竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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本当に成るようになる?

ドキドキの拝謁

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 「ふむ。そちが龍神なるメダ殿か。竜の国の王、シバルじゃ。我が治世で龍神殿にお眼通りが叶うとは、考えもしなかったのう。それは吉凶の兆候、なのか?」

 目の前のこの国の王様は黄金の竜を予想させる見かけをしていた。燻された様な長い金髪を撫で付けて、金色めいた眼光の鋭いこの御仁は、全く抜け目のない雰囲気だった。

 歳の頃も、多分だけどパーカスとそう変わらないか、少し若いのかな。

 パーカスが以前話してくれた様に、この国が以前戦争をしていたものの、ここ何百年も落ち着いた治世である事を考えると、この御仁の手腕の賜物でもあるのかもしれない。


 僕が後ろの方でそう考えながら俯いて立っていると、前方の王様と遜色ない真っ黒い豪華な椅子に座ったメダが、声を響かせて言った。

「吉凶かどうかは、私にも分からぬな。私も自分の意図でここに引き寄せられた訳ではないからな。まぁ、しばらくはこちらで過ごすつもりだ。」

 僕は密かにこの王様との謁見の場を見回した。僕が思い描く王宮の豪華絢爛と言うより、力強さがここにはあった。大理石の様な石造りの部屋は質実剛健という様子で、唯一贅沢なしつらえだったのは王座の椅子だけだった。金で縁取られたそれは、僕の期待を裏切らない。


 部屋の入り口と、王様の側には鎧に身を固めた騎士らが二人ずつ立っている。王様の権威を示しつつも、多分護衛も兼ねているのだろう。僕らをここまで案内してくれたバルトさんとブランさんは部屋の端で王様の従者と共に控えていた。

 僕が彷徨わせていた視線をバルトさんに捕えられて、僕は思わずニコリと微笑んだ。この分だと僕の出る幕はなさそうだと、少し気が緩んでいたせいもある。

 バルトさんは少し強張った表情で、心配そうな空気を醸し出しながら表情は変えなかった。お仕事中だもの、合図はくれないか。


 「龍神殿が現世に降り立った経緯を聞いたが、パーカスの息子がきっかけというのは本当か?」

 そう王様が言葉にして、僕は分かりやすくギクリと身体を強張らせた。いきなりぶっ込んできた。僕は思わずパーカスの後ろで身体を小さくした。王様が僕に気づかなければ良いのに。

 とは言え、メダの座っている椅子の隣で立っているパーカスの後ろに隠れようが、王様には見えているのかもしれない。でも僕は自分からは火の中には飛び込まないつもりだった。


 「はて、私の息子が関係あるかは疑問ですがの。ブレーベルの高等学院内の祭壇が学生達に出入り自由になっていたということの方が問題やもしれませぬ。そう考えると、魔素を貯めがちな体質の私の息子は、神憑きで危うく命を落としそうになった被害者でもあるようですぞ。」

 ん?パーカスが何か王様とメダを責めてるっぽいなぁ。強気だな、パーカス。ふふふ。

 僕が思わず口元を緩めていると、メダがチラッと後ろを振り返って僕を見た。


 「…確かに祭壇が無ければ、我は現世に引っ張られはしなかったやもしれぬな。この者は私の生贄として台の上に転がり出たのだからの。もっともこの世界の他の竜人や獣人では、我を呼び出す様な強力な魔素は望めぬだろうな。

 そういう意味では、他のどの祭壇も今回と同様の事を起こす心配はないだろう。」

 あれれ、またメダが僕を血祭りにあげたよ。僕は王様の目に止まりたくないのに!案の定王様は少し気色ばんで、空気をピリピリと緊張させた。


 「…パーカスの息子、前に。」

 王の名指しを受けてしまった僕は密かにため息をつくと、空いたパーカスの右隣りへと足を踏み出した。僕に王様だけでなく、部屋の騎士達の視線も絡む気がする。

 僕は腰を折ると胸に手を当てて言った。

「…パーカスの息子、テディでございます。王様に拝謁出来て光栄に思います。」


 顔を上げると、王様が僕をじっと見つめてきた。うん、めっちゃ見てくるね。居た堪れなくなった僕は思わずパーカスの方を見上げた。パーカスはそんな僕に微笑んで、そっと背中を撫でてくれた。

