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2:私の人生が動くとき
研修を始めましょう
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「マスター?」
アメシストに声をかけられて、私は意識を現実に戻す。
「はい、なんでしょう」
「僕は君に学んでもらいたいよ。僕たちのこと、もっと知ってほしいし、君に危険が及ぶようなことはあってほしくないから」
「俺もそうだ。このままでは違法行為になってしまう。石に戻ることになっても構わないが、できれば俺は君と一緒に過ごしていきたい」
「……そうですね」
実家がなんと言うかが問題なのだ。元婚約者はよりを戻そうなどとは言ってこないだろう。だが、両親や兄がいい顔をしないことはわかる。
「なにか問題があるのか?」
「家庭の事情が、ね」
シトリンの問いに、私は苦笑した。
まあ、こんな状況だし、家には嘘をついておくか。
私は片手をあげる。
「あの、ひとつお願いをしてもいいですか?」
「何かしら?」
女性職員は首を傾げた。
「実家に、私の入院が長引いていると連絡していただけませんか? 研修中の私を匿っている間、入院していることにしてほしいんです」
「お安い御用よ。研修中は寮生活になるから、どうせ家には戻れないでしょうし、外出も基本的には不可だから」
ええー。私の人生、ひたすら不自由なのはなんなんですかね?
外出不可の軟禁生活には慣れっこだが、一般人はもっと自由に買い物に行ったり遊びに行ったりしているんじゃなかろうか。
いろいろ言いたいことはあるが、それは彼女に抗議することでもないので言葉をぐっと飲み込む。
「助かります。そういうことであれば、研修をお願いいたします」
私が依頼をすれば、アメシストとシトリンが手を取り合って喜んでいた。
可愛いね、君たち。
見た目は二十代前半なのに、時々子どもっぽい行動をするのは喚び出されてから日が浅いからだろうか。
私の最初の鉱物人形が彼らでよかったな。
「ふふふ。任せて。改めて自己紹介するわね」
そう告げて、彼女は手を差し出した。
「私はセレナ。これからあなたに精霊使いとしての知識と技術を教えていく教官よ。よろしく、ジュエルさん」
セレナと名乗った女性職員はニコッと笑った。
「……え。あなたが教官……?」
「あら、不満かしら? 今は現場にいることが多いけれど、精霊使いでもあるのよ? 術も使えるし。ああ、そっちも興味があるなら教えられるから、なんでも聞いて」
私があからさまに怪訝な顔をしたにもかかわらず、彼女は朗らかに返してきた。
セレナさん、か。
正直苦手なタイプなのだが、悪い人ではないとは思っている。ほかにどんな人物がいるのかはわからないし、男性が教官になっても困る。ここは妥協しよう。
「それはありがたいです。身を守る方法は複数あった方がいいと思いますので。――こちらこそ、よろしくお願いします、セレナさん」
私は差し出された手を握り返した。
「で、早速なんだけど、鉱物人形の回復のさせ方を教えるから、一緒に来てちょうだい」
回復のさせ方。
手っ取り早い方法が粘膜接触だと言われたのを思い出す。いや、こんな場所でそれはないんだろうけど。
握った手をそのまま引かれて案内される。声をかけなくてもアメシストとシトリンが付き添ってくれた。
「光景が衝撃的かもしれないけど、鉱物人形はあくまでも人に似せた器だからね。怖がらなくても大丈夫」
少し離れた場所に設営されたテント群。その中の一つに私たちは案内された。
アメシストに声をかけられて、私は意識を現実に戻す。
「はい、なんでしょう」
「僕は君に学んでもらいたいよ。僕たちのこと、もっと知ってほしいし、君に危険が及ぶようなことはあってほしくないから」
「俺もそうだ。このままでは違法行為になってしまう。石に戻ることになっても構わないが、できれば俺は君と一緒に過ごしていきたい」
「……そうですね」
実家がなんと言うかが問題なのだ。元婚約者はよりを戻そうなどとは言ってこないだろう。だが、両親や兄がいい顔をしないことはわかる。
「なにか問題があるのか?」
「家庭の事情が、ね」
シトリンの問いに、私は苦笑した。
まあ、こんな状況だし、家には嘘をついておくか。
私は片手をあげる。
「あの、ひとつお願いをしてもいいですか?」
「何かしら?」
女性職員は首を傾げた。
「実家に、私の入院が長引いていると連絡していただけませんか? 研修中の私を匿っている間、入院していることにしてほしいんです」
「お安い御用よ。研修中は寮生活になるから、どうせ家には戻れないでしょうし、外出も基本的には不可だから」
ええー。私の人生、ひたすら不自由なのはなんなんですかね?
外出不可の軟禁生活には慣れっこだが、一般人はもっと自由に買い物に行ったり遊びに行ったりしているんじゃなかろうか。
いろいろ言いたいことはあるが、それは彼女に抗議することでもないので言葉をぐっと飲み込む。
「助かります。そういうことであれば、研修をお願いいたします」
私が依頼をすれば、アメシストとシトリンが手を取り合って喜んでいた。
可愛いね、君たち。
見た目は二十代前半なのに、時々子どもっぽい行動をするのは喚び出されてから日が浅いからだろうか。
私の最初の鉱物人形が彼らでよかったな。
「ふふふ。任せて。改めて自己紹介するわね」
そう告げて、彼女は手を差し出した。
「私はセレナ。これからあなたに精霊使いとしての知識と技術を教えていく教官よ。よろしく、ジュエルさん」
セレナと名乗った女性職員はニコッと笑った。
「……え。あなたが教官……?」
「あら、不満かしら? 今は現場にいることが多いけれど、精霊使いでもあるのよ? 術も使えるし。ああ、そっちも興味があるなら教えられるから、なんでも聞いて」
私があからさまに怪訝な顔をしたにもかかわらず、彼女は朗らかに返してきた。
セレナさん、か。
正直苦手なタイプなのだが、悪い人ではないとは思っている。ほかにどんな人物がいるのかはわからないし、男性が教官になっても困る。ここは妥協しよう。
「それはありがたいです。身を守る方法は複数あった方がいいと思いますので。――こちらこそ、よろしくお願いします、セレナさん」
私は差し出された手を握り返した。
「で、早速なんだけど、鉱物人形の回復のさせ方を教えるから、一緒に来てちょうだい」
回復のさせ方。
手っ取り早い方法が粘膜接触だと言われたのを思い出す。いや、こんな場所でそれはないんだろうけど。
握った手をそのまま引かれて案内される。声をかけなくてもアメシストとシトリンが付き添ってくれた。
「光景が衝撃的かもしれないけど、鉱物人形はあくまでも人に似せた器だからね。怖がらなくても大丈夫」
少し離れた場所に設営されたテント群。その中の一つに私たちは案内された。
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