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騎士科

ヘアクリーム

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僕の髪をさっきからゆっくりと撫で下ろすその指遣いに、風呂上がりの僕は気持ち良くなって目を閉じてしまった。椅子にくったりと寄りかかってエイデン様に髪の手入れを委ねるのは何とも贅沢だった。

エイデン様が選んでくれた柑橘の爽やかな香りの中に、ほのかな甘さを感じる匂いは僕をうっとりとさせた。

「…サミュエル眠くなってしまったのかい?」


優しいエイデン様の声が朧げに聞こえる。僕は返事をしようと思ったのに、唇は動かなかった。耳元でクスクス笑うエイデン様の優しい吐息を感じながら、僕はゆっくり抱き上げられた気がした。

気づけばベッドに横たわっていて、エイデン様がベッドから立ち上がる所だった。

「…エイデン様、ごめんなさい。…僕眠ってしまったんですね?」


エイデン様は僕の頭を撫でて言った。

「今日はボディマッサージもしてあげようかと思ったんだけど、もう眠いみたいだから今夜はもうおやすみ。明日からは新学期で忙しくなる。朝は起こしてあげなくても大丈夫かい?」

僕は頷いた。流石にこれ以上面倒を見させるのは申し訳なかった。エイデン様が僕に掛け物を掛けてそのまま出て行こうとするから、僕は思わず声を掛けてしまった。


「あ、あの。」

エイデン様が振り返って僕を見つめた。途端に僕は自分が何を期待して声を掛けたのか気づいてしまった。きっと僕は顔が赤くなっているだろう。

「…何でもないです。おやすみなさい!」

僕はそれだけ言うと、掛け物を被ってしまった。


するとギシリとベッドが沈む気配がして、掛け物がサッと取り払われてしまった。目を見開いた僕に、エイデン様がにっこり微笑んで顔を近づけて来た。

そして僕の顔の吐息が感じるほどの近くに寄ると、甘い声で囁いた。

「…これが正解?」


そう言って、僕の唇にゆっくりと覆う様に唇を押し付けた。いつもより長いそれは少し苦しくて、僕は思わず口を開いて息を吸った。その時に僕の舌が、エイデン様の唇に微かに触れた。舌に触れるぬるりとした感触が僕をビクリと驚かせて、硬直させた。

少し困った顔で微笑んだエイデン様が、もう一度軽く僕に触れるだけのキスするとゆっくり立ち上がってもう一度おやすみと声を掛けて部屋から出て行った。

僕は扉からエイデン様の姿が消えてもボウッとしながら見つめるしかなかった。今の…、何か違った?えっちだった気がする…。僕はすっかり眠れなくなって次の日危うく遅刻する所だった。




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