23 / 123
2:私の人生が動くとき
鉱物人形の回復のさせ方
しおりを挟む
テント内は少し騒ついているものの、気配が多いわりには落ち着いている。複数の鉱物人形たちが手当てを待っているのがわかった。この魔物襲撃の際に傷を負ったのだろう。
たくさんいる鉱物人形のうち、独特の光沢を持った黒い外套をまとった青年にセレナは近づく。
黒い外套を着た鉱物人形が座ったままで顔を上げた。透明感のある白い肌、複数の色が揺れる特殊な瞳。童顔で愛らしい顔立ちだが、肩幅はあるし背は高そうだ。彼はセレナを見てふっと笑った。
「――きみなあ。あまりオレを放置してると退屈で死んじゃうぞ」
「石に戻っても喚び戻してあげるわよ」
「それはありがたいが、できれば戻りたくはないな」
「それだけ喋れれば上等よ。偵察、お疲れ様。手当てするわ」
ふたりのやりとりを見ていると、ずいぶんと信頼されているのがわかる。私の視線に気づいたのだろう、黒い青年と目が合った。
「ん? 新入りか?」
「研修生よ。私が面倒を見ることになったの」
「あー、それで連れてきたのか。なんかオレ、すごく格好悪くない?」
「名誉の負傷でしょ。胸張ってなさいな」
セレナは彼の近くに膝をつき、なかなか患部を出そうとしない青年の黒い外套を引っ張って腹部を露出させる。脇腹が抉れていた。人間だったら血が出ていたり、うっかりしたら内臓が溢れていそうな傷に感じられたが、見えているのは濡れたような光沢のある黒っぽい石だ。正確にはそこに緑や青い色が散らばるように光っているのだけど。
この感じ……黒い蛋白石の鉱物人形?
「いてて。あんまり乱暴にしないでくれよ。砕けちまう」
「思ったより深かったわね」
患部周辺に触れると、彼は一瞬顔を歪めた。痛むのだろう。
「まさか複数体、次々に湧いてくるなんて思っていなかったからな。不意打ちされた」
「そう……戻ってきてくれてよかった」
「ん」
セレナはテキパキと手当てをしていく。脇に提げていた鞄から包帯と気配が奇妙な石を取り出して、患部にくっつけて固定した。そこでちらっと私を見る。
「――ジュエルさん。今使ったのが魔鉱石。精霊使いが鉱物人形を回復させるのに使うアイテムよ」
突然の講義の始まりに、私は自分がここに呼ばれた目的を思い出す。
なるほど、守り石とも違う妙な気配は特殊な石だからなのか。納得である。
セレナの講義は続く。
「市販されているのもあるけれど、私が使っているのは屑石に私が魔力を込めて作った特製品。彼、オパールは私の鉱物人形だから、私の魔力が含まれた石の方が回復が早いのよ」
となると、アメシストとシトリンのために私もいくつか用意しておいたほうがよさそうだ。痛がっている姿はあまり長く見たくはない。
それに鉱物人形とは魔力の相性があるらしいことは察している。鉱物人形になれるくらい精霊に祝福されている石であっても、精霊使いの誰もが従えられるわけではないということだ。
私は説明を聞きながら頷く。
「この包帯も特製品。巻くだけで術が発動するようになってる。どちらもあとで作り方を教えるから、今は使い方だけ見て覚えておいて」
「は、はい」
包帯が巻き終わると、魔力が患部に流れていくのが感じられた。オパールと呼ばれた黒い鉱物人形の表情が柔らかくなる。
「手元に魔鉱石がない場合は、粘膜接触が有効よ。一時的に保有する魔力量を上げる目的でも粘膜接触が早くて便利。最初は抵抗があるでしょうけど、生き残るためだと思って羞恥心は捨てた方が身のためよ」
「……はあ」
説明されて、私が気の乗らない反応を返せば、オパールがクスクスと笑った。
たくさんいる鉱物人形のうち、独特の光沢を持った黒い外套をまとった青年にセレナは近づく。
黒い外套を着た鉱物人形が座ったままで顔を上げた。透明感のある白い肌、複数の色が揺れる特殊な瞳。童顔で愛らしい顔立ちだが、肩幅はあるし背は高そうだ。彼はセレナを見てふっと笑った。
「――きみなあ。あまりオレを放置してると退屈で死んじゃうぞ」
「石に戻っても喚び戻してあげるわよ」
「それはありがたいが、できれば戻りたくはないな」
「それだけ喋れれば上等よ。偵察、お疲れ様。手当てするわ」
ふたりのやりとりを見ていると、ずいぶんと信頼されているのがわかる。私の視線に気づいたのだろう、黒い青年と目が合った。
「ん? 新入りか?」
「研修生よ。私が面倒を見ることになったの」
「あー、それで連れてきたのか。なんかオレ、すごく格好悪くない?」
「名誉の負傷でしょ。胸張ってなさいな」
セレナは彼の近くに膝をつき、なかなか患部を出そうとしない青年の黒い外套を引っ張って腹部を露出させる。脇腹が抉れていた。人間だったら血が出ていたり、うっかりしたら内臓が溢れていそうな傷に感じられたが、見えているのは濡れたような光沢のある黒っぽい石だ。正確にはそこに緑や青い色が散らばるように光っているのだけど。
この感じ……黒い蛋白石の鉱物人形?
「いてて。あんまり乱暴にしないでくれよ。砕けちまう」
「思ったより深かったわね」
患部周辺に触れると、彼は一瞬顔を歪めた。痛むのだろう。
「まさか複数体、次々に湧いてくるなんて思っていなかったからな。不意打ちされた」
「そう……戻ってきてくれてよかった」
「ん」
セレナはテキパキと手当てをしていく。脇に提げていた鞄から包帯と気配が奇妙な石を取り出して、患部にくっつけて固定した。そこでちらっと私を見る。
「――ジュエルさん。今使ったのが魔鉱石。精霊使いが鉱物人形を回復させるのに使うアイテムよ」
突然の講義の始まりに、私は自分がここに呼ばれた目的を思い出す。
なるほど、守り石とも違う妙な気配は特殊な石だからなのか。納得である。
セレナの講義は続く。
「市販されているのもあるけれど、私が使っているのは屑石に私が魔力を込めて作った特製品。彼、オパールは私の鉱物人形だから、私の魔力が含まれた石の方が回復が早いのよ」
となると、アメシストとシトリンのために私もいくつか用意しておいたほうがよさそうだ。痛がっている姿はあまり長く見たくはない。
それに鉱物人形とは魔力の相性があるらしいことは察している。鉱物人形になれるくらい精霊に祝福されている石であっても、精霊使いの誰もが従えられるわけではないということだ。
私は説明を聞きながら頷く。
「この包帯も特製品。巻くだけで術が発動するようになってる。どちらもあとで作り方を教えるから、今は使い方だけ見て覚えておいて」
「は、はい」
包帯が巻き終わると、魔力が患部に流れていくのが感じられた。オパールと呼ばれた黒い鉱物人形の表情が柔らかくなる。
「手元に魔鉱石がない場合は、粘膜接触が有効よ。一時的に保有する魔力量を上げる目的でも粘膜接触が早くて便利。最初は抵抗があるでしょうけど、生き残るためだと思って羞恥心は捨てた方が身のためよ」
「……はあ」
説明されて、私が気の乗らない反応を返せば、オパールがクスクスと笑った。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる