お家乗っ取りご自由に。僕は楽しく生きていきますからね？

お家騒動

懐かしのベーリン街

ほぼ二年ぶりのこの街は、只々懐かしさを感じた。僕は口元が緩むのを感じながら馬車止めを降りて歩き出した。

「ちょっと、待ってくれよ、サミュエル。私たちを置いていかないでくれ。」

僕は後ろを着いてくるローリーとジョナサンを振り返って、ため息をつきながら腕を組んで睨んだ。

「別に君たちに着いてきてくれなんて頼んでないし、勝手に着いてきたのは君たち自身なんだからね？大体、後ろの護衛がマジで邪魔なんだけど。これじゃあ、街の人たちが怖がるだろう？」


ローリーが慌てて言った。

「いやいや、エドワード様に頼まれたんだからしょうがないだろう？サミュエルがどうしても今日いくって聞かないし。」

僕はにっこり笑って言った。

「だって、僕の仲良しのロッキンが自分の店を出すんだよ？お祝いに行くのは当然だろう？僕の恩人なんだから！ふふふ。」

ローリーとジョナサンは顔を見合わすと、ジョナサンがご機嫌な僕をジト目で見つめながら肩をすくめて言った。


「これだもの。そりゃエドワード様が心配するわけだよ。ロッキンだっけ？今14か、15歳だろう？それで自分の店を出すとか相当なやり手じゃないか。」

僕はジョナサンの言葉にクスクス笑って言った。

「そうなんだよ！ロッキンは僕が出会った頃から、やっぱり他の子とはちょっと違ったんだよ？あー、楽しみだなぁ！あ、ロッキンは貴族じゃないけど、僕の友達なんだからね？失礼な事しないでよね？」


僕がはやる心をドキドキさせてベーリン街を歩き始めると、周囲がザワザワと僕たちを遠巻きにしているのを感じた。普段こんなに大勢の護衛を引き連れて貴族が街中を歩く事などそうないのだろう。

僕はやっぱり一人でこっそり来るべきだったのだと今更ながら後悔していたんだ。どうせ街を騒がせるのなら、さっさとロッキンに会おうと僕はそれこそ小走りでロッキンのお母さんの小売店目指して向かったんだ。


目の前には見覚えのあるあの小さな店はどこにも無かった。その代わり大きな洒落た店が建っていた。僕が看板を眺めていると、店の大きな扉が開いて青年が出てきた。

「…サミュ！」

あの短髪は少し伸びて、体格も良くなった大人びたロッキンがそこに居た。僕は思わず走ってロッキンの腕の中に飛び込んだ。

「ロッキン！お別れを言えなくて気になっていたんだ！元気だった？すっかり大人になって、びっくりだよ。」

僕が見上げると、ロッキンはあの琥珀色の瞳をきらめかせて弾ける様に笑って言った。

「俺こそ驚いたぞ！サミュが王都を騒がすケルビーノ伯爵家の本物の後継だったなんてな。…元気そうで、嬉しいよ。サミュ。」

僕たちは笑い合って、それこそローリー達に引き剥がされるまで抱き合っていたんだ。