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イルカショーのあとに。 2話
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ブレンさまはまだ食べていた。
いったい何個食べたのかしら、ブレンさま。すべて平らげて、「美味しかったですねー」と幸せにお腹を撫でている。
四人で一緒にフードコートをあとにして、クラスメイトたちの視線から逃れた。
「……刺さるような視線でしたね」
「もう少し、抑えてくれてもいいのにね」
頬に手を添えてつぶやくと、クロエはうなずいてくれた。マティス殿下の主治医である彼女と『マーセル』が一緒にいることも、リンブルグの王太子であるレグルスさまが一緒にいることも、おそらくこの国の貴族にとってはあまり面白くない状況でしょう。
レグルスさまたちと一緒にいるから、わたくしに手を出せない感じだろうし。
「……マーセルはずっと、こんな感じで過ごしてきたのかしら」
それを想像すると、ぞっと背筋に悪寒が走った。
クロエも複雑そうに表情を歪める。
その表情は、わたくしに対してなのか、マーセルに対してなのか……
「マーセル嬢は、どうしてなにも言わなかったのでしょうね」
ブレンさまが小首をかしげる。
「……本当にね」
先生たちに助けを求めることもしなかった。
それは、彼女のプライドなのかしら?
たった一人で立ち向かっていくのは、大変だったろうに。……彼女のことを、わたくしはなにも知らないわね。
「まぁ、なんにせよ……このトレードを終わらせるために、いろいろやってみないといけないわね」
「私も探してみます」
「ありがとう」
クロエが味方でいてくれる。
わたくしはもう、一人で立ち続けなくても良いのね。
そのことが、とても嬉しいの。
「私、退職届を出そうと思うんです」
「え?」
「一ヶ月後、カミラさまと一緒にいられるように」
――思わず、目を大きく見開いた。
彼女の表情は真剣そのもので……その気持ちが、決意が、わたくしに伝わってくる。
クロエの真摯なまなざしを受けて、小さく首を縦に振る。彼女の決意は固いみたいだ。
その決意の固さに反して、表情は柔らかい。
わたくしに姉がいるとしたら……こんな感じなのかしら?
お兄さまとは会話すらあまりなかったから……
「……本当に、いいの?」
「もちろんですよ。楽しみですね」
「……そうね」
一ヶ月後、わたくしたちはどういう関係になっているのだろう?
マーセルの身体になってから、自分でも知らなかった感情が湧きあがる。
自由に生きてみたいと、心の底から思えるようになったのは、ある意味成長……なのかしらね?
公爵邸にいた頃には思えなかった。
ずっといろいろなことに追われていたから、そんなことを考える余裕がなかったもの。
わたくしがわたくしでいられることが少なかったから、考えることをやめてしまった。だからこそ、考えていきたい。
わたくしにできることを――……
いったい何個食べたのかしら、ブレンさま。すべて平らげて、「美味しかったですねー」と幸せにお腹を撫でている。
四人で一緒にフードコートをあとにして、クラスメイトたちの視線から逃れた。
「……刺さるような視線でしたね」
「もう少し、抑えてくれてもいいのにね」
頬に手を添えてつぶやくと、クロエはうなずいてくれた。マティス殿下の主治医である彼女と『マーセル』が一緒にいることも、リンブルグの王太子であるレグルスさまが一緒にいることも、おそらくこの国の貴族にとってはあまり面白くない状況でしょう。
レグルスさまたちと一緒にいるから、わたくしに手を出せない感じだろうし。
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ブレンさまが小首をかしげる。
「……本当にね」
先生たちに助けを求めることもしなかった。
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「私も探してみます」
「ありがとう」
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わたくしはもう、一人で立ち続けなくても良いのね。
そのことが、とても嬉しいの。
「私、退職届を出そうと思うんです」
「え?」
「一ヶ月後、カミラさまと一緒にいられるように」
――思わず、目を大きく見開いた。
彼女の表情は真剣そのもので……その気持ちが、決意が、わたくしに伝わってくる。
クロエの真摯なまなざしを受けて、小さく首を縦に振る。彼女の決意は固いみたいだ。
その決意の固さに反して、表情は柔らかい。
わたくしに姉がいるとしたら……こんな感じなのかしら?
お兄さまとは会話すらあまりなかったから……
「……本当に、いいの?」
「もちろんですよ。楽しみですね」
「……そうね」
一ヶ月後、わたくしたちはどういう関係になっているのだろう?
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公爵邸にいた頃には思えなかった。
ずっといろいろなことに追われていたから、そんなことを考える余裕がなかったもの。
わたくしがわたくしでいられることが少なかったから、考えることをやめてしまった。だからこそ、考えていきたい。
わたくしにできることを――……
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