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もう、我慢はしない。 1話

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 レグルスさまがわたくしをかばってくれた。そして、お母さまに冷たい言葉を浴びせている。彼の言葉に、お母さまは「離しなさいっ」と声を荒げた。

「どうしてそこまで、カミラ嬢を『完璧な公爵令嬢』にしようとしたんですか? カースティン男爵夫妻の子だから、にしては厳しすぎる気がするのですが?」

 呆れたようなレグルスさまの声に、お母さまは忌々しそうに表情を歪め、お父さまが立ち上がりそっとお母さまの方に手を置く。

「……マティス殿下の婚約者として、完璧な公爵令嬢が必要だからだ」
「完璧な公爵令嬢、ねぇ……。カミラ嬢、きみは完璧になりたいかい?」

 こちらを振り返り問いかけるレグルスさま。

 わたくしはゆっくりと首を左右に振った。……無理よ、わたくしには。

「いいえ。わたくしは、完璧ではありませんもの」

 マーセルの身体に入って、召使学科の人たちを見て気付いたの。

 普通の令嬢や令息は、『完璧』とは程遠いところにいるのだと――……

「公爵家の令嬢として、お母さまたちに厳しく育てられ……わたくしは、わたくしの自我を押し殺して生きていました」

 ベネット公爵家で過ごしていた年月を思い出しながら、一度言葉を切った。わたくしの前にいるレグルスさまの背中がとても大きく見える。

 手を伸ばして、彼の服を軽く掴む。そのことに驚いたのか、レグルスさまが目を丸くしてわたくしに視線を向け、それからふっと表情を緩めて小さくうなずいた。

 まるで、これからわたくしが伝えることを、肯定するかのように。

「――わたくしは、この国から出ていきます。誰がなんと言おうとも。レグルスさまたちと一緒に、リンブルグルに行きますわ」

 そして、わたくしはわたくしの人生をやり直すの。一から。

 ――そのとき、隣にいてほしいのは――……レグルスさまだ。

「ここまで育てていただいたことには、感謝しております。……それと同時に、恨んでもいます。あの部屋にわたくしを閉じ込めて、自我を奪ったことを」

 幼い頃から繰り返されたこと。言うことを聞かなければ閉じ込められていた部屋。

 家族に愛されたかったわたくしの気持ちを、利用していたこと。

「あなた方に利用されるわたくしは、もういませんわ」

 声は、震えなかった。

 よく言った、とばかりにレグルスさまがうなずく。

「さようなら、ベネット家の方々。――それを、伝えにきたのです」

 お母さまから習ったカーテシーをして、ベネット家の三人を置いて執務室から出ていった。

 ブレンさまが鎖をいてくれたおかげで、身体の中に力がみなぎってくるようだわ。今のわたくしに、怖いものはないと思えるくらいに。
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