……いえ、どちらでも構わないわ。
わたくしは、マティス殿下と結婚するつもりはないもの。
「――マティス殿下が、カミラとの婚約を白紙にしたいわけがないだろう」
「なぜ?」
「ベネット公爵家のものと結婚すれば、ベネット公爵家がマティス殿下を支えることになる。それは、彼が王位に近付くということだ」
「――偽りの公爵令嬢でも?」
ああ、わたくし、こんなに冷たい声が出るのね、と何度でも感心しちゃう。
わたくしの言葉に、ぴくりとお父さまの眉が跳ねた。
「わたくしは、あなたたちと血の繋がりのない、ただの他人ですわ」
家族に愛されたかったわたくしは、もういない。
マーセルの身体に入り、彼女として過ごすことでわたくしの心はもう固まったのよ。
ベネット公爵家の人々から愛されることは、もう望まないということを。
「カミラ!」
「お兄さまだって、本当はマーセルを可愛がりたいのでしょう? そうですわよね、マーセルは本当の妹ですもの。偽物のわたくしと違って」
目元を細めてお兄さまを睨みつける。彼の瞳は揺れていた。
なぜ、動揺するのかしら。ベネット公爵家の人たちは、ずっとわたくしのことを『家族』と認めていなかったのに。
「――ッ」
立ち上がったお母さまが、わたくしに手を上げようとしているのが見えた。すっと目を閉じて衝撃を待つ。
――でも、いつまで経っても衝撃はこなかった。
そっと目を開けると、レグルスさまがお母さまの手首を掴んでいるのが見え、目を大きく見開く。
「家族に対しても、他人に対しても行うことではありませんよね。それとも、この国ではこうやって子どもを育てるのですか?」
お母さまに視線を向けて問いかける。……彼と会ったのは、本当に一瞬の出来事だったはずだ。それなのに……その頃から、わたくしを想ってくださっていたの?
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「……それで、陛下が納得すると思うかい?」
「いいえ。ですが、マティス殿下も望んだら? 自分の息子が婚約を白紙にしたいほど、マーセル嬢を望んでいると知ったら?」
にぃっと口角を上げるレグルスさまに、思わず目をパチパチと瞬かせた。
そういえば、マティス殿下は一度もわたくしとの婚約を白紙にするとは、言っていなかったわね。
マーセルを娶るとは言っていたけれど……それは、どちらのことを言っているのかしら。
……いえ、どちらでも構わないわ。
わたくしは、マティス殿下と結婚するつもりはないもの。
「――マティス殿下が、カミラとの婚約を白紙にしたいわけがないだろう」
「なぜ?」
「ベネット公爵家のものと結婚すれば、ベネット公爵家がマティス殿下を支えることになる。それは、彼が王位に近付くということだ」
「――偽りの公爵令嬢でも?」
ああ、わたくし、こんなに冷たい声が出るのね、と何度でも感心しちゃう。
わたくしの言葉に、ぴくりとお父さまの眉が跳ねた。
「わたくしは、あなたたちと血の繋がりのない、ただの他人ですわ」
家族に愛されたかったわたくしは、もういない。
マーセルの身体に入り、彼女として過ごすことでわたくしの心はもう固まったのよ。
ベネット公爵家の人々から愛されることは、もう望まないということを。
「カミラ!」
「お兄さまだって、本当はマーセルを可愛がりたいのでしょう? そうですわよね、マーセルは本当の妹ですもの。偽物のわたくしと違って」
目元を細めてお兄さまを睨みつける。彼の瞳は揺れていた。
なぜ、動揺するのかしら。ベネット公爵家の人たちは、ずっとわたくしのことを『家族』と認めていなかったのに。
「――ッ」
立ち上がったお母さまが、わたくしに手を上げようとしているのが見えた。すっと目を閉じて衝撃を待つ。
――でも、いつまで経っても衝撃はこなかった。
そっと目を開けると、レグルスさまがお母さまの手首を掴んでいるのが見え、目を大きく見開く。
「家族に対しても、他人に対しても行うことではありませんよね。それとも、この国ではこうやって子どもを育てるのですか?」
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