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2:私の人生が動くとき

鉱物人形の回復のさせ方

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 テント内は少し騒ついているものの、気配が多いわりには落ち着いている。複数の鉱物人形たちが手当てを待っているのがわかった。この魔物襲撃の際に傷を負ったのだろう。
 たくさんいる鉱物人形のうち、独特の光沢を持った黒い外套をまとった青年にセレナは近づく。
 黒い外套を着た鉱物人形が座ったままで顔を上げた。透明感のある白い肌、複数の色が揺れる特殊な瞳。童顔で愛らしい顔立ちだが、肩幅はあるし背は高そうだ。彼はセレナを見てふっと笑った。

「――きみなあ。あまりオレを放置してると退屈で死んじゃうぞ」
「石に戻っても喚び戻してあげるわよ」
「それはありがたいが、できれば戻りたくはないな」
「それだけ喋れれば上等よ。偵察、お疲れ様。手当てするわ」

 ふたりのやりとりを見ていると、ずいぶんと信頼されているのがわかる。私の視線に気づいたのだろう、黒い青年と目が合った。

「ん? 新入りか?」
「研修生よ。私が面倒を見ることになったの」
「あー、それで連れてきたのか。なんかオレ、すごく格好悪くない?」
「名誉の負傷でしょ。胸張ってなさいな」

 セレナは彼の近くに膝をつき、なかなか患部を出そうとしない青年の黒い外套を引っ張って腹部を露出させる。脇腹が抉れていた。人間だったら血が出ていたり、うっかりしたら内臓が溢れていそうな傷に感じられたが、見えているのは濡れたような光沢のある黒っぽい石だ。正確にはそこに緑や青い色が散らばるように光っているのだけど。
 この感じ……黒い蛋白石の鉱物人形?

「いてて。あんまり乱暴にしないでくれよ。砕けちまう」
「思ったより深かったわね」

 患部周辺に触れると、彼は一瞬顔を歪めた。痛むのだろう。

「まさか複数体、次々に湧いてくるなんて思っていなかったからな。不意打ちされた」
「そう……戻ってきてくれてよかった」
「ん」

 セレナはテキパキと手当てをしていく。脇に提げていた鞄から包帯と気配が奇妙な石を取り出して、患部にくっつけて固定した。そこでちらっと私を見る。

「――ジュエルさん。今使ったのが魔鉱石。精霊使いが鉱物人形を回復させるのに使うアイテムよ」

 突然の講義の始まりに、私は自分がここに呼ばれた目的を思い出す。
 なるほど、守り石とも違う妙な気配は特殊な石だからなのか。納得である。
 セレナの講義は続く。

「市販されているのもあるけれど、私が使っているのは屑石に私が魔力を込めて作った特製品。彼、オパールは私の鉱物人形だから、私の魔力が含まれた石の方が回復が早いのよ」

 となると、アメシストとシトリンのために私もいくつか用意しておいたほうがよさそうだ。痛がっている姿はあまり長く見たくはない。
 それに鉱物人形とは魔力の相性があるらしいことは察している。鉱物人形になれるくらい精霊に祝福されている石であっても、精霊使いの誰もが従えられるわけではないということだ。
 私は説明を聞きながら頷く。

「この包帯も特製品。巻くだけで術が発動するようになってる。どちらもあとで作り方を教えるから、今は使い方だけ見て覚えておいて」
「は、はい」

 包帯が巻き終わると、魔力が患部に流れていくのが感じられた。オパールと呼ばれた黒い鉱物人形の表情が柔らかくなる。

「手元に魔鉱石がない場合は、粘膜接触が有効よ。一時的に保有する魔力量を上げる目的でも粘膜接触が早くて便利。最初は抵抗があるでしょうけど、生き残るためだと思って羞恥心は捨てた方が身のためよ」
「……はあ」

 説明されて、私が気の乗らない反応を返せば、オパールがクスクスと笑った。
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