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サミュとサミュエル

僕は『街の子供』

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「サミュ、今日は遅かったな!」

そう声を掛けてきたのは、このベーリン街のガキ大将のロッキンだった。皆より大柄で、焦茶色の短い髪と琥珀色の瞳をきらめかしている。僕より4歳年上のロッキンは、知り合ってから何かと面倒を見てくれるんだ。そして僕は、ロッキンたち街の子供達に色々な事を教わっている。

12歳のロッキンは家の小売の商売を手伝っていて、時々僕も手伝わせてもらっている。目立つのは困るので帽子を目深に被って裏に籠りながら、売り上げに貢献出来る様に袋詰めしたり、アイデアを出したりしているんだ。


「ロッキン!こんにちは。今日は乗り合い馬車が混んでいたんだよ。おばあさんに席を譲って、途中で降りて歩いてきたから遅くなっちゃった。」

そう言ってにっこり笑うと、ロッキンは頭を掻きながら呆れた様に言った。

「お前はお人好しだな。そんな事じゃ、この街じゃやっていけないぜ?まぁ、サミュらしいって言えばそうだけどな。そう言えば、先日お前が考えてくれたスープ用の香味セットあったろう?

あれが大反響で、俺は昨日夜中までセットを作ってたんだぜ。それでお袋がサミュにお礼に何か食べさせてやれって、小遣いくれたから、一緒に何か甘いものでも食べに行こうぜ?」


そう言って僕の手を繋いで歩き始めた。ロッキンがこうやって僕のことを可愛がってくれているのは、街の子供達も知るところで、すれ違う彼らは慣れた様子で僕たちに声を掛けてくる。

最初この街に視察がてら遊びに来た時は、地図を買ってウロウロしていたせいで、随分皆に揶揄われた。けれどその時に、僕に声を掛けてくれたのがロッキンだったんだ。


それ以来、ロッキンは僕の保護者の様な立場になっているみたいだ。基本僕は帽子を脱がないけれど、一度だけロッキンと雨宿りをした何処かの店の軒下で、帽子についた雨を払うために脱がされた時があった。

そういえばそれ以来かもしれない。ロッキンが妙に過保護に僕の面倒を見るようになったのは。何となく僕が事情を抱えているのは気づいている様だけど、あえて聞いてこないのが多分12歳という、街の子供の大人びたところなんだろう。


ロッキンは甘い香りのする焼き菓子の店の前に立ち止まると、りんごジャムの挟まったビスケットを二つ買って、ひとつを僕に渡してくれた。口いっぱいに広がるその甘くて爽やかな味を愉しみながら、僕はこの世界で目覚めた時のことを思い出して居たんだ。
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