「王様、テディはまだ16、7歳やそこらの若輩者ですぞ。そう厳しい視線を投げかけては萎縮してしまいます。」

 そう、王様に苛立った様に言葉をかけたパーカスに、王様は眉を上げた。

「パーカスが溺愛しているというのは、噂通りのようだ。確かにこの国の獣人や、竜人とは別物の様相だな。迷い人とはこんなに儚いものであるのか?」


 僕はまたもや虚弱だと悪口を言われた気がして、思わずジト目になった。どいつもこいつも自分らがマッチョだからって僕の事馬鹿にし過ぎなんだよ!

 僕が内心むくれていると、メダが面白そうに笑って王様に注意してくれた。

「王よ、我が愛し子である生贄が腹を立ててるぞ?こやつは自分の姿があまり好きではないようでな。迷い人は美しさの捉え方が違う様じゃ。ハハハ。」


 そうだよ。間違っても儚げとか、虚弱を思わせる事を言って欲しくないよ。僕が王様を見上げると、少し驚いた様に王様は僕と目を合わせると首を傾げた。

「何とも難しいものじゃな、パーカス。塔の長老曰く、ここ最近の辺境付近での不穏な出来事は、この世界のきしみのせいだと言っておったわ。迷い人であるパーカスの息子の出現も同様にな。

 …龍神様、この軋みはまだ続くのでありましょうか。」


 メダは少し間を開けて、王様をじっと見つめた。 

「そなたは良くこの国を治めていると言えるだろう。が、そもそも竜の国は荒ぶる大地の上にある。時には発散が必要という事なのだ。

 テディが迷い人となって、この世界に放り出されたのには意味がないとは言えぬ。ここ最近のこやつの関わりを見れば一目瞭然では無いか?特に軋みの大きな辺境の地が、厄災に見舞われながらも大きな被害に陥らなかったのは、常にこやつの動きがある。パーカスならよく知ってるな?」


 ん?メダは僕を助けるふりして、注目させたんじゃないの?僕が眉を顰めていると、王様は僕を見てため息をついた。

「パーカスの顔を見ればそれが真実なのだと示しておるな。…迷い人よ、其方はどうしたい?其方を王宮で保護するのは容易いが、賛成は得られなさそうじゃ。」

 ピリピリとした空気がパーカスから醸し出されているのを感じて、僕は王様に率直に言う事にした。


 「王様、僕は何の因果かこの異世界に迷い出てきてしまいました。不安で押しつぶされそうな時に、僕を保護して世話を焼いてくれた僕の親愛なる父となったパーカスが居なければ、あっという間に魔物に喰われてしまった事でしょう。

 確かに僕は自分の世界の知識を運良く少し役立てる事もあったかもしれません。けれども僕はまだ若輩者で学生の身。慣れ親しんだ辺境の地で、しばらく時を過ごしたいと存じます。」

 王様は僕をじっと見つめると、今度はメダに話し掛けた。

「…龍神殿はこれからどう過ごすおつもりですかの?」


 メダは薄く笑って言った。

「…王はワレが大きな吉凶の元だと良く分かっている様だ。今言えるのは、この可愛い生贄は私のお気に入りである事くらいだ。心配はせずともこの生贄はこんななりをしていても、我を神とも思わぬふざけた奴よ。

 それも我の気に入っている面ではあるがな。ひとつ助言をしてやるとすれば、軋み自体は全土に渡るものよ。大きく表面化するのが辺境方面であるとしてもな。

 王はせいぜい他の場所の厄災の火の粉を振り払う事に勤しむ事だ。」

 
 今メダは大事な事を言ったのかな。これからこの国が軋みによって色々問題が生じやすいって。この部屋の空気が一気に重くなったのを見れば確かだろう。

 でも僕は今まで通り過ごせる事になりそうだ。メダの鶴の一声でそれは確定したっぽい。たまには良い事するね、さすが神さま。




 












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