【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花

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授業を受けるわ。 1話

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 さて、満足するくらい掃除をしていると、いつの間にか朝食の時間になったわ。

 食堂に向かえば良いのよね。普段はベネット邸からこの学園に通っていたから、なんだか新鮮ね。

 食堂まで足を進め、並んでいる人たちの後ろに立ち、自分の番がくるのを待つ。

 朝食を受け取って辺りを見渡すと、他の人たちがこちらを見ていることに気付く。ひそひそと話されているみたいで、良い気分ではない。マーセルは、この状況をどう思っているのかしらね。

 あまり人のいない場所に座って、朝食のロールパンを一口サイズにちぎり、ぱくりと食べる。

 普段、食堂って使わないから……なんだか不思議な感じだわ。コンソメスープを飲んでゆっくりと息を吐く。……ああ、こんなに緊張しない食事って、初めてかもしれない。

 そして、そんな中。わたくしを見てひそひそと話している人たちが視界に入る。

 注目されるのは、慣れているから気にならないのだけど……せっかくこんなに美味しいのだから、みんなも味わって食べれば良いのに。

 食堂の食事がこんなに美味しかったなんて、知らなかったわ。すべて美味しくいただいて、トレーを持って返却する。わたくしは思わず、食堂の方に話しかけた。

「ごちそうさまでした。とても美味しくいただきましたわ」
「あ、ありがとうございます……?」

 目を丸くしている彼女たちに軽く会釈をしてから、わたくしは一度部屋に戻った。干していた毛布を取り込み、あのあまり意味をなさないテキストとノートを持って、マーセルが授業を受けている教室へ足を進める。

 一応、この学園内のことは頭に入れているから、迷うことなく辿りつけた。

 教室の扉を開くのと同時になにかが飛んできたので、思わず魔法を使って防いでしまった。マーセルの身体だけど、自分の思った通りに魔法は使えるみたいで安心だわ。

「……!」

 教室にいる人たちが、驚いたように目を大きく見開いて言葉をんだ。わたくしは辺りを見渡して、マーセルの席を探す。

 ……とってもわかりやすかったわ。すっごく汚れていたから。小さく息を吐いて、机をきれいにした。魔法を使ってきれいにするのは、あまり好きではないけれど、このままの状況では授業を受けられない。

 椅子に視線を落とすと、椅子にもべったりとインクが塗られていた。マーセルが持っている制服は今着ている制服一着のみ。

 つまり、制服を汚して授業に出られないように仕向けているってわけね。

 ニヤニヤとしている人たちが見えて、そっと頬に手を添えて小さく息を吐いた。そして、本当にあわれんだ声でつぶやく。

「……可哀想な人たちね」
「な、な……!」
「こんな幼稚なことをして。自分たちの品性を落とす行為だということを、理解していないのでしょう? この国の民でありながら……なげかわしいわ」
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