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授業を受けるわ。 2話
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椅子もきれいにして、すとんと座る。それと同時に先生が入ってきた。
「おはようございます。本日も一日がんばりましょう……あら、マーセルさんがこの時間からいるのは珍しいですね」
「おはようございます。ええ、今日は掃除が間に合いましたので」
掃除? ときょとんとした表情を浮かべる先生に、わたくしはにこりと微笑んでみせた。ちらりと先程までにやにやしていた人に視線を巡らせると、ちょっと顔から血の気が引いていた。……そんなに青ざめるなら、最初からやらなければ良いのにね。
それにしても、どうしてこんなに幼稚なことをしていたのかしら?
教室に一歩踏み込めば、なにかが飛んできて……きっとそれも、制服を汚すためのものだったのでしょう。制服の汚れを落とすために、彼女は授業に遅れていたのね、おそらく。
「それでは、授業を始めます」
先生がパンパンと両手を叩き、授業が始まった。
召使の授業って、どんな感じなのかしら?
いつもわたくしに仕えてくれていた侍女のことを思い出して、真剣に授業を受ける。
――思っていた以上に、楽しい授業だったわ。満足感がすごい。
召使と一言でまとめても、いろいろなタイプがあるのね。
「次は実技です。美味しい紅茶を淹れてみてください」
紅茶の淹れ方……いつも、侍女が淹れるように淹れたら良いのかしら?
人数も人数だから、わたくしの番がくるまで結構かかりそうね。
その予想通り、わたくしの番は最後だった。こそこそと笑うような声が耳に届く。
「では、最後にマーセルさん、お願いします」
先生に声をかけられ、立ち上がる。
歩いている途中、くすくすと嘲笑うような声が聞こえた。
いつも侍女が淹れてくれるお茶の淹れ方を思い出しながら、お茶を淹れてみようとして気付く。茶葉に対して、お湯の量がかなり少なりそうということに。
「先生」
「なんでしょうか?」
「お湯が足りないので、足してもよろしいですか?」
先生は目を丸くして、わたくしの手元を覗き込んでくる。そして、「おかしいですね……?」と口にした。
あれだけたっぷりの量を用意していたはずなのに、と小声でつぶやいていた。誰かが間違えしまったのか、それとも、ただ単にマーセルへの嫌がらせなのか。
「魔法で足しても?」
「え? ですが、マーセルさん……あなた、魔法が使えないのでは……?」
「大丈夫です」
すっと水を作り上げて、次に熱する。沸いたらポットの中に入れた。この程度の魔法なら、誰でも使えるはずだけど……マーセルは使えなかったのかしら?
だとしたら、『カミラ』の身体に入ったマーセルは、魔法が使えるのかしら? 今日の予定は実技だから……どうなったのか気になるわね。
いえ、それよりも……ちゃんと学園に登校できたのかも気になるわ。
あ、いけない。紅茶を淹れるんだったわね。侍女の淹れ方を思い出しながら淹れたら、そここそ上手にできた。
お茶の味も先生に好評だったから、もしかしたらわたくし、召使に向いているのかもしれないわね、と思わず口角を上げる。
――こうして、なんとかその日の授業を乗り切った。
「おはようございます。本日も一日がんばりましょう……あら、マーセルさんがこの時間からいるのは珍しいですね」
「おはようございます。ええ、今日は掃除が間に合いましたので」
掃除? ときょとんとした表情を浮かべる先生に、わたくしはにこりと微笑んでみせた。ちらりと先程までにやにやしていた人に視線を巡らせると、ちょっと顔から血の気が引いていた。……そんなに青ざめるなら、最初からやらなければ良いのにね。
それにしても、どうしてこんなに幼稚なことをしていたのかしら?
教室に一歩踏み込めば、なにかが飛んできて……きっとそれも、制服を汚すためのものだったのでしょう。制服の汚れを落とすために、彼女は授業に遅れていたのね、おそらく。
「それでは、授業を始めます」
先生がパンパンと両手を叩き、授業が始まった。
召使の授業って、どんな感じなのかしら?
いつもわたくしに仕えてくれていた侍女のことを思い出して、真剣に授業を受ける。
――思っていた以上に、楽しい授業だったわ。満足感がすごい。
召使と一言でまとめても、いろいろなタイプがあるのね。
「次は実技です。美味しい紅茶を淹れてみてください」
紅茶の淹れ方……いつも、侍女が淹れるように淹れたら良いのかしら?
人数も人数だから、わたくしの番がくるまで結構かかりそうね。
その予想通り、わたくしの番は最後だった。こそこそと笑うような声が耳に届く。
「では、最後にマーセルさん、お願いします」
先生に声をかけられ、立ち上がる。
歩いている途中、くすくすと嘲笑うような声が聞こえた。
いつも侍女が淹れてくれるお茶の淹れ方を思い出しながら、お茶を淹れてみようとして気付く。茶葉に対して、お湯の量がかなり少なりそうということに。
「先生」
「なんでしょうか?」
「お湯が足りないので、足してもよろしいですか?」
先生は目を丸くして、わたくしの手元を覗き込んでくる。そして、「おかしいですね……?」と口にした。
あれだけたっぷりの量を用意していたはずなのに、と小声でつぶやいていた。誰かが間違えしまったのか、それとも、ただ単にマーセルへの嫌がらせなのか。
「魔法で足しても?」
「え? ですが、マーセルさん……あなた、魔法が使えないのでは……?」
「大丈夫です」
すっと水を作り上げて、次に熱する。沸いたらポットの中に入れた。この程度の魔法なら、誰でも使えるはずだけど……マーセルは使えなかったのかしら?
だとしたら、『カミラ』の身体に入ったマーセルは、魔法が使えるのかしら? 今日の予定は実技だから……どうなったのか気になるわね。
いえ、それよりも……ちゃんと学園に登校できたのかも気になるわ。
あ、いけない。紅茶を淹れるんだったわね。侍女の淹れ方を思い出しながら淹れたら、そここそ上手にできた。
お茶の味も先生に好評だったから、もしかしたらわたくし、召使に向いているのかもしれないわね、と思わず口角を上げる。
――こうして、なんとかその日の授業を乗り切った。
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