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ヴィレスクの地へ

流行り病

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僕は随分気が弱くなってしまっていたんだろう。ポロポロと涙が溢れるのを止める事が出来なかった。少し熱い身体は軋んで、怠かった。気づけば側にいた優しそうなおじいちゃん医者が、僕の喉や胸の音を聞きながら夫人に言った。

「侯爵夫人、昨日よりは随分良くなっている様です。ただ、もう二、三日ベッドの上でゆっくりさせたほうが良いでしょうね。


しかし、小さな頃に罹るこの病気に、大きくなってから罹るとやはり症状は重くなるのは致し方ないでしょうな。後は執事に薬の事を話しておきますから。

侯爵家の子供たちはもう罹ったことが有りますからね、近づいても大丈夫ですが…。今日明日は会わせずに静かに休ませて上げて下さい。さっきもえらい剣幕で私に詰め寄って来ましたよ。ホッホホ。」


僕は仮病のつもりが実際に病気になってしまっていたんだと分かって驚いたけれど、一方で兄様のご友人に紹介されない堂々とした理由になってホッとしていた。それに侯爵と夫人に優しくされて、気が弱くなって馬鹿みたいにグスグス泣いてしまった。

僕の17歳の心がどんどん年相応になっていくのは、どうしてなんだろう。僕はすっかり9歳の子供の様に振る舞う様になってしまったのを自覚していた。


「…僕、侯爵と夫人に…、ご迷惑…かけてしまって…、ごめんなさい…。」

僕の声はびっくりするくらい掠れていた。そして涙は馬鹿みたいに溢れてしまった。ああ、こんなに泣いてしまったら、きっとどんどん心配をかけてしまう。そう思うのに、止められなかった。

夫人は僕の手を握ってにっこり笑って優しく言った。


「サミュエル、そんなに泣いてしまったら、頭が痛くなるわ。さぁ、もう心配する様なことは無いから、安心しておやすみなさい。直ぐに良くなるってお医者様も言っていたでしょう?」

侯爵も僕の頭を撫でながら、重ねる様に言った。

「思えば、生活が大きく変わってずっと気が張り詰めていたんだろう。丁度良い機会だから、ゆっくり休みなさい。子供なのだからすぐに良くなるさ。

欲しいものがあったら、何でも執事かメイドに言いなさい。」


侯爵たちが部屋から出ていくと、僕は部屋付きのメイドのケリーにやさしく看病された。僕はうとうとと微睡みながら、何も考えずにこうしてベッドの中で丸まっていられる事に、妙に安心してしまっていたんだ。

